二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: どうぶつの森〜どうぶつ村の軌跡〜 ( No.30 )
日時: 2012/01/11 21:51
名前: るきみん (ID: JryR3G2V)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel3/index.cgi?mode

              第一話
 
     Ⅵ

「どういう…ことですか…?」
ビアンカさんのお母さんが人間にさらわれた? どういうこと? 何でそんなことを私に話すの?
さまざまな感情がみなみの中でうずまく。驚愕、苦しみ、悲しみ、空虚、恐怖、そして、怒り。
ビアンカさんの母親を誘拐した人間への怒り。そして、そんなことにも気付かず、馴れ馴れしく接してビアンカさんの心を抉っていた自分への怒り。
そんな気持ちがみなみの中で暴れ回り、その苦痛からみなみは吐きそうになる。
「だ、大丈夫だなも!? い、いきなり変なこと言っちゃってごめんなんだなも!」
「い、いえ…大丈夫です。続けてください…」
「わ、わかったんだなも…でも、無理はだめなんだなも。気分が悪くなるかもしれないから、そのときは言ってなんだなも」
「はい…」
みなみとたぬきちは、手ごろな位置にあるイスに座り、話が始まる。
時間は、10年前の…ある天気のいい日にさかのぼる。

                    ☆

「おかーさぁん!!」
「あらあらビアンカ。甘えん坊さんね」
どうぶつ村の高台の上、180度海を見渡せる、どうぶつ村自慢の場所。今、そこには1組の親子が楽しそうに遊んでいる。
「おかあさん!」
「なぁに?ビアンカ」
「大好き!」
「私もよ」
そう言って、親子は笑う。
心からの笑顔。心からの幸せ。ビアンカは、この幸せが永遠に続けばいいと思っている。母も、この幸せは永遠に続くと思っている。
が、しかし、現実は、そんなに甘くなかった。
「へぇ〜、なかなかいい場所だなぁ、ここ。社長がここを開拓したがるのも分かるぜ!」
ガヤガヤと、二、三人の声が近づいてくる。下品な笑い声が、二人の幸せを打ち砕く。
「ビアンカ、こっちに…」
「うん…」
なにやら不穏な空気を察した母は、とっさにビアンカを自分の影に隠す。ビアンカも、素直に母の後ろに回る。
「あれ? あいつ…ビアンカとか言うやつじゃねえか? おい、ちょっと調べてみ」
一人のリーダー格らしき男がそう言うと、なにやら分厚い資料のようなものを持った男が、パラパラと何かを探す。
「ありました。レベッカと、その娘のビアンカです」
「おお! やっぱりか! こんなところで会えるなんてラッキー」
男たちがニヤニヤしながら近づいてくる。ビアンカは怖くなり、母の裾の端を強く握る。それに答えるように母はビアンカの頭をなでる。
「…なにか用?」
「おーおー、そんなに怒りなさんな。別にとって食おうってわけじゃないんだよ」
男はへらへらと笑いながら、両手を挙げて降参のポーズをする。その行動が、更にレベッカの怒りを増幅させる。
「リーダー、ふざけていないでください。僕は早く帰ってお風呂に入りたいです」
「おーけーおーけー。…ってかお前自由だな」
「ふざけないで!!!」
ここでレベッカの怒りが爆発する。
その声に、楽しそうに話していた男たちが止まる。少しびっくりしたような顔をする。
「ほぉ〜、社長の話はホントなんだな。どうぶつ達がヒトの言葉をしっかりと理解するっていう…」
「これは研究のし甲斐がありそうですね。やっぱりお風呂はやめです。研究します」
怒りを露にするレベッカを尻目に、男たちはなにやら話している。と、そこで、リーダー格の男がレベッカたちに近づいてきた。
「えへへ〜、あなたがビアンカちゃんの母親のレベッカさんですね? ちょっとお話したいことがありまして〜」
「…」
レベッカは、無言で男に睨みを効かす。対するビアンカは、いったい何が起こっているのかわからない風で、ただただ不安がっていた。
「そのですね、私たち人間は、とても好奇心旺盛でして、つきましてはあなた方どうぶつのことをもっと知りたいと思うのです。それで、やっぱり人体実験がいいかな、と。ですので、お宅の娘さんのビアンカちゃんを私たちに譲ってくれないかな…と」
「バカをいわないで…ビアンカは私の大事な娘。だれにも渡さない」
「ははは…そう言うと思いました。では、交換条件といきましょう。あなたがビアンカちゃんを譲ってくださるのなら、そうですね…1億円、いや、ここの世界ではベルか。1億ベルでどうでしょう」
「嫌よ。ビアンカのいない人生なんて人生じゃない。それなら死んだほうがマシよ」
「ふふふ…強がりさんですねぇ。でも、そんな強がりを言っていて大丈夫なのでしょうか?」
「…どういうこと?」
「聞いた話では、あなたの家はかなりの経済危機に陥っているとのことですね」
「!? …どうしてそれを…」
「こちらには強力な情報網がありましてね…どうでしょう。考え直してくれますか?」
「…ビアンカは、渡さない」
「本当に強情な人だ。ふむ、では、ビアンカちゃんでなくあなたがついてきてくれるというのはどうでしょう」
「…私? …でも、ビアンカには私が必要…だから」
「…心が揺れてますね。…最後の一押しだな…。では、あなたが来てくれるのなら、私たちはこの計画、このどうぶつ村をリゾート化するという計画から、手を引きましょう。それだけではありません。あなたの娘のビアンカちゃんを、大人になるまで裕福に暮らせるだけのお金を定期的にお送りしましょう」
「そ、それは本当…?」
レベッカの心が大きく揺れる。それだけ魅力的な条件なのだ。自分が犠牲になるだけで、たくさんの動物たちを救える。しかも、レベッカの愛する娘のビアンカが、大人になるまで養ってくれるというのだ。確かに、今のレベッカでは、ビアンカを養ってくほどのお金の余裕はない。自分が犠牲になるだけで、それだけで…

