二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Delete world ( 貴方を壊して、そしたら、 ) ( No.203 )
- 日時: 2011/10/16 16:53
- 名前: 桃李 ◆J2083ZfAr. (ID: SIZJ2xxS)
——戦が、終わった。
「市、戻ったぞ!」
どれだけ、待ったのだろう。
時間の過ぎる感覚が曖昧になっていく、もう何度目ともわからない感覚に身を委ねれば、必ずあの方は市を呼んで下さる。その繰り返しに気付いたのは、いつの事だったか。気付いたあの日こそなんて素敵な考えだと胸の内を焦がしたが、こうして時が経ち、ふとその軌跡を眺めてみればそれはただの逃亡でしか無かった。ひたすら部屋に閉じこもっていれば必ず、あの長く暗い孤独の時間は過ぎ去った。そうして自分を追いやるのは、息をするほどに簡単な事で。
お帰りなさい、と市は小さく呟き、薄く微笑んで見せた。
「……お帰りなさい」
安堵の笑みを浮かべる長政を見て、今度こそはっきりと——それでもその声音は儚いものだったのだが——想いを伝える。嗚呼ただいまと、再度はっきりと言い切った長政に市はぎゅうと抱きつく。少し息の切れた長政を感じれば、ここまで走ってきてくれたのだと察するのは容易い事だった。
「ながまさ、さま」
長政様、なんて愛おしいお方。その名を呼べば、この心の臓は高鳴り、静まることを知らなかった。そして一度、たった一度でもその響きを口にしてしまえば、——堰が切れた。
長政様長政様長政様! 自分でも驚くほどに、長政の名を口にする。嗚呼そうか市はこんなにも長政様に依存しているのね。脳内でそんな言葉を転がせば、微かな笑い声が喉から唇から、表情から零れ落ちた。
「一人にして悪かった。その……寂しくは無かったか?」
寂しかったよ、でも、長政様が帰ってきてくれるって信じてたから。
そんなことを言える自分では無い。市はゆっくりと首を横に振り、偽りを重ねた。
「……でもずっと、この部屋に閉じこもっていたのだろう?」
その声が、その瞳が、市への心配を映し出す。ほんの些細なことで感じる幸せ、それだけで良かった。
正直なところ、戦の勝敗なんぞには興味の欠片も無い。誰が死んで誰が生きて誰が傷つき誰が血を流そうと、市には関係のないこと。ただ、長政一人が、彼が信じる正義が無事ならば。長政が嫌う悪が削除されたのなら、それで良い。
「市、長政様が望むなら、ずっと一人でも平気だよ」
それが願い。それが欲望。それが——戦乱の世に望む、唯一の我儘。
唇で弧を描き、瞳を細め、はにかんで見せる。頬を這う熱は、できることなら長政様の為に捧げたいと夢見た。けれど、心配性の彼のことだ。それでは駄目だとこんな自分を叱咤しながら、けれど今よりも明るい場所へと導いてくれるのだろう。何て、何て素敵な未来でしょうね。こっそりとそんな何かを描けば、長政も市へと笑いかけた。
唇で弧を描き、瞳を細め、はにかんで見せたそれは、
「——嗚呼、そんなことは当然だ」
初めて目にした、“歪み”だった。
+
これが何時ぞやのコメで言ってた歪んだ市と壊れた長政です。長政殿の壊れ具合が上手く表現できなかったぜw
ちなみに削除って意味の英語探したらデリートでした。