二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- 夕闇秋景 ( No.8 )
- 日時: 2011/07/13 19:47
- 名前: 桃李 ◆J2083ZfAr. (ID: SjhcWjI.)
にかっなんていう表現がよく似合うその表情。もし私がロマンティストだったら彼のそれを“向日葵のような笑顔”と評するのだろう。勿論、この考えを馬鹿らしいと笑う真似なんかしないし、彼の魅力を否定するつもりもない。でも、そう大げさなまでに評価するには一歩、届かないのだ。だってその笑顔は、
「フユッペ! 早くこっち来いよ!」
私に向けられているわけでは、無いのだから。
遣る瀬無い喪失感に思わず零れる溜息。今更、どうしろと言うのだ。あの二人の仲を壊せと言うのか。私なんぞに壊せるとでも、思うのか。胃がきりきりと痛む。嗚呼、またか。私も本当に弱い——ぼんやりと、そう嘆く。
あの二人を見た春奈ちゃんは、酷く歪曲し焦燥感が張り付けられた表情で私に言ったっけ。
『これでいいんですか』、と。先輩のほうがずっとずっと長い間、キャプテンを好きだったのに。冬花さんの努力も認めますけど、私にはそれ以上にキャプテンをずっと支えてきた先輩の想いのほうが大事です。
まるで自分が失恋したかのように早口で、苦しそうな彼女。そういう事に敏い彼女は、直接的に相談を持ちかけたことは無かったけれど、とっくに気付いていたみたい。でも、どうしてこんなに必死になってくれるのかな? 春奈ちゃんの立場からしたら、誰を応援するかなんて決められるはず無いのに。なのに私を——比較的不利な立場にあった私を応援してくれて、それで今、慰めようとしてくれてるのか。
でもね、春奈ちゃん。もう遅いの。私にはもう、
『これしかないのよ』
黙って笑って、見守るしかね。
二人の楽しそうな雰囲気は、わかる人にはわかったみたい。本人たちは自覚なぞ無いのだろうけど。それが逆に辛い、かも。せめて、わざとでもまだ期待と希望を手放せない私に二人の仲睦まじい姿を見せつけてくれたら。そしたらもう、貴方のこと吹っ切れると思うのよ、円堂くん。
「秋、」
小さく呼ばれて振り向けばそこには、一之瀬くんがいて。その立ち振る舞いに誰かの影が重なる。やだな、彼にまで過去を重ねるなんて。そんなことを言いながらも一之瀬くんと円堂くんを重ねて隙間を埋めていたのは事実なのだから、今更否定のしようがない。どうしたの、と尋ねれば酷く困ったような、そんな瞳で哀しそうに私を見る彼。
「本当に、これでいいのか?」
誰かの口から聞いたことのある響きにくらり、と眩暈がする。嗚呼、貴方までそんなこと言うのね。
苦しく苦々しい感情がこみ上げるよりも先に自嘲的な笑みが薄く浮かぶ。もう終わったものを駄々っ子のように強請るわけにもいかない。足掻くこともぶつけることも諦めることもできない私にできることは、自分を憐み、ただひたすら笑うだけ。
「……嫌だなぁ、一之瀬くんまで。私、そこまで未練がましくないよ」
困ったように笑って見せれば彼も、そうかと呟き笑った、ように見えた。些細なことにまで気付いてくれて、大切に私のこと想ってくれて。私、一之瀬くんを想っていたほうが良かったんじゃないかしら。この感情を恋と呼ばずとも傍にいられるだけで幸せになれるもの。円堂くんの隣にいるときは欲張りになりすぎて、困っちゃったから。くすり、と小さな笑い声が妙にしんみりとした空間に響いた。突如襲われる、虚無感に思わず泣きそうになって。
「大丈夫だから、さ」
柔らかい声色。また、泣きそうになる。思えば一之瀬くんにはさんざん泣かされてきたなぁ——そして幾度となく、彼を困らせたっけ。彼は優しい、こんな私にはもったいないくらい。その優しさを他の女の子に向ければいいのに。私、当分は男の子を好きになれないから。違う、もっと可愛い子にその優しさを向ければ彼が幸せになれるのに。幼馴染だからって、慰めなきゃいけないわけじゃないのよ。
「……円堂が、羨ましいよ」
ぽつり零れた呟きが、私の耳にも滑り込む。もう、そんなこと言わないでよ。一之瀬くんがそんな優しいこと言っちゃったら、私には後悔しか残らないじゃない。
嗚呼、私、ずっと貴方を想っていたかったよ、と。
+
失恋秋ちゃん。最初、冬花のポジを夏未さんにする予定だった。
時間枠はFFI後の雷門かな? どうして一之瀬いるのとかツッコミ禁止。そこはifってことで←
イナゴの円堂冬花説が信じられなくてこうなった。最初の予定?何それおいしいの?