二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- 雨音ノイズ 【お題より】 ( No.18 )
- 日時: 2011/07/10 14:57
- 名前: 桃李 ◆J2083ZfAr. (ID: SjhcWjI.)
- 参照: なんかこの設定楽しいかも←
雨は、嫌いだった。
びちゃびちゃと街を濡らすそれは、遠慮も何もあったものではない。運悪く水たまりにダイブしてしまい、何度靴下を湿らせたことか。ぐちぐち、きゅうきゅうと詰まった叫び声がスニーカーから聞こえる度に雨への憎悪は増えるばかりで。そのせいで雨の日は心なしか、機嫌が悪くなってしまう。自分でも制御できないほど酷い八つ当たりは、堪えようがなかった。だって、嫌なんだもん。まあ、そんなこんな語ってるうちに雨はどんどん酷さを増していく。嗚呼、濡れるのだけは絶対に嫌だ、そうは思いながらも残念ながら僕は雨を止めるだけの超能力を兼ね備えていないもので。ぎゅうっと唇を噛み締めるしかない。
早く帰りたい、けど、帰れない。目の前に佇む一つの影のせいで足止めを食らってしまって、じゃーねとも言えなくて、上手く呼吸もできなくて。
「っは、……ぐぅ……」
言葉にもならない呻き声が絞られた喉から聞こえてくる。もっとも、拒絶の言葉にもなっていないんじゃ、相手は僕を解放してくれないのだろうけど。必死に両手を彼の右手に伸ばし、なんとか掴む。それでも、酸欠気味の自分に男の子の片手をふり払える力は残っていなかった。
「苦しいか?」
「う、ぁ、……いやぁ!」
力が少し弱まったところで精一杯の抵抗を見せる。が、その瞬間押しつぶされる喉元。何か酸っぱいものが胃から逆流し、吐瀉物を吐き出させようとしているのは明らかだった。気持ち悪い、離せ、大嫌いだ。そう言ってやりたいものの、再び絞められ苦しくなる呼吸。こんな状態で彼を突き放すことなど、できるはずがなかった。
ゆっくりと、強弱をつけて、喉元を押し潰し長く苦しむように。助けを呼ぶ声をぎりぎりのところで押さえつけるように。嗚呼、まるで拷問じゃないか——そう言ったところで彼は、何一つ動じないのだろう。酷く冷めたあの瞳で僕を見下し、にたっと薄く笑いながら言うのだろう。『当たり前だ、これは“制裁”なのだから』と。
たすけて。
鈍く歪んだ視界に映る最低な少年に——殺人まがいのことをしでかしている最中の彼に必死に訴えかける。何が制裁だ、何が赦せないだ。突如僕を抱きしめ、そう叫んださっきまでの彼に疑問符を掲げる。今は悔しいことに、届かないであろう白旗しか上げることができないのだが。
「……どうして俺じゃ、ダメなんだ」
自嘲気味に吐き出された酷く脆い呟きは、静寂に包まれた教室でやけに大きく響いた。あれ、おかしいな。雨の音さえ聞こえなくなっていく。嗚呼、もう、自分の呻き声さえ届かない。身体の限界? 必死に自分に問いかけるも、答えを返してくれるような優しい存在は、犯罪少年と僕以外誰もいないこの世界にいるはずが無かった。嗚呼、彼の歪んだ表情にさえ、霧がかかり見えなくなっていく。僕の名を呼ぶ暖かかったはずのあの声まで聞こえない。
「 ?」
何を呟いてるの、わかんないよ。でもきっと、聞こえないほうが幸せな事実なんだろうなあ。そう思い込めば少しは楽な、はず。ぱらぱらと舞い散る雫が背中の窓ガラスに跳ね返る。雨音だけ、耳に届いた。まあ、心を癒してくれるような心地よい音色では無かったけど。きみが僕を呼ぶ声も、きみぼが僕を拒む声も、きみが僕を求める声も、きみが僕に囁く甘い言葉も全て、
「 、」
雨音に雑音(ノイズ)となって融けた。
+
ヤンデレなのか……?