二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

 [012] ( No.110 )
日時: 2011/08/26 13:34
名前: ゆう ◆Oq2hcdcEh6 (ID: PdhEocoh)


「———アイスドロップ」

 突っ込んできた亜美は風の如き速さで瞬く間にほとんどの人間を抜き去り、囲んできたDFを見れば口角を釣り上げた。
 必殺技の名を呟いた刹那——亜美の周りにはふわりと雪の結晶が舞いボールが消える。一瞬の光に目を眩ませたDFの男の隙をついて亜美が素早く抜き去り、緩く蹴られたボールは速度を増しゴールへと突き刺さる。GKを務めていた女性は目を見開いたままで。

「口ほどにもないね」

 クス、と笑い声が込み上げてくる。くすくす、と笑い声は段々と増す。亜美のチームメイトはやれやれ、という表情を浮かべながら亜美が戻ってくるのを待つ。前半0分、スコアボードには1-0。
 幸也は「流石俺の娘だ」なんて満足げに頷いており、チームメイトは呆然としたままだったが、それでも吉良星二郎は何処か満足げに笑う。

「……、亜美」

 それを見詰める赤い髪の少年———ヒロトは、何処か悲しげな表情を浮かべていた。ゆっくりとヒロトへ視線を移した亜美が笑う。見下すような、そんな笑み。それが痛々しく思えてヒロトはふい、と視線を逸らした。



 目を覚ますと、見慣れない風景。嗚呼、そうか——あたし、お世話になってるんだよね。ゆっくりと目を開いた彩音は、脳裏を過るサッカーの光景に眉を寄せた。さて、この光景は一体何だっただろうか。
 見たことがあるようでないようなそれに、彩音は眉を寄せたまま立ち上がり、部屋を出る。お早う、という音村の言葉に笑みと挨拶を返し、彩音は「えと、浜辺に居ます」とだけ告げて家を出た。ゆっくりと、鮮明に思い出していく記憶。徐々に彩音は“亜美”と“香奈”の全てを知っていく。そうなるに連れて、心がただ痛んだ。

「サッカー、かぁ……」

 手元にある白と黒のサッカーボールは先日、豪炎寺より預かったものだ。お前が持っていろと半ば強制的に渡されたそれ。何処か見覚えがあるそれに、彩音は記憶を必死に掘り返していた。

「彩音——ッ!」

 不意に、聞きなれた可愛らしい声が響く。

 ——誰?

 そう言葉を発する前に、その声の主は思い切り彩音に抱き着いた。衝撃に眉を寄せる彩音だが、その人物が自分のよく知る人物だと気付けば抱き留めて笑みを浮かべた。

「ティアラ、ちゃん」
「、心配した……! いきなり消えちゃって、それで、」

 本気で心配してくれたらしいティアラに、彩音はごめんねとだけ謝る。悲しげな表情から、嬉しげな表情を浮かべた彩音は遠方に見える人影に笑みを浮かべた。
 円堂守。彩音を引っ張ってくれて、受け入れてくれた人。

「お帰り、彩音」

 にっこりと笑みを浮かべ、いまだティアラに抱き着かれたままの彩音は笑みを浮かべた。ただいま、と口が動く。嗚呼、やっぱりあたし、円堂君達と居たい。まだ亜美のことは引っ張っていても、包容力のある円堂を見れば彩音は不意にそう思ってしまった。
 しかし、再び凍り付く。キャラバンのメンバーと一緒に居たのは、見覚えのある人物だったから、だ。

「ラティア、さん、」
「——亜美に言われただけよ。貴女の、この人たちの様子を見てくれって」
「、あ、有難うございま、す?」

 別に、と返すラティアに彩音はやんわりと笑んだ。次いで、遠くから此方へやってくる瑠璃花と魁渡の姿も視界に入り見る見るうちに表情は輝く。

「あたし、また——キャラバンに、入って良いの?」

 ゆっくりと、尋ねるかのような口調で首を傾げた彩音に、その場の全員(一部は除くが)が頷いた。

『当たり前だろ(でしょ)!』







仲間に恵まれている彩音ちゃん。
アイスドロップはオリジナル技でしあ。