二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

 ◆長編—序章 ( No.146 )
日時: 2011/09/04 20:30
名前: 桃李 ◆J2083ZfAr. (ID: EUHPG/g9)
参照: テスト、だと?←


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 街は、商人やら旅人やら兵士やらでごった返していた。
 葵等が暮らすこの王国は、貿易が盛んな国として世界的にも有名である。そんな国の首都は、休日だろうが平日であろうが、いつも人で満ち溢れているのだ。活気あることは国の経済成長にも繋がり、良いことなのだが——人口が多いが為に払わねばならない犠牲も、それなりの数だ。

「あー……人ばっかり……」

 呻くように呟いた葵は、白いシャツに黒い革のベストを羽織り、ラフに開いていた。下は深緑っぽい革素材のショートパンツを穿き、茶色の長いブーツが足を固めている。ズボンから覗く足は、健康的な肌色だ。首元に垂らされた十字架のネックレスが、陽の光を受けキラリと反射した。

「この時間帯でも、あまり人は減りませんね……」

 一方の桃花は、困ったように唇を歪ませ、はははと薄く微笑んでみせた。彼女も白いシャツを着用し、上にシルクの黒いカーディガンを羽織っている。下はシンプルなスカートで、足元はやはりブーツだ。頭上で揺れる桃色のスカーフが愛らしい。
 目立つ服装をしているからか、周りの者達は二人を避けるように進んでいく。それもそのはず。このような格好をしているのには、それなりの事情があるからなのだ。

 現在の文化では、女性が丈の短いスカートのようなものを穿くことはまず無いし、ズボンを着用するなどもっての外だ。一般国民が彼女達のような服装をすることはあり得ない。が、王宮に仕える戦士達は違う。
 彼らは時に、奇異な衣装に身を包み戦闘を行うことがある。それは、戦闘のし易さを優先し、恥を捨てることであった。男性は然程問題ないのだが、ドレスを着込む女性は戦闘においてかなり不利になる。なので、自らそのような服装を好む者も多い。もっとも、若い年代に騎士希望者が多いのは、そんな文化に触れてみたいという理由もあるのだ。

「ああ、そうだ。桃花に訊きたかった事があるんだけど」
「今度の任務(ミッション)ですか?」
「この前、姫騎士団が制圧した悪党集団があったでしょ? それがまた、活動を再開したらしいんだ。で、次は誰を当てたら良いと思う?」

 任務とは、チーム・ヒンメルに舞い込んでくる仕事のこと。葵と桃花が所属するチーム・ヒンメルが任務の詳細を調べ、その情報を纏めた上で、出動させる戦士を指定するのだ。

「日奈乃さん達の話を聞く限りでは、そこまで厄介では無さそうです。でも一応、交差魔法<クロス・マジック>が使用できる戦士にしましょうか」

 交差魔法とは、武器と魔力を交差させ、より強力な技を生み出すこと。なかなか難しいのだが、この王国のレベルは他国よりも遥かに勝っている。優秀な戦士が多い為、交差魔法を使用可能な戦士はかなり多いのだ。
 うーん、でも暇な戦士がいるかなぁ。葵は唸ると、左手で髪を掻き揚げた。

「大丈夫ですよ。直にお願いすれば、きっと引き受けてくれます」
「まあ、久遠総指揮官に言いつけるって脅せば、一発だろうけどねー」

 くすくすと小さく笑う葵。刹那、桃花も何かを言いかけ、唇を開くが——それは街に響くはずのない轟音によってかき消された。

 辺りが一瞬だけ、静寂の波紋に呑まれる。