二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

 [007] ( No.61 )
日時: 2011/08/08 19:28
名前: ゆう ◆Oq2hcdcEh6 (ID: NXpyFAIT)


「——お父様ァ!」

 切羽詰まった亜美の声に、お父様と呼ばれた人物——吉良星二郎はゆっくりと亜美を振り返る。笑みを浮かべたまま、どうしたのですかと此方を見据える吉良は亜美を苛立たせるだけだった。

「な、ぜっ……何故我等がジェネシスじゃないんですか!」
「おや、知ってしまったんですか」

 だん、と亜美が壁を叩いた音がその場に響き渡る。ぎり、と噛み締めた唇は白くなっていて血の出る寸前と言ったところだ。
 吉良は相変わらず考えていることの読めない飄々とした笑みのまま、宥めるように亜美が絶望する言葉を紡ぎ出した。
 “お前達が弱いからです”と。その言葉に亜美の頭は真っ白になる。う、うそ。と、亜美の口から言葉が零れ落ちる。それは最愛のオトウサマに裏切られたといっても過言ではない言葉、で。

「嘘っ、だ……私達は強い! ヒロトより、——グランよりも!」

 信じられない、と。顔色が蒼白になり、亜美はその場から消える。ひんやりとした廊下で亜美がただ俯いた。後ろから、薄紅色の髪をポニーテールに結った少女——桜架が現れる。ぽん、と慰めるかのように亜美の肩に手を置いた亜美より数センチ高い桜架は哀しげに言葉を紡ぎだす。

「あたし達は本物にはなれないんだ」

 本物。
 それが亜美や桜架が目指したものだった。ヒロトが吉良ヒロトを目指すのと同じように、亜美達も目指す人が居る。お父様に愛される為に、ただひたすら本物になろうとしていたのに。

「——行こう、亜美」
「お、うか……」

 差し出された右手を亜美は素直に取る。ただ笑みを浮かべた桜架に、亜美も笑顔を返すしか無くなっていて。
 お父様、と無意識に零れた呟きは亜美のものなのか、桜架のものなのか、二人のものなのか——呟いた人物だけが、それを知る。