二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

 [017] ( No.131 )
日時: 2011/08/28 13:47
名前: ゆう ◆Oq2hcdcEh6 (ID: l78GGQ1X)


 ごめんなさい。

 誰も居ない病院の屋上で、静かに呟いた。亜美ちゃんを慰めて、傷つけていたのはあたしなんだ。誰よりも苦しいのは亜美ちゃんで、でも、誰よりも善人ぶってたのはあたしなんだ。
 ——馬鹿みたい。
 下手な慰めをして、亜美ちゃんが笑うと信じ込んで、自分だけ引き取られて、幸せに暮らしました。ふざけるな、と言われても過言ではない幸福な人生。でも亜美ちゃんは? お母さんを亡くし、お父さんは忙しく、結局引き取って貰えず、お姉ちゃんも居ない。それでも、亜美ちゃんは笑ってくれた。何も覚えていない馬鹿なあたしに、笑いかけてくれた。香奈ちゃんのことも、何もかもあたしは忘れていた。なのに、FFの時も予選の時も、亜美ちゃんは笑ってくれた。

「、っうぁ」

 嗚咽と涙が零れる。ぽたり、と地面に落ちては吸い込まれていく。苦しくて仕方なかった。あの時、香奈ちゃんによく似た人物は救えるのはあたしだけと言っていた。でも、あたしは亜美ちゃんを傷付けているだけなんじゃないの? あたしが救えるはずがない。あたしは、亜美ちゃんを——傷つけて、それで。

「……彩音、大丈夫」
「、香奈、ちゃん、———?」
「貴女は、一人じゃないわ」

 両肩に優しく手が乗る。あの時の香奈ちゃんによく似た人——ううん、香奈ちゃんが笑っていた。涙が、止まる。驚いて香奈ちゃんを見詰めるあたしに、香奈ちゃんは穏やかに笑った。あの頃と変わらない、優しく、穏やかな笑み。

「……私はもう生きてる人物じゃないわ。でもね、力になれると思うの」
「幽霊、なの、?」
「……それともまた別かしら。意識自体はまだ眠ったままよ」

 香奈ちゃんは語る。あの日、香奈ちゃんは確かに死んだそうだ。でも、亜美ちゃんの必死の表情を見ていて思ったらしい。このまま、あたしと亜美ちゃんを置いて行くわけにはいかないと。亜美ちゃんはエイリア学園に入り、重大な罪を犯したと香奈ちゃんは言う。でも、香奈ちゃんは笑った。彩音、貴女が救うの、と。私はもう生きていられないから、貴女に任せるしかないの、と。

「……私の体はまだ、植物人間という状態だけど残っているわ。何処にあるかは言えないけれど。でも、私、もう亜美の前に現れる必要はないと思うの。だから、私はきっともうすぐ死ぬ」
「、つまり、香奈ちゃんはまだ完全に死んでないってこと……?」
「そういうこと。この事件が解決するまで、私は貴女の傍で見守っているわ。亜美の様子も、彩音の様子もね」

 ふわりと、黒い髪をなびかせて香奈ちゃんはあの時のように景色に溶け込んで消えていった。涙はもう、止まっている。

「分かったよ、香奈ちゃん」

 ゆっくりと笑んで、あたしは歩き出した。向かったのは大海原中学校。亜美ちゃんはきっと、部屋にもう居ないだろうから(だって、亜美ちゃんの黒髪がさっき見えたんだもん)。亜美ちゃんも亜美ちゃんでキャラバンの皆を心配しているのか、大海原中学校に向かうらしい。小さく笑み、あたしは病院を出た。


(彼女の影)