二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: どうぶつの森〜どうぶつ村の軌跡〜 ( No.35 )
- 日時: 2012/07/11 23:16
- 名前: るきみん (ID: JryR3G2V)
第一話
Ⅷ
「…ふぅん、誰から聞いたかは知らないし、興味もないけど…それならあなた、わかったでしょう?私の苦しみや…憎しみが…」
ビアンカさんは憎々しげに、地面を見ながらはき捨てるように言った。
確かに、ビアンカさんはとてもつらい思いをしている。私じゃわからないほどのつらい思いを…
こんなビアンカさんに、何を言うべきだろうか?慰めるべきだろうか?逆にそんなこと忘れろと叱咤するべきだろうか?
いや…そんなこと意味はない。今するべきは…
「何もいえないでしょう。いいわ、あなたに慰めてもらう気なんてないし。さあ、どきなさい」
「…わからないですよ」
「え?」
「わからないですよ、ビアンカさんの気持ちなんか」
「…ふん、何を言い出すかと思えば、そんなこと…」
「私には大好きなお母さんがいます。優しくて、強くて、悪いことをしたら叱ってくれる、お母さんがいます」
「…だからなんだっていうのよ!」
「私はそんなお母さんと一緒にずっと育ってきました。だから、小さいときにお母さんを失ってしまったビアンカさんの気持ちは、私には分かりません」
「それはようよ!あなたにはわからない!分かってほしいとも思わない!私は一匹狼、今までずっとそうだった!そして、これからもそう!」
「私が、代わりになります」
「…え?」
いままで息を荒らげて怒りを露にしていたビアンカさんが、目を見開いてきょとんとしている。
「確かに、ビアンカさんの今の気持ちは分かりません。今までの気持ちも。でも、これからの気持ちは、わかるでしょう?これから、私と、村の人たちと一緒に、今まで抜けてしまった暖かさや、楽しさを、これから埋めていけばいいでしょう?」
「…な…でも、あなたたち人間は信用できない。この村の人たちだって、信用できるなんて思えないわ」
「…知っていますか、10年前のこと」
「…人間がこの村を救ったとか、そんな話でしょ?」
「そうです…それで、この村を救ったって言う一人の少女は、私のお母さんなんですよ」
「!…だから、なに」
「お母さんも最初から村の住人に信用されていたわけではなかったんです。嫌われて、嫌われて、嫌われて…でも、一回もあきらめなかったと思います。だいたい、お母さんの性格から諦めるなんてありえないと思いますけどね…私もお母さんの娘です。絶対に諦めません。どんなに嫌われても、どんなに邪魔者扱いされたって、私は諦めません。ビアンカさんが、心を開いてくれるまでは」
「ふふふ…」
だんだんとビアンカの表情が和らいでいき、笑い出し、しまいには泣き笑いになっていった。
「ビ、ビアンカさん…?」
「…すこしだけどね、覚えているの。小さかったころの、お母さんが居たときの、あなたのお母さんが村に居たときのことを…ふふ、確かに、一回も弱音を吐いたところを見たことないわ。あのお母さんが根負けしたぐらいだもの…信じていいの、あなたのことを?」
「信じて、くれるんですか?」
「信じるまで諦めないって自分で言ってたじゃない。その言葉、少し信じてみるわ」
「ほ、ほんとですか…う、うれしいです!」
「あ、あんたが泣いてどうすんのよ…」
「だって…だってぇ…」
「…あなた、名前は?」
「うぇ?…みなみです…」
「そう…じゃあみなみ、その堅苦しい敬語を止めな。今日、今からアタシたちは友達だ!」
ニッコリと笑いながら右手を差し出すビアンカ。
みなみは涙を拭きながらその手をとり、ニッコリと笑う。
ビアンカは久々に味わった人肌のぬくもりに泣きそうになるが、それをこらえて前を向く。人間という呪縛から解放され、自由になった新しい生活を見据えながら。