二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: Sなアイツにご用心!! 【イナGO】 ( No.16 )
日時: 2011/08/16 19:01
名前: 奈義沙 (ID: Ru7e1uoX)

聖「な、なんだ?」

 聖那が後ずさりすると、剣城はにやりと笑って近寄ってきた。

 それでも聖那が後ずさりしていると、そのうち背中が壁に当たった。

 しかし、剣城は構わず近寄ってきた。

 聖那は不良スイッチを入れた。

 不良スイッチを入れると、聖那は最狂不良へと意識を変えられるのだ。

 だがその必要はなかったらしく、剣城は聖那の顎に手を添えた。

聖(なっ!)

 いきなりの出来事に、周りも聖那も声が出なかった。

 そのまま剣城は真顔で口を耳元へと持っていき、少しかすれた声で

剣「カワイイな。お前」

 と囁いた。

聖「ひっ」

 聖那は背筋がぞくぞくとした。

 気を確かに持っていないと、力が抜けちゃいそうだった。

 さっきから周りは黙ったまま、動こうともしなかった。

剣「こんなに顔はいいのに、性格がこんなんじゃあな」

 また囁いてきた。

 今度は面白がっている風だった。

聖「う、うるさい! あんた、このあたしをからかってんの?」

剣「だとしたら、どうする?」

聖「うっ。そ、それは……」

 どうする、と聞かれても困る。

 もちろんボコるのだが、聖那は瞬時に「こいつ、Sだな」と悟ったせいか、なかなかそうも言えなかった。

聖「そ、それより、耳元で囁くのは止めろ! お前のその声を聞くと、背筋がぞくぞくするんだ!」

 そう叫ぶと、剣城は必死で笑いをこらえた。

 聖那にとっては、腹立たしい以外の何物でもない。

聖「何がおかしい!?」

剣「何がって、お前さぁ、自分の顔を見てから言ったらどうだ?」

聖「それ、どういう意味だ?」

剣「説得力がねぇんだよ。その顔で言われても」

 そう馬鹿にしたように言って、剣城はどこかに行ってしまった。

聖「その顔って言われたって。おい松風天馬! あたし、今、どういう顔してる?」

松「えっ!? どういうって言われても」

 しどろもどろしている松風が異様にうざったらしく思えた。

聖「はっきりと言え!」

 そう一喝すると、

松「はいぃっ!」

 と変な声を挙げた。

 そして、少ししてから

松「え、えぇと、真っ赤だよ」

 と怯えるように言った。

聖「へ? 真っ赤?」

松「うん。真っ赤だよ。だから、カワイイ」

 ニッと笑い、松風はダッシュで自分の教室まで行った。

聖「……」

 聖那はまさかと思い、左手の甲を右頬に当てた。

 するとすごく熱く、聖那自身もびっくりした。

聖(アツい)

 それに加えて、心臓がバクバクとうるさかった。

 左手をそのまま首にやると、鼓動がいつもより大きく早くなっている事に気付いた。とたんに聖那の体内は火が点いたかのように熱くなった。

聖(なっ。も、もう、やだ)

 気が付くと、聖那は走りだしていた。

 行先はわからないが、とにかく走っていた。

 そんな自分の行為に対する恥ずかしさと、さっきまで感じていた自分の大きく早い鼓動のせいで体中——頭の先から足先までが熱くなった。

 走って、走って、走って、走った。

 だけど体の熱さはとれず、逆にもっと熱くなった。

 とっくにチャイムは鳴っていて、どの教室もドアが閉まっていた。

 その風景は聖那に恐怖を与えた。

 ——『クフフフ……』

聖「だ、誰っ!?」

 不意に聞こえた笑い声に、聖那は恐ろしさを感じた。

 ——『ねぇ、見て。あの子の机』

 ——『うっわ。汚ぁい。落書きばっかじゃん