二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

 ラブレターはゴミ箱へ(、忘却の初恋に捧ぐ)  ( No.219 )
日時: 2011/11/27 19:30
名前: 桃李 ◆J2083ZfAr. (ID: eCrj8qey)
参照: (´・ω・`)<テスト終わったぜ!




「……えんどう、って。あの円堂守?」
 楽しげにサッカーの話をする天馬の、ややかさついた唇から聞こえたその男の名前を確かめるように繰り返す。疑問の音を孕んだその問いの行く先は、自然に彼女へと向かった。秋、ぽろりと零せば彼女はそこで薄く微笑んでいて。どういうこと、と尋ねかけて口を紡ぐ。嗚呼そうだった、——ボクがいない間にあの恋は終止符が打たれたんだった。
 戸惑うボクに気付いたのか、秋はその微笑を深める。ええそうよ、あの円堂くんよ。告げられた現実が齎した衝撃は、思いのほかボクという人間を揺らがせた。
「あ、あの……葵ねーちゃん?」
 不思議そうにボクを覗き込んでくる天馬に、曇った陰は見られない。良かった、アイツは変わってないんだ。そう思った途端、安堵の溜息が漏れた。眩暈も、した。

 高校生までは円堂や秋、豪炎寺なんかと一緒だったボクだけど、大学へ行ってからは別々で、そこで天性の風来癖が開花したボクはあちこちを旅してばかりで。両親に迷惑掛けてばっかりで反省はしてるけど、後悔はしてません! 久しぶりに東京に帰ってきたら、就職しようと勉強するボクをいじめてくる両親(つーか母)。思わず飛び出してきちゃったボクを拾ってくれたのは、久しい友の秋でした。
 そんなこんなで居候してる訳だけど、まさかこんなところで円堂の話を聞くとは。まあ元気にしてるんなら良いけど、相変わらずサッカーバカらしい。天馬の話を聞いてもやる気のないサッカー部員を導いちゃったり、まあ熱血先生もどきだな、と思う。それにしても懐かしい。が、うっかり会いたいなあなんて呟いちゃったのがまずかった。——なぜボクは天馬に手を引かれてるんだ。
「きっと監督も会いたがってるよ、葵ねーちゃんに!」
「そっか。……そうだと良いんだけどね」
 多分、つーか絶対円堂はこの再会を喜んでくれるのだろう。懐かしいな、何処行ってたんだ、俺今雷門の監督なんだぜ、サッカー楽しいんだ。——サッカー、やろうぜ! なんて。
 ボクの想いなんて知らないで、呑気に笑って喜ぶんだろう。否、それで良いんだ。何にも知らないまま、この再会が終われば良い。そうだ、これはボクときみの最後の勝負だ。きみが勝つことは絶対無いけど、その代りボクはきみに一生勝てないからね。さあ、これでお相子だ!
「ここが雷門中だよ! ——お帰り、葵ねーちゃん!」

 ただいま、と呟いた。
 蘇る懐かしい記憶は色褪せることを知らず、ましてや忘却の海へその身を投じる術も教えられていない。

 建物も新しく建て替えられた。
 転ぶと痛かった土のグランドは無く、植えられた青々とした芝生がそよ風に揺れる。
 何もかも変わってしまった、汗と泥に塗れたあの一頁さえ残っていない。あるのはこの胸に刻まれた記憶、夢幻、最後の青春。そして、今でさえ忘れられない——熱に焦がれた、その傷跡。

 ひらり、——その手を振れば、あの人懐っこい瞳は驚愕の色を浮かべ見開かれた。

「久しぶり、円堂」



 どうか、この声の震えには気付かないで。
 どうかそのまま——、あの日のように笑って、ボクをそうして突き放して。




リハビリなうですねw
ちなみにこれはnext→>>181とかそういう設定。