二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

 その先に何があるかなんて ( No.79 )
日時: 2011/08/09 20:48
名前: 桃李 ◆J2083ZfAr. (ID: AuasFZym)
参照: 合作楽しそうだなぁ……




 朝、もそもそと重い瞼をこすりながらリビングへ行くと、外出用の服を着て化粧をしていた夏未がいた。今日は何かの記念日だったかな、とうまく回らない頭を必死に回転させる。けど、わからない。どうしよう、夏未、怒るかな? そう思うとなかなか顔を出せない。が、夏未はとっくに気付いていたようだった。ねえ、と話しかけられ、肩がびくんと跳ねる。
「私ね、今日これから秋さんと会うんだけど、」
 一緒に来ない? なんて誘われてしまった。
 今日は生憎、何も無い日で。暇だから小学生見つけてサッカーでもしてようかって思ってた。あ、どうしよう。

 断る理由が、見つからない。




 近所に新しくできた有名カフェのチェーン店。恐る恐る中を覗けば——彼女はそこに、座ってた。
「秋さん!」
 嬉しそうに駆け寄る夏未を、気後れしながらも追いかける。コーヒーを皿の上に置き、彼女は暖かな微笑を薄い唇で描いた。十四歳のあの頃と同じはずなのに、酷く見慣れない笑顔だった。それは彼女が大人になってしまったからなのか、——俺が変わってしまったせいなのかな。
「夏未さん、と……円堂くん?」
 驚いたように目を見開き、それからまた晴れ渡っていく秋。嗚呼、やっぱり、変わってないよ、お前は。

 木野秋。
 雷門中サッカー部のマネージャーで、サッカー部を支えてくれた仲間で、家事が得意な女の子。十四歳の時の、サッカーしか見ていなかった俺の、大切な大切な、

 ——初恋のひと。

「元気そうだね、二人とも」
「秋さんも相変わらずじゃない。調子はどう?」
 コーヒーと、ケーキを頼んで、仲良く話し始めた夏未と秋。あー、俺、どうして誘われたんだろう。女子の会話に入れるはずがないって、わかりきってたはずなのに。後悔しつつ、サービスの水を飲む。氷が唇にひたりとくっ付き、酷く冷たかった。
 ……ホント、居心地が悪い。けど、このタイミングで抜けるのも変、というか。せっかく会えたんだから、少しくらいは話したいし。よくわからない話題で盛り上がる二人を、ぼんやりと眺めながらコップを手に取り水を喉に流し込む。ほんの一滴、二滴しか残ってないなんて、知らなかった。


 ふと夏未が立ち上がり、鞄を手にする。「ちょっと、抜けるわね」その言葉がどれだけ苦痛だったことか。……だって、
 何話せばいいのか、わからないから。
 口ごもる俺を見て、秋は何を思ったのか、くすくすと笑いだした。ふっと緊張が解ける。そのまま、正面に座る秋をじっと見据えた。彼女を見つめることができたのは、今日はこれが初めてで。あの日と全く変わらない彼女。秋から見たら、俺は変わったんだろうか。熱血サッカーバカ、なんていうイメージで止まったままなのかな。聴きたくても、口がうまく動いてくれない。そんな自分に泣きそうになる。
「……ねえ、円堂くん」
 優しい声色が耳に滑り込んでくる。その心地よさは、いつ以来だろうか。
「円堂くんのこと、ちょっと困らせてみてもいい?」
「へ?」
 間抜けな返事がざわついた店内に消える。困らせる、か。何をされるのか全然予想できなかったけど、聴きたくないとは思わなかった。寧ろ、安堵の胸を撫で下ろすことになって。嗚呼、俺達、お互いを困らせられるほど、まだ繋がっていたんだな。
 秋の肩がゆっくり、上下に揺れる。


「私ね、円堂くんのこと、——」


 続く言葉は間違いなく、俺に届いた。彼女の気持ちも、きちんと今、この胸にある。けど、ちょっと驚いた。
 思わず目を見開く俺。けど秋は、何にも変わっていなくて。何事も無かったようにコーヒーをすする。あまりの呆気なさ。——って、俺、何を考えてるんだろう。俺はこんなこと、思っちゃいけないのに。夏未の為にも、アメリカに飛んだアイツの為にも。でも、どうして俺、
 彼女の唇から紡がれた言葉が過去形だったことを、寂しく思ったんだろう。
 まるで、俺はまだ彼女のことが——

( ……え? )

 嘘、だ。
 秋への想いは吹っ切ったのに、断ち切ったのに、俺が好きなのは夏未なのに。どうして今更、こんなことに気付くんだよ。

( そんな、こと、 )

 有り得ないけど、この感情は嘘じゃないだろ? ——嗚呼、どうするんだよ、円堂守。
 ぐらぐらと眩暈がする。チカチカと点滅する視界には、心配そうに俺を覗き込む秋がいて。息が上手に吸えない、吐き出せない。夏未、早く帰ってきてくれよ。今、俺を秋と二人きりにしないで。じゃないと俺、認める以外無くなっちゃうから。嗚呼、まさか、


 俺はまだ、初恋を、



気付く円堂さん。もうここまでくると俺得でしかない←
大人円秋がどうしても書きたかったんだ……円秋信者夏未だけで抑えてたのに……