二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- 恋人吟味 ( No.194 )
- 日時: 2011/10/09 18:18
- 名前: 桃李 ◆J2083ZfAr. (ID: Pvby2f.0)
- 参照: 風邪気味ですぜ!
ラベンダー色の柔らかそうな髪がふわりと揺れる。儚げで今にでも消えてしまいそうな彼女には、何処か見覚えがあった。名前、何て言ったかなーと遠い記憶を呼び起こす。けれど、その必要は無かった。目が合ったその刹那、彼女はにっこりと微笑み首を小さく傾げる。
( 嗚呼、確か彼女は—— )
何を考えているのか見当のつかないその瞳は、今あたしを映している。焦点が合っているはずが無いのに。不思議で不気味で、怪しいその娘の名前は、
「はじめまして、……小鳥遊忍さん」
かつて少年サッカー世界大会で頂点に立ったチームのマネージャー。そしてその監督の、愛娘。
あの不動さえも困惑させた、あたしの苦手な女。——久遠冬花。
「……で、あたしに何の用? 何が目的?」
出来るだけキツイ口調で尋ねれば、いきなりでごめんなさいと彼女は謝る。訊けば、急に思い立って此処まで、あたしにわざわざ会いに来たとのこと。やっぱり理解できない。と言うか、答えになってないし。にこにこと愛想笑いを振りまくほどの付き合いでは無いから、あたしから笑いかけるような真似はしなかった。——できなかった。そんな事をしてしまったら、有るはずの無いプライドのような、面倒なものが崩れ落ちそうな気がして。
……待て待てあたし。ペースをこんなに乱すなんてらしくない。振り回されるな、と自分を叱る。ぶんぶんと頭を振ったせいか、次に目を合わせた時の彼女はいくらか歪んで見えた。
「ずっと興味があったんです」
囁くように告げた彼女の言葉は、その可憐な容姿とは裏腹にかなり図々しい。
「不動さんが唯一眼中に入れてた、女の人に」
——何だ、この女は。嫉妬とも恨みとも取れない感情に塗れた瞳は、光を宿すことを忘れている。怖い、こわい、恐ろしい。歪みの一遍を垣間見たような寒気が、悪寒となって背筋を駆ける。微かに震える指先は幻覚だと信じたかったが、生憎あたしはそこまで強くない。
「話を聴いてみれば、その人は天才ミッドフィルダーと呼ばれるほどサッカーが上手で、不動さんの恋人らしくて」
何せ、あの“真・帝国学園”時代からの付き合いなんでしょう?
無邪気な笑みで聞かれるも、その唇から発せられる言葉は狂っている。笑う狂気とでも揶揄できそう、噛み締めていた唇からふっと息が漏れた。嗚呼、どうしてアンタの周りには可笑しなヤツしか集まらないんだろうね。今、目の前で幼子のように笑う彼女にしろ、強さを求めるあまり堕ちていった彼等にしろ、いとも簡単に人を騙し己の欲に従順だったあの男にしろ、このあたしにしろ——アンタに手を差し伸べたり、アンタの世界を広げたりアンタが世界を広げたり、ひどく歪んでいるヤツばかりだ。あたしに惚れたのはアンタで、そんなアンタに惚れたのもあたしだけど、これはちょっと酷くない?
「人嫌いの不動さんがそこまで興味を示すなんて珍しいなって思ったから、いつか会ってみたいと思ってたんです」
ゆっくり、ゆっくりと近づいてくる彼女。その眼は笑っていない。嗚呼、どうしてあたしは逃げられない?
「……やっと会えました、“小鳥遊忍”さん」
でも貴女はズルいですね。貴方も所詮、私と変わらないでしょう? 歪んでて、貪欲で、自分に酔っていて。私よりほんの少し不動さんを会うのが早かったからって、私よりほんの少し強かったからって。
ぽつぽつと、しかし止めどなく零れ落ちる言葉は、あたしが受け止めるにはあまりにも重い。
「ねえ、小鳥遊忍さん」
貴女に自覚は無いんだろうけど、悔しいから言っておきますね。
再度繰り返される名前は、もはや誰の名なのかさえわからない。嗚呼、この人は誰なのだろう。そしてあたしは、何なのだろう?
「——貴女はね、」
( 私がなれなかった“私”なんですよ、 )
+
たかふど前提で小鳥遊+冬花。うちの冬花は壊れ気味。
そう言えば私、書き方統一してないんですよねー。リクとかこういうのとかで変えちゃってるんですけど、どっちが見易いのかなーとか。こっちはやや話の纏まり(?)意識してるつもりです。