二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

重ねられた影 ( No.74 )
日時: 2011/08/22 11:33
名前: ゆう ◆Oq2hcdcEh6 (ID: PdhEocoh)
参照: 参照300突破\(^q^)/

「——亜美?」

 放課後の教室。夕日に照らされながらぼんやりと黒板を見詰めているその儚げな姿に、不覚にも胸が高鳴った。偶々忘れ物を取りにきただけだというのに、とても幸せな気分になる。何時も見ていた姿、横顔。どうして今こんなにも彼女に釘付けになっているんだろうか、俺は勿論知らない。

「、円堂くん」

 ふんわりと微笑を浮かべた亜美に再び胸がどくんと脈打った。俺、亜美に恋してんのか? そんなはずは、無い、のに。普段の亜美らしからぬ弱々しさにどうしたのかと首を傾げてしまうけど、聞けるほど仲は良くないし、——そもそも、聞くこと自体が不躾な行為なんじゃないか。
 亜美を如何にか慰めようとでもしたらしき伸ばしかけた手は、亜美の暗い表情によって行き場を無くし、ゆっくりと下ろされた。亜美は傷付いた表情を浮かべ痛々しい笑みを見せるだけだ。嗚呼、苦しい。そんな表情やめろよ、なんて言えずただ何をするわけでも無く己の席に向かった。亜美の、斜め後ろ。喋ることは一切ないそんな席。

「なあ、亜美」
「——どうしたの?」
「何でそんな、表情なんだよ、」

 ただ亜美は笑うだけだ。何も言わず、ただ、ただ。なあ、亜美、お前の赤いそのに、俺は映ってないんだろ? なあ、お前は俺と誰を重ねてるんだよ? 俺は——俺は、

「風丸、くん、」

 俺じゃない人物の名を呟いて、亜美はただ傷付いた笑顔を此方に向けるだけだった。——やめてくれ。



(少年はただ、遠さを知る)