二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

 [ 001 ] ( No.8 )
日時: 2011/07/18 12:25
名前: ゆう ◆Oq2hcdcEh6 (ID: /HyWNmZ0)


「——負けちゃった。何だかつまんないなあ、ねえ、ヒロト?」
「そうだね。……守達は驚く程早く進化しているみたいだ」
「よおく頑張りました……でもね、アンタ等、ダサ過ぎるよ」

 くすくす。
 雪が積もり、真っ白になった世界に、楽しげな笑い声が響き渡り、心底冷たい声音で馬鹿にするような言葉がエイリア学園セカンドランク、ジェミニストームの面々へと振りかかる。
 特徴的な髪型——否、エイリア学園は基本的に特徴的である——をした少年、レーゼが怯えきった瞳で真っ直ぐに少女、亜美を見据えていた。基本的に亜美は怒らない人種だし、どちらかと言えば泣きやすい人間だ。しかし、——彼女には、何処か深い闇があるように見える。笑顔は何れも張り付けた作り笑いばかりだ。時折見せる見下したような瞳は冷え切っている。

「……イプシロンに期待しよっか」

 遠くで呆然と此方を見つめている雷門イレブンににこやかな笑みを浮かべ亜美は背を向ける。しゅ、と空気を切るような音がして現れた黒髪の少年の瞳がぎらりと妖しく光る。ひらひらと振った手は雷門イレブンではなく、恐怖に怯えきる瞳をしたジェミニストームの面々に向けられていたようにも見えた。
 亜美はエイリアが持つ、黒いボールを蹴り上げ、そして思い切りそれをゴールに向けて蹴る。何時の間にかジェミニストームの面々及び黒髪の少年は消え、初めに彼女にヒロトと呼ばれていた少年も消えていた。亜美はそのボールがゴールに突き刺さり、ネットが破れ散り散りになったのを確認すればにやりと不敵な笑みを刻み雷門イレブンに挑発するかのようにお辞儀をしてみせた。

「お、おい! 亜美なんだろ!?」
「待って——亜美ちゃん、」

 びくり。
 さっさと帰ろうと背を向けていた亜美の体が大袈裟に見える程震え、ちらりと此方に視線を移す亜美の姿が彩音の目に映る。嘗ての仲間との再会はあまりにも面白くないものだった。彩音と円如何に名を呼ばれた途端に広がる笑み。まるで、この状況を心底楽しんでいるかのようだった。
 そんな亜美の態度に、やはり染岡が突っかかる。

「てめえ!! 元々の仲間に対する態度がそれかよ!」
「——仲間? 残念だけど、私、覚えてないなあ。今の家族しか、」
「家族?」

 わざと惚ける亜美に、雷門の面々はぎり、と唇を噛み締める。そんな中、家族と言う言葉に彩音が首を傾げた。亜美は小さく頷き、家族だよと言葉を繰り返す。

「……、大事な家族の為に、私は」
「仲間を裏切っても良いんだ?」
「——うん。これがお父様の望みだから」

 最も、一気に崖下へ突き落すようなこの裏切り方を考えたのは亜美自身である。亜美自身がやると言いだし、自身が自ら仲間を裏切った、それだけのこと。
 亜美の家族とやらに一切の責任は無い。“お父様”という存在の望みを勝手に解釈してかつての仲間を全て裏切る。これは亜美が望んだことなのだった。
 淡々とした口調で、父親の望みだからという亜美に何故か彩音は哀しさを覚えて視線を下へと向ける。真っ白な雪が目に痛い。かちかちする。

「——じゃあね、また会えると良い」

 彩音の様子を見てほんの一瞬、亜美の瞳に不安げな色が映り込む。しかし、すぐに何事も無かったかのように亜美は再び背を向けた。その様子に気付いたのは、鬼道と吹雪だけだった。

「あの子は一体……?」
「元雷門イレブンのエースと言える存在だ」
「如何して裏切っちゃったの?」

 亜美の事を知らない吹雪が首を傾げ、痛い所を突いてくる。鬼道はやや暗い表情を浮かべつつ小さく答える。

「……分からん。だが、お父様という人物に関係しているとは思う……総帥と俺みたいなものだろう」
「……ふうん、」

 総帥と言う言葉が気に掛かったものの、暗い表情をしている鬼道にはこれ以上何かを聞くことは流石に吹雪でも出来なかった。鬼道だけでなく、円堂や彩音達雷門イレブンのほとんどが難しい顔をしていたからだ。何にせよ、吹雪には興味対象が増えたと言える。

「亜美ちゃん、どうして……、」

 ぽつりと呟かれた彩音の言葉が白い景色に吸い込まれ、誰の耳にも届くこと無く虚空に掻き消された。



( 裏切りの裏には何が存在するのだろうか、 )



「気分はどう? 悪いよね、嘗ての仲間を裏切ったんだから」
「……別に、お父様の為、お父様の望みだから」
「あの人は裏切れなどとは言っていない。早とちりし過ぎだろう」
「——でもよ、何れ裏切るつもりだったんだろ?」
「…………うん、そうだよ」

( 笑みを浮かべて哀しさを消す )