二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- キューピッドの憂鬱。 ( No.28 )
- 日時: 2011/07/17 21:22
- 名前: 桃李 ◆J2083ZfAr. (ID: fmJgdgg4)
「……それで、桃花ちゃんは吹雪くんのことが好きなの?」
「——え、」
かぁっと赤く染まっていく頬は、色づいた林檎のようで。甘そうだなあなんて思った。
何も言わず、ただじぃっと彼女を見つめている。まだ返事は返ってこないけれど、そんな表情を見せられたら嫌でも察してしまう。否、人の恋路を見守るのは嫌いではないのだけど。寧ろ、天然で自分の恋事情には疎い彼女をからかえる良い機会だ。林檎みたいに赤く色づいたその頬をぷにっと突いてみる。
「あ、いや、そんなわけじゃ、」
今更照れなくてもいいのにー!
にっこり笑ってみても彼女の警戒態勢は解けそうになかった。耳朶までも羞恥の為か赤くなっている。ぷるぷると小刻みに震えているのは、抵抗できない自分をわざといじめるあたしへの憤りからなのだろうか。
「……士郎とはただの、幼馴染だから」
「えー? でも吹雪くんは桃花ちゃんのこと“大切な桃ちゃん”って言ってたよー?」
「それは、歯が浮くような台詞を使いこなせちゃう士郎がいけないの。だって普通、幼馴染にそんなこと言わないでしょ?」
「きっと桃花ちゃんが吹雪くんにとって特別な幼馴染だからじゃ——」
「珠香ちゃん!」
あーあ、怒られちゃった。ごめんごめんとおどけるように謝ってみてもご機嫌は直らない。それもそうか、と自分で納得しもう一回謝ってみる。……ダメ、か。
こうなったら強硬手段、こちょこちょで笑わせて流しちゃおうかなーと薄ら笑いを浮かべながら考えていたその時、
がらがらと、教室のドアが古びた悲鳴を歌う。
「あ、桃ちゃん。ここにいたんだ!」
にこり、
エンジェルスマイルとも評される白恋最強悩殺スマイルをまともに喰らってる桃花ちゃん。だがしかし、幼馴染は強かった! さっきの会話なんて忘れちゃったかのように微笑み返すと、
「士郎、まだ帰ってなかったんだね」
一切の照れを見せず言い切って見せる。やや目元が和らいでいること以外は何一つ変わらぬ普段の表情。これは下手したらポーカーフェイスより使い道のある作戦である。——ま、あたしには必要になるタイミングは無いのだけれど。
珠香ちゃんと何話してたのーと聞かれても動じない桃花ちゃん。どこでそのスキルを手に入れたのか聞きたいところだけど、今はそんな場合じゃない。桃花ちゃんが吹雪くんに好意を抱いてるのは知ってる。二人はお似合いだと思う。幸せにしてもらっちゃえば良いと思う。けど、
「じゃー桃花ちゃん、さっきのお詫びも兼ねて鯛焼き奢ってあげるー!」
——桃花ちゃんは吹雪くんだけのお友達だと思ったら大間違いなんだからね!
いいの? と無邪気に喜ぶ彼女。ややがっくり気味の吹雪くん。彼が桃花ちゃんと一緒に帰ろうとしてたのなんてお見通しだから。そして桃花ちゃんが、どんなに大切な人を差し置いても約束した人を優先順位の一番上に持ってくることを、彼もあたしも知ってる。まあそれも、あと少ししか期限が残っていない期間限定のポリシーなんだけどね。
荷物をごそごそと漁り、ようやく肩にかけた桃花ちゃんの腕を引く。じゃーね吹雪くん、と言えば彼も(若干心苦しいのだが)暖かい笑顔を見せてくれた。純粋とはお世辞にも言えないけれど。でもね、吹雪くん。だけどね、桃花ちゃん。あたしだってそういつまでも、
人の恋心を黙って応援できるキューピッドでは、いられないの。
だからとりあえず、
「珠香ちゃん、私はカスタードで」
「はいはい、あたしはチョコにしようかな? それでっ! 桃花ちゃんと半分こっつ!」
「わーいっ」
そう簡単に桃花ちゃんの隣は返さないから!
+
士郎くんの最後の壁は珠香たんですvそうなら尚よい(