二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- ◆長編—序章 01 ( No.89 )
- 日時: 2011/08/19 22:00
- 名前: 桃李 ◆J2083ZfAr. (ID: 8hHoYYXB)
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ふわあ、と小さな欠伸が漏れ、少女はぐうっと身体を伸ばすと突然、ぐったりと身体を机に伏せてしまった。
今は、これからの活動について会議中。木製の椅子がずらっと並べられた会場の中央には、肩にかかる程の黒い髪をなびかせ、淡々と会議を進めていくこの組織の総指揮官——吉良瞳子の姿があった。円形に並んでいる出席者たちに合わせ、図を四枚空中に静止させながら説明を進めていく瞳子。その仕事の手際の良さは、エリートの文字を思い起こさせるほどのものだった。
「ここ最近の被害内容を、この図に纏めたわ。手元にある資料の十六ページ目を開いて頂戴」
そう言い終わるよりも先に、手元に放置されていた数枚の髪がぺらりと開かれる。ここに集まる何十人もの髪が一度にめくられた為、紙の擦れる音が部屋に響いた。その音を聞き顔を上げ、深い蒼水晶色の瞳に浮かんだ涙を拭った少女——藤浪葵は、眠そうに口元を手で覆う。
そんな葵を眺めながら、困ったような、呆れたような微笑を描いているのは——春崎桃花。葵の貴重な友人であり、同僚である。ちょんちょん、と指で頬を突かれるが、葵は気に留める訳でもなく、不機嫌そうに唇をへの字に曲げた。
「……ダメですよ、葵さん。ばれたら瞳子さんに怒られます」
「だいじょーぶだって! あんな遠くからボクの顔は見えないよー」
悪戯っぽく、かなり離れたところに立ち会議を進行していく総指揮官を眺める。その顔に疲れの色は見えず、むしろ言葉が熱を帯びてきたような気もしてくる。さすがはヒンメル王宮直下治安保護部隊本部の総指揮官だと思う。この国の情勢を裏で仕切ることができるのは、彼女しかいないだろう。尊敬の念を抱くものの、だからといって真面目に話を聴こうとは思わなかった。陽の光が暖かい、街は休日ムードに包まれる今日この頃。睡魔に襲われぬ方がおかしい、と真剣に考える葵である。
ふと瞳子の言葉が途切れ、中央に浮かんだ四枚の図がくるくると巻かれ、瞳子の手に吸い込まれていく。あ、と無意識に零れた声は誰のものか。
「……では、以上を持って本部会議は終了とします。全員、解散!」
瞳子の凛とした声で会議は幕を下ろし、彼女が部屋を後にした途端、さまざまな声が会議室を行き交った。やはり皆、睡魔と必死に戦っていたらしい。ほらね、と言わんばかりに桃花を見遣ると、あららと笑み崩れる彼女。次々と響く籠(こも)った音に乗って、自らも椅子を引く。足元の赤絨毯が、ほんの少しくすんで見えた。
「じゃー、ボク達はどうする? 今のところは、至って平和だけど」
「そうですね。……仕事も特に無さそうですし、少し街に出てみますか?」
「おおっ、なんか楽しそう! 行きたいなー、久しぶりに」
最近、仕事詰でしたものね。桃花の賛成の声を聴くと同時に、その華奢な腕を引いていく。少し前のめりになった彼女だが、体制を立て直したことを確認すると、全速力で駆け出した。全ては、かなり久しい休日の為に。