二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- それが幸せへの近道なのです ( No.63 )
- 日時: 2011/08/04 19:26
- 名前: 桃李 ◆J2083ZfAr. (ID: Va4IJVQE)
「結婚おめでとう、夏未さん」
あ、でも、もうすぐ円堂さんなのね。
そう悪戯っぽく微笑んだ貴女に、私も薄く微笑み返した。うまく笑えてるかなんてそんなこと、保障も何も無かったけれど。
私、雷門夏未は——明日、中学生の頃から恋焦がれていた円堂くんと挙式を上げ、晴れて夫婦の契りを交わす。それはあの日から少なからず憧れていたことで。ずっと想い続けてきた彼と結ばれることはこの上なく幸せなのだと知っていた。嬉しくて嬉しくて堪らないことなのだけど、けれどまだ、いまいち実感が湧かなくて。円堂くんには、豪炎寺くんや鬼道くんと独身最後の日を過ごす、と言われ置いて行かれてしまい、独りになってしまった私は、何故か気づくと秋さんの携帯番号をプッシュしていた。本当に無意識だった。秋さんは一緒にウェディングドレスを選んでくれたあの日以来、会っていなかったのだけど、すんなりと会うことができた。断られると思っていただけに、拍子抜けしてしまって。
カランカラン、とコップの中で氷が踊る。黒いアイスコーヒーの中央で甘そうなミルクが渦を巻く。店内に流れるBGMが今だけは何故か、居心地の悪いものに聞こえた。
「夏未さんが誘ってくれるなんて予想外だったわ。円堂くんと二人で過ごすと思ってたし」
「……彼は、例の三人で遊んでるみたいよ。きっと、サッカーでもしてるんじゃない?」
私の言葉を聞くと秋さんは、困ったように微笑み、「全く変わってないのね、皆」とぽつり、独りでに呟いた。それを言えば貴女も変わってないじゃない。毛先がぴょんと跳ねた髪も、皆を見守ってきた優しげな光を宿す瞳も、暖かい声音も、全部全部、あの日の記憶と全く違わない。それが何を意味するかなど、私には到底わからない話だけれど。
ふとカフェの外を見遣れば、中学生くらいの男の子達が三人、並んで歩いていた。随分とませた服装で、大人っぽく見える。私の記憶に強く残っている中学生の記憶とは、全てが違っていた。その頬は泥で汚れておらず、汗臭そうとも言えなくて。その手に握られていたのはお洒落な雰囲気と美味しい料理で有名な洒落たカフェのジュースだった。今の子たちは、皆そういうものなのかしら? 私が過ごしたあの幻のような二年間は、大切で取り戻そうとしても空を掴んでしまうあの月日は、忘れるべき過去の話なんでしょうか。
「ねえ、夏未さん、」
貴女、円堂くんと結婚するのが怖くなったの?
「——え、」
それは一体、どういう意味で、
心臓が射抜かれたようだった。私、どうしてこんなに動揺してるのかしら。答えは導き出せないとわかっていたけど、まるで自ら図星ですと言っているようで嫌だった。狼狽えている自分が、酷く憎らしい。
アイスコーヒーをかき混ぜる手が止まった私を見て、秋さんはくすくすと笑った。
「お嫁に行く感覚なんて私にはわからないけど、嬉しい反面、怖いんだろうなって思って」
今まで育ててくれた親の元を離れるっていうことが。もう二度と会えぬ訳でも無いのに、胸が引き裂かれるように痛むのが。
秋さんは私が貴女を呼んだ理由を、こんなことだと思っているらしい。伝わってなかった、そう落胆するより先に安心する。——良かった、貴女はまだ気付かない、と。
「そうかも、しれないわね」
曖昧に、言葉を濁して返す。さすがに動揺を全て隠しきることはできなかったけど、それは逆に良かったみたい。私が本当に結婚を怖がっていると、そう彼女は思い込んでくれたみたいで。よかった、彼女に気付かれぬよう零した本音は、BGMを掻き消すほどの客の会話の中に、静かに静かに溶け込んだ。
ねえ、秋さん。私、本当はね。——貴女と円堂くんに結ばれて欲しかったのよ。
あの夕陽が差し込むグラウンドで、秋さんを見つめてるときの円堂くんを好きになってしまったの。円堂くんが私に向けてくれた、幼さを帯びたあの笑顔じゃなくて、彼が貴女だけに見せるあの妙に大人びた微笑が好きだったのよ。
別に私と彼が結ばれなくても、後悔なんてしないわ。貴女と円堂くんさえ一緒になってくれれば、それだけで良かったのに。
だけど、
『私、アメリカに行こうと思うの』
貴女はいつの日か、彼を想い続けることを諦めてしまった。そして、昔から貴女を愛してくれていた一之瀬くんを選んだ。どうして、なんて聞けなかったの。私は、秋さんに微笑みかける円堂くんが好きだったのに。でもやっぱり、それだけを理由にして別れるには、円堂くんはあまりにも魅力的過ぎた。
十年の時を飛び越えて、貴女と向かい合い笑い合って、私は今、思うのよ。
彼が私を想おうと、貴方が誰を想いそして誰から想われようと、私の心が永久に満たされないことなど目に見えている。私だって幸せになりたいわ。だからね、秋さん。結婚しても尚、私が貴方に微笑みかけるのは、
「大丈夫よ、夏未さん。円堂くんならきっと貴女のこと、幸せにしてくれるわ」
決して貴女の為なんかじゃなくて、
「……ありがとう、秋さん」
私が彼に、優しく笑えるようになるためなのよ。
( 全ては、私の愛に終焉が訪れるその日まで )
+
円秋前提円夏でしたー。
夏未さん結構酷い役回りになっちゃったかもだけど、円秋信者の私にそんなこと言われてもですw……今度、甘い円夏書くので許して下さい。
夏未さんは秋さんが好きな円堂くんが好きになっちゃって、でも秋は円堂を好きでなくなっちゃったから、私と彼が結ばれた今、ずっと私が秋さんと仲良くすれば、またあの日に戻れるんじゃないかなー……って感じです。
つまり円秋信者の夏未さんが書きたかっただけ←
秋(←)円→←夏みたいなのかな……難しい。