———お前が行けばいいんだ。それですべてが終わるんだ。みんなが幸せになるんだ。
黒い悪魔が、甘い声で囁く。その言葉は甘すぎて、今のレベッカにはそれが白い天使の囁きに聞こえる。
「…いいわ。あなたについていく。その代わり、しっかりとビアンカを養うのよ」
最後に少しでも抵抗しようと、レベッカは男たちを思い切り睨み付ける。しかし、男たちは別にそんなことは気にしていない様子だ。
「そうですかそうですか! 賢明な判断ですね。自分では養えないと、よく分かっていらっしゃる。いやいや、あなたが話の分かる人でよかった。本当は娘さんと一緒に居たいでしょう——」
「うるさい。早く行くぞ…絶対に、絶対に、もうこの村のみんな、そして、ビアンカに手を出さないと誓え」
「はい、誓いますよ…っと」
いくぞ、と、部下らしき男たちに命令すると、二人がレベッカの周りを囲む。
「…それじゃあビアンカ。行ってくるわね…」
「へ? お母さんどこ行くの? やだ。私もいく!」
「ふふ…健気ですねぇ」
男が茶化すと、レベッカが男を睨み付ける。すると男は、やれやれと肩をすくめる。
「ううん、ダメ。あなたついてきちゃダメなの。…そうね、あなたはたぬきちさんのところに行って遊んでくればいいわ」
「たぬきちさん…分かった。でも、早く帰ってきてね…」
「うん、うん。お母さん、がんばって、早く帰って来るからね…それまで、元気にしているのよ…」
そして、レベッカはさよならと言う代わりにビアンカの頭を一撫でする。本当は、涙を流しながら、思いっきり抱きしめたい。しかし、そんなことをしてしまえば、決心が鈍ってしまう。また、幸せな生活に戻りたいと思ってしまう。欲張ってしまう。だが、それは許されないのだ。幸せのためには犠牲が必要。たまたま今回の犠牲が私だっただけ。レベッカは自分に必死にそう言い聞かし、ビアンカの頭から手を離す。
そして、歩きだす。振り返らずに。
そうして、いつ終わるかも分からない、長い長い旅へと、レベッカは旅立ったのだ。

———それから10年、レベッカを見たものは、誰も居ない。