二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- ◆長編—序章 ( No.190 )
- 日時: 2011/10/05 21:35
- 名前: 桃李 ◆J2083ZfAr. (ID: Pvby2f.0)
- 参照: ややや、休めないorz
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殺気立つ男共を横目に、桃花は葵へそれ以上に痛い視線を突き刺す。バツが悪そうに頭をかく葵は、剣やら鎌やらを振り回し始めた男たちを一瞥すると、真横へ向けた右の掌で蒼水晶色の魔法陣を描き始めた。丸く、何やら解読不能の文字が描かれたそれは放つ光をだんだんと濃くしていく。男たちが葵の行動に戸惑っている間にも、魔法陣は光と大きさを増していく。
「……これだけ街を騒がせたんだ、責任は取って貰おう」
レンガ造りの軒並み、人気を無くした市場、置き去りにされた馬達。先ほどまでの平和は、美しいこの王国<kingdom>は、——こいつらによって、壊されたのだ。
怒りと苛立ちと諦めと、そしてよくわからぬものが葵の中でぐるぐると渦を巻く。どうして世界は、平和を愛するくせにその望みを遠ざける? 何故こうして気まぐれな悪戯を起こすのだ。その感情は全て、葵の魔力へと変換される。
「葵さんて剣握ると人変わりますよね……」
他人事のように呟いた桃花は、両手を体の前で組み、小さな魔法陣を描く。優しい光を放つそれが、戦闘魔法でないことは一目瞭然だった。対し、葵の魔法陣の光は頂点に達し、暴風を生み出す。砂をも巻き込み大地を荒らすそれは、憎悪と嫌悪に満ちていた。
魔法陣から飛び出たのは、淡い青色を帯びた剣。
刃のその先は、鋭利なことを伺わせる銀の閃光が瞬いた。
「——翔けぬけろ、蒼き閃光……<聖剣ベルファレーラ>」
サーベル状の剣は男たちに向けられる。空を斬る音は、何とも心地よい音色であった。
「援護が来るまでは、ボクが相手をしよう。初心者なんでね、お手柔らかに」
「国家の職員様が初心者ねェ……——笑わせるな、餓鬼が」
卑しい笑みを浮かべ、挑発的な態度を見せる彼等を睨みつけると、剣を決闘時の構えに持ち直す。同時に召還したのか、その身には淡い青の鎧が纏われていた。目つきは真剣そのもの。まだ、あどけなさが残る少女の威厳はそれなりのものだった。
魔力のお蔭か、身のこなしは軽くなっている。刹那、足元に砂埃を舞わせ、葵は男たちに斬りかかる。
「——いざ、覚悟ッ」
短く告げると、彼女は素早く身を切り替えし、疾(はし)る。
蒼天に輝く小さな体は、刹那の間に閃光へと変貌した。