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二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- 飲めもしないそれを流し込む度、 ( No.77 )
- 日時: 2011/08/07 10:45
- 名前: ゆう ◆Oq2hcdcEh6 (ID: uUVs9zNY)
「苦、」
ぽつ。
真っ黒い砂糖もミルクも入れていない珈琲を流し込めば思わずそんな呟きが漏れた。まるで恋のようね。苦くて甘くて——虚しい。彼との思いでの味。珈琲を易々と飲む彼は少し憎らしかったけど。
溜息を零しながら再びそれの入ったマグカップに口を付ける。独特の苦みに思わず顔を顰め、それでもそれを飲み続けた。こうすることで己の中にある全てが消え去る気がした、から。どうせなら嫌な思い出も甘い思い出も全部全部黒く苦く染まってしまえばいいのに。ぽたり、と雫の落ちたアルバムを放り投げた。
「——すまない、遅くなった」
「10年も何処行ってたのよ、——馬鹿」
がしゃん、と乱暴にマグカップを机に置いて。私は眉を下げて困ったように笑う彼の腕に飛び込んだ。マグカップは綺麗に何も無くなってて。私、コーヒー飲めるようになったんだ。自慢するかのようにマグカップを指差せば彼がくつくつと喉の奥を鳴らして笑った。
「これからは一緒に居れる」
「居ないと許さないから」
そんな甘い夢を見た。
彼はきっと、もういない。
「——っぁあああぁああ!」
叫ぶほどに残る虚無は私が生きている証拠、で。頬を伝う滴を私は涙だと認めなかった。ゆっくりと口に含んだ珈琲を喉の奥へ流し込む。苦くて苦しいのは、きっと彼のせい。
( 貴方を想い出すのは、何の因果でしょうか )
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