二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- 切って結んで赤い糸 ( No.115 )
- 日時: 2011/09/04 16:13
- 名前: 桃李 ◆J2083ZfAr. (ID: EUHPG/g9)
- 参照: コメ返しは後でしますすいませぬ;
それは、酷く美しい存在だった。よく表現される太陽よりも、何百倍も、何千倍も。
私はそんな彼が大好きで仕方が無かったけれど——彼は、太陽よりも向日葵よりも虹よりも空よりも宝石よりも、美しくて、残酷だった。
このままじゃいけないなんて、わかってる。理解しているところで、どうしようも無かったけれど。
幼い日のあの約束を、彼がまだ覚えてくれている保証は無い。だから、星の数の夜を超えて彼を想い、太陽よりも熱く焦がれたからと言って、彼が私の為に生きてくれるとは限らないのだ。ふとした事で崩れ去りそうな私を、一生護ってくれるかなんて。いつから私、こんな弱虫になっちゃったんだろう。きっと、昔はこんなに弱くなかったよね。だから、
赤い糸は確かに私と彼を繋いでいたんだ。
失くしていた記憶は、ほとんど戻った。所々、欠けてしまった箇所もあるらしいけれど、今までのような生活を送る上では何も支障をきたさない。全てを思い出せて嬉しいとは思うけど、少し、哀しかった。それは今日まで父親だと慕ってきたはずのあの人が、赤の他人であったこともあるけれど。そんなことよりも、もっともっと大事な事で。
小さい頃の私は、薄々気づいていたのかもしれない。私が彼に、依存し始めていることに。彼を生きる意味として、彼を生きる目的として、彼の全てが私の為にあって欲しいと願っていることに。嗚呼、だから私は記憶を消してしまったのかもしれない。思い出そうと、努力も何もしなかったのかも。ふいに生じた違和感に、見て見ぬふりを突き通したの、かも。
自ら引き千切った赤い糸を、無かったことにしたんだね。その痛みを、葬り去って、弱い私を護るだけで精いっぱいだったんだね。
「フユッペ!」
きらきら、光り輝く彼の目には『弱弱しい儚い幼馴染』が映っている。きっと彼の瞳に、私は“女の子”として映り込むことは無いんだろうな。それは哀しくて悔しくて、どうしようもないことだけど、自業自得だ。仕方がない事なんだ。
「……幸せだろうね、そんなに楽しそうで、」
大好きなサッカーを思う存分やることができて、自分を邪魔するような存在は何処にも無くて、
私みたいなお荷物は、記憶の風化と共に消し去って。
それが正しい結末だと知っている。私如きが足掻いたところで、何も変わらないことも。なら、知っていて尚むやみに走り続ける私は、何だっていうのでしょう。へ、と間抜けな言葉を零し私を覗き込む彼。こうでもしないと彼は、私を庇護しようとしてくれない。同情でも良いよ、もう何も変わらないんだから。彼は私を、見つめてはくれない。
「……あのさ、フユッペ、俺、思うんだけど、」
真剣な瞳は、サッカーをやっている時とはまた違う類のもので。初めて見る——いや、久しいその瞳にどきりと胸が躍る。嗚呼、もう、諦めの悪い心臓だ。
「俺、フユッペの幸せについての価値観がわからないんだ」
「いきなりどうしたの? そんなの、わかるはずないよ。だって、」
私は彼じゃないし、彼は私じゃないもん。
そう告げると、ああそうだな当り前さと返された。じゃあ、私はどんな答えを求められてるんだろう。
「だからさ、一番良い方法を考えて考えて……思いついたんだ!」
それはどんな、と尋ねかけて息を呑む。だって、
その綺麗な笑顔は、私に向けるべきでは無くて、
「俺の幸せが、フユッペの幸せになれば良いんだ! なあ、簡単だろう?」
晴れ晴れとした笑顔は、いつかの記憶と全く違っていなくて。そんな些細な事にさえ、涙は溢れかえりそうになって、私はまだまだ弱虫だなあって思って、でもまだ弱虫でいても良いみたいって勘違いしちゃって、けれどそれは嘘じゃなくて。
あの日の約束はもう呼吸を止めてしまったけれど、私はまだ、此処で生きてるよ。
「だから俺、頑張るからさ。フユッペもこの事忘れないでくれよ? 二人で協力すれば、きっと大丈夫だ!」
なっ! と言って絡められる小指同士。震える私なんか見えていないとでも言うように笑う彼が、酷く眩しく思えた。嗚呼、まさか、あの日の続きが今見れるなんて思わなかったよ。小指から垂れたあの赤い糸をまた彼と結ぶことは、赦されることなんだね。彼に依存しないよう引き千切ったけど、もう大丈夫なんだよね。彼の為に生きても、迷惑でも何でも無いんだよね。嗚呼、何だか、嬉しすぎて泣いちゃいそうだよ。
さあ、また、赤い糸を結んでみよう。優しく丁寧に、リボン結びを創ってみせよう。
「——ありがとう、マモルくん!」
彼はまだ、そこにいるのだから。
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円冬でしたーwまともに書いたの、多分これが初めてですw
私事で時間が無く、コメ返しが遅れていて申し訳無いです……今度、あまあまな円夏にもチャレンジするんでお待ちくださいませぇぇぇ!←
お題はメガロポリス様よりお借りしました。