二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- 夕焼け小焼け。 ( No.3 )
- 日時: 2011/07/03 18:32
- 名前: 桃李 ◆J2083ZfAr. (ID: 6B38yoz9)
「お前さ、」
よく笑うようになったよな。
そう嬉しそうに僕のことを話す彼に、疑問を抱いた。僕はいつだって笑ってたけどなあ。別に毎日、辛かったわけじゃないし。雷門はそこそこ良い学校だし。面白い生徒ばっかりだし。髪型の規律がこんなに易しいとは思わなかったよ、うん。
僕の不機嫌そうな表情から、誤解されたと勘違いしたのか、円堂は慌てて言葉を紡ぐ。
「いや、無愛想とかじゃなくて、今まで退屈そうだったから」
「うーん……そうなのかなぁ?」
退屈、ね。確かに雷門は周りも面白いし、騒動も在り来たりじゃなくて楽しいし、いじめっことかは夏未が粉砕してくれてるし……まあ、平和だ。だけど、普段人との交流をシャットダウンしがちな僕の周りはあまりにも平和過ぎて。逆につまらなかったのかも、しれない。あー言われてみればそーかもーとくぐもった声で言葉を返す。突っ伏した机からは、こもった木の匂いがした。
暖かな夕陽の匂いもする。途端に重くなる僕の瞼。頑張れー、部活開始時刻まであと少しだ。
「まあ、笑顔はうつるってよく言うし」
「ホントかよ、それ」
「自覚してないのかこの原因者め」
くすり、囁きにも満たない小さな小さな笑みが唇から零れる。ああホント、よく笑うようになりましたね、僕。
「でもさー、サッカー部にくればもっと楽しくなると思うぞ!」
「え、何それ勧誘? だから僕はヤル気無いって言ってるじゃん」
へらりと作りかけの笑顔を顔面に張り付けると、円堂はむぅと頬を膨らませる。嗚呼、キャプテンがしつこいサッカー部ってのは本当だったのかーと円堂と仲良くしてきたことに若干の後悔を覚える。捕まったら最後、絶対に逃げられないって話だし。あ、でも、
僕がその『円堂守突破伝説』を作り上げちゃえば良いんだ!
「葵、豪炎寺よりしぶといな」
「円堂には言われたくない」
にこにこと何が楽しいのか、眩しい笑顔を絶やさぬ彼が眩しくて。ふいっと顔を背ける。けれど相変わらず、声は頭上から降ってきて。
「なぁなぁ、良いだろー?」
そこまで言われると、逆に闘争心が燃え上がる。うん、絶対に入部しないんだから。入りたいなんてそんなこと、微塵も思ってないし。勘違いだし、多分。
「それに葵が入ってきてくれたら俺、もっと楽しくサッカーできると思うんだ!」
「……へぇ」
「じゃあ俺、待ってるからな! 見学に来るなら秋に声掛けておくけど——」
「大丈夫! 今日、まっすぐ帰るつもりだから!」
しばらくこんなやり取りを続け、気付くと円堂は「やべっ」と一言、そしてじゃーなー! と笑うと校庭へと駆けだして行った。
「……楽しそうだな、サッカー部」
無意識に呟き、はっと口を塞ぐ。危ない危ない、今のを聞かれていたらレジェンドに終止符が打たれてしまうところだった。……でも。
(見学くらい……)
ガタン、と引かれる椅子。窓枠の桟から差し込む光は、やけに暑苦しかった。
#夕焼け小焼け。
+
でこのあと円堂に見つかって、疾風ダッシュで逃げるという。
葵のキャラをつかむためのサンプルでした。なんで円堂さん選んだか理由が曖昧。