二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- ◆長編—序章 ( No.157 )
- 日時: 2011/09/10 20:23
- 名前: 桃李 ◆J2083ZfAr. (ID: L1jL6eOs)
- 参照: テスト、だと?
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恐らく、その爆発による突風だろう風が砂をまき散らす。人々は瞬間的に顔を腕で覆い、暴風から身を護る。暫くして風はようやく止み、砂埃の中に何かのシルエットが映し出された。それは——複数の人間のもの。一歩一歩、着実に近づいてくる足音に、警戒を解くことはできない。
「葵さん、まさかこれって……」
あり得ない、と桃花の瞳は語る。どうやらそうみたいだね、葵は声を潜めそう返した。砂埃はだんだんと薄くなっていき、その人物の姿がくっきりと現される。葵が、キッと睨みつけたその先にいたのは、泥にまみれた洋服の腰に、長く鋭利なサーベルを刺した男と、その仲間と見られる四人の男たちだった。
強面の男五人ということで、辺りで様子を伺っていた人々は蜘蛛の子を散らすように、甲高い悲鳴を上げながら逃げて行った。残ったのは、彼女等二人だけ。対立するような形でたたずむ彼等の間を、雰囲気違いの穏やかな風が駆け抜けていく。
「何故、国の内部にまで到達できたんでしょうか?」
「さあね。ボクもこんな事態は初めてだよ……反政府軍かと思ったけど、どうやらもっと厄介そうだし」
ぽつぽつと交わされる言葉に、男たちは苛立っているように見えた。だが、二人も二人で困惑気味の表情だ。それというのも、この王国で反乱を起こすのは専ら反政府軍の人々で、今回は例外に当たるからなのだ。何せ彼らは——、一度消滅したはずの悪党達。
「姫騎士団によって鎮圧したのに、懲りてないね」
「……判断ミスです。もっと早く処置を施しておくべきでした」
男たちは確かに、その悪党集団のメンバーなのだ。恐らく、取り逃がした者達で再結成され、政府の手を手こずらせていたのだろう。先ほど二人が話していたのも、この悪党集団への処置法についてだった。
仲間を王国に奪われ、その腹いせに街を襲撃。考えられない話では無い。が、この国の門番達は何をしているのだろうか。常時、十人が待機することが規則となっている兵士たちが、五人の若者に負かされるなど、あってはならない話である。
「何か文句あるのかよ、嬢ちゃん?」
リーダーらしき男が一歩、前へと出てくる。スキンヘッドに目の下の傷。どこを見ても荒くれ者だったことが一目瞭然だ。
「いや……きみたちの目的が、こちらとしてはいまいち理解できなくて、」
「——ボスは何処だ」
やはり目的はそれだったか、と葵は心の中で後悔し、唇を噛み締めた。
この国の規則として、捕まえた罪人及び悪党は極力死刑を避けなければならない。先々代の王が決めたことだ。どんな人間も、必ず更生させる。これが、シュタート騎士団誕生の主な理由だ。
「ボス? 誰のことですか?」
「とぼけるなァ! お前ら、国の人間だろ? 知ってんだろ? 何か言え!」
さもなければ、と向けられたサーベルの先がキラリと銀色の光を放つ。が、桃花はとぼけ顔を止めず、葵は空を見上げ始めた。あー良い天気だーとまで言い始め、男たちの苛立ちを誘う。チッ、と舌打ちの音まで聞こえてきた。だが男たちはまだ気付かない。
二人がじりじりと、後方へ下がり始めていることに。
「……何か、面倒だし厄介ぃ」
仏頂面で呟かれた言葉はどうやら届いていたらしく、発言元の葵はハッとした表情で口を両手で塞いだ。が、てめぇなどという暴言が男の口から零れ始めたあたり、もう手遅れらしい。自分の運の悪さを呪ってやりたい。はあ、とため息を吐きながら葵はこっそり嘲笑した。