二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 欲望Vortex【イナイレ、ボカロ短編集】 ( No.28 )
日時: 2011/08/01 17:31
名前: 藍蝶 (ID: UgVNLVY0)

第2話「パラレルと魔法と眠った自分」


「さぁ、落下するわよ!頭から落ちない様にね」

クスッとナツミが笑うと頭上には赤いカーペット……
彼等は逆さまになって落下している。途端に二人の体がズン、と重くなった。

「うわぁっ!!」

クルクルっと2回転して綺麗に着地したナツミに対し、円堂は案の定頭を強くぶつけた。少々涙目になっており、
ナツミも呆れた顔をしている。

「だから言ったでしょう?もう……カーペットがあるだけ助かったと思いなさい。下は大理石よ?はい」

呆れ顔のまま差し伸べられた手に対し、円堂は素直にありがとう、と言って起きあがった。

「御免なさい……生憎私は剣士だから、痛みを和らげる事は出来ないの……」

今度は困った様に顔を歪ませ、俯いた。こちらの夏未はかなり素直な様だ。

「いや、いいよ。つか、剣士?夏未が?あれ、ここ理事長室……?」
「詳しい事はあとで説明するから、ついてらっしゃい」

言われるがままについていく。廊下はとても静かで、コッコッと鳴るナツミのローファーの音だけが聞こえる。
ナツミが「医務室」とプレートが下げられた部屋の前で止まり、どうぞ、と手招きした。

「し、失礼します……?」

おそるおそるドアを開けると、見慣れた顔ぶれが。
風丸、豪炎寺、基山、立向居。4人は一つのベットの周りを囲って入って来た円堂を凝視した。

「本当だ……魔法書に書いてあった通り姿形は同じなんだな」
「本当ですね、ウィンドレスさん。ていうかホントに連れて来ちゃったんだ……」
「見た感じ今は魔力無いみたいだけど」
「後で”忠実の魔法部屋”にでも連れていかれるんだろう。心配するな」
「え、えと……?あれ、風丸!立向居に豪炎寺!あ、それにヒロトも!?」

円堂一人がはしゃぐも、皆きょとんとしている。

「あ、あのね、円堂君……?言ったじゃない、この世界にいる人達は貴方とは全くの別人だって」
「あ、そうか……ごめん、名前聞いてもいいか?」

皆が溜息を吐いた。これで溜息吐かれるのは何回目だろうと円堂自身も自覚してくる頃である。

「俺はイチロウタ=ウィンドレス。名字の方がインパクト強いから皆ウィンドレスって呼んでる」
「あ、俺はユウキ=セプローナです!ウィンドレスさんと同じくです」
「シュウヤ=スタックナイト。同じく」
「俺はヒロト=コスモディオン!普通にヒロトって呼ばれてるよ」

一気に言われて円堂混乱。

「えっと、イチロウタ=ウィンドレク、」
「ウィンドレスだ」
「あ、そうそうウィンドレス……で、ユウキ=カルパッ、」
「セプローナですっ!」
「うえぇ?すまんすまん、それからシュウヤ=豪炎寺……いやスタックナイト。ヒロトはヒロトでいいんだよな」

順番に整理していく。最もヒロトはヒロトなので、分かりやすい。そのヒロトが、

「あ、確かワミガリスがキミのグローブ持ってったんだよ。何属性が一番ふさわしいとかで」
「え、マジ!?どこどこそのワニガリス?がいる場所って!」
「ワミガリスね。”粛清の機類室”にいるんじゃないかな。多分そこで火花散らしてると思うから気をつけて。あ、はい地図」

腰に付けた鞄から手際良く少し古びた地図を取り出すヒロト。よく見れば鞄の中には無数の同じ様な地図。案内人とかだろうか。

「ありがとな、ヒロト!じゃ行ってくる!」

ナツミにひらひらと手を振られながら、勢いよく扉を開けて走りだす。

「何であいつを連れて来たんだ?ヒロトの《透明(ステルス)》がなけりゃどうなって、」
「まぁまぁ、イチロウタ君。少しでも顔を見ておきたくなかったの?あ、ヒロト君、解除していいわよ」
「了解」

4人が囲む真っ白いベットに、人が浮き出てきた。いや、浮き出るなど心底奇妙なものではなく、隠されていた。
そしてその顔は、円堂守と瓜二つ。こちらの世界のマモルである。
しかし、彼は目を閉じて静かに眠っている。今彼には現実の意識がない。

「表と裏。絶対に顔を合わせる事の無い存在。もし合わせるような事があったら……しかも二人共今魔力を持っていない状況下。目を覚ましているドルビアがいればいいが、そうもいかない……それはナツミ、お前自身がよく知ってる事じゃないのか?身近に禁断に対する処罰を見たお前が」

イチロウタの口調は、いつになく厳しい。同じ過ちは二度と犯すな。学園の教訓第八十一を作ったのは紛れも無く彼であった。
ナツミはそのまま俯いてボソボソ喋り出す。夏未ならこうは行かないと思う。

「私だって、知ってるわよ。でもここにはヒロト君がいつもいるでしょう。《透明(ステルス)》を使ってくれるって……」
「ナツミさん、落ち込まないでください。引きずる事ではありませんから」

ユウキはいつでも優しいので、頼ってくれる人も頼る人も多い。
社交的らしいので、こういう気遣いも少しは出来る。

「だが、」

イチロウタが言いかけた時、医務室の扉が小さくコンコン、と叩かれた。

「すいません、アサヒです。アサヒ=K=アルティナ。入室許可お願いします」
「アルティナさん……?あ、どうぞ、お入りなさって」

ナツミが目を服の袖で拭い、答えたと同時にカチャリとドアが開いた。

「錬金薬、持ってきました」

入ってきた少女は右手にガラスの小瓶を持ち、静かに微笑んだ。

「有難う、アルティナ。錬金術に置いてトップの実力を持つお前の薬、少しではあるが効いているようだ。感謝する」
「感謝はマモル君が目覚めた時に」

そう言って少女、アサヒは左手をマモルに翳し、

「《治癒(ハイミッテル)》」

と唱えた。小瓶の中の緑の粉末が輝き出し、マモルの体内に吸収されていく。
やがて光は収束した。

「これで、今日の治療は終わりです。二日後、また来ますんで」

失礼しました、と言ってアサヒは部屋を後にした。