二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- [ 紗夜様リク ] ( No.30 )
- 日時: 2011/07/18 20:16
- 名前: 桃李 ◆J2083ZfAr. (ID: fmJgdgg4)
フルート、トランペット、チューバ……——
たくさんの楽器がそれぞれ深みのある音色を奏でる。けれど私は、それらの楽器が重なった瞬間が一番好きだった。耳に滑り込む柔らかい音達は、私を心から癒してくれる。甘美な心地に酔い痴れながら、ふと窓の外を見遣った。今は私の出番では無い。少しくらい、良いよね。
全開に開かれた窓からは、暖かなそよ風が吹き込んでくる。私の銀色の髪がゆらゆら揺れるのを視界の隅で感じながら、校庭をそっと見渡す。真っ白なユニホームを泥だらけにしながら小さな硬いボールを投げあう野球部、ずらっと並べられたハードルをいとも簡単に飛び越えていく陸上部。そして、黄色と緑の見慣れたユニホームを身に纏い、白と黒のボールを十人——いや、このチームは十一人かな——で追いかけているのは、
「……雷門中、サッカー部」
彼が愛するサッカーが存在する場所。
脳内に有人の控えめな微笑が浮かび上がり——ほんの少しだけ、火照る頬。目を細めたのは照り輝く太陽のせいにして、ぱっと音楽室の中央で指揮棒を振る先生を見つめる。だけど、集中できなくて。
ゆっくり目を伏せ、しばらく考え込めば——浮かんでくるのは彼のことばかりで——嗚呼、もう、どうしてこんなに有人のことばかり考えてしまうの? 自問を繰り返すも答えはきっと返ってこない。……それなら。
弧を描いた口元を隠しきるなんて、今の私には不可能だった。
*
黒く、ずっしりとした重さを感じさせるカメラ。陽の光に反射したレンズが、もっと眩しい光を放つ。慌ててレンズを足元に向ければそこはもう、サッカー部の部室だった。今は、こんなちょっとした日陰が嬉しい。じっとりと吹き出す汗が、妙に気持ち悪かった。が、聞き覚えのある、鋭いシュートが刺さる時の音が聞こえ、とっさに顔を上げた。
あれは——有人だ。
デスゾーンって確か、帝国の技だった気が。まあ、強力な技だから有人が取り入れたのだろうけど。青いマントが風を孕み、ぼわっと広がる。薄く浮かんだ笑みは、私の脳内に浮かんだものと瓜二つ——それ以上に凛々しいものだった。やっぱり有人には、雷門のサッカーが似合ってる。一人で頷くとカメラを構えた。
ぱしゃり、
気持ちの良いシャッター音が短く響き、刹那、液晶画面には彼が映し出された。酷く眩しい笑顔だった。あ、よく撮れたかも。有人に見せたら、何て言ってくれるのかな——ぼんやりとそう考えていた時、春奈ちゃんの声が耳に届いた。どうやら休憩時間らしい。ちらりと有人を見遣れば、あ、今、目が合ったかも——なんて。慌てて乗り出していた体を戻し、木の陰に身を潜める。あれ、でも、どうして私、隠れてるの?
「隠れなくても良いんじゃないか?」
自分で答えを見つけるよりも先に、低めの凛々しい声が頭の上から降ってくる。どきりと跳ねる心臓。でもきっと、さっきより体温が高いのは暑い太陽のせいだ。
「有人、」
「わざわざ見に来てくれたのか? ……吹奏楽部は、コンクールが近かったと思うが」
「……まあ、ちょっとね」
曖昧にはぐらかすと視線を足元に落とした。ゆったりと、時は流れる。それは酷く心地いい物だった。
「……楽しそうで、何よりだよ」
本音をぽつりと零せば、有人が優しく微笑んだことが何となく察せられた。そして有人の手は——男の子らしい、私より一回りも大きな掌が——カメラをゆっくりと撫でた。慈しむようなその瞳は彼がよく、妹の春奈ちゃんに見せる表情で。きゅう、と胸が締め付けられる。
「なあ、白癒」
何を撮っていたんだ?
そう訊かれて、返答に迷う。有人を撮ってたの、それは少し恥ずかしいかな。しばし考え込み、ここはやはり無難に「サッカー部員皆をだよ」と返しておいた。そうか、と呟くように零した言葉が少し悲しそうだったのは、きっと気のせいだろう。
皆、楽しそうだね。笑って見せれば有人も少し、笑ってくれた。
「そう言えば、」
ふと呟いた有人は——その声が震えているように感じたのは、私だけなのかな——少しだけ気恥ずかしそうに口ごもる。目で言葉の続きを催促すれば、ややあって唇を開いた。
「……そう言えばまだ、白癒と写真を撮ったことが無かったな」
ああ、その、ツーショット写真とやらだ。
そっぽを向きながら自棄になって言葉を吐き出した有人。赤らめた頬が可愛いな——なんて不謹慎ながらもそう思い、もう一度その言葉を頭の中で転がす。そう言えば確かに、まだ撮ってなかった。なんて落ち着いていられるはずがなく。また、頬が熱を持つ。この分じゃ耳朶まで赤くなっているんだろう。嗚呼——恥ずかしい。でも、だけど、ね。嫌なんかじゃないの。
「有人」
びくっ。
極まりが悪そうに眉を潜めた彼。そんな有人に私は、にっこりと笑って見せる。上手に笑えてるかな——心の片隅でちょっぴり心配だった考えが弱弱しく主張してきたが、徐々に和らいでいく有人の眼光を見れば、多大な心配は必要なかった。
「——私と一緒に写真、撮ってくれる?」
遠慮がちに尋ねれば、彼はほっと安堵した表情から少し緊張気味の瞳に戻り、「勿論だ」堂々と答えてくれた。
嗚呼、もう——家に帰ったら、可愛い写真立てを買ってこなきゃ。弾む心を押さえつけ私はもう一度、笑って見せる。赤い瞳を優しく細め、戸惑いがちに描かれた口元。いつもの彼の笑顔が、酷く甘いものに見えた。
+
ひぎゃあああ許して下さいいいい!
ややツンデレ風味の鬼道さんになっちゃったのはともかく、白癒ちゃんのキャラ崩れてますよね!?
吹奏楽部とかほとんど妄想で書きました。そのため描写が不足気味ですすいませぬ。
えっと、紗夜様! せっかくリクを頂いたのにこんなのですいませんでした;またリクしてやって下さい(自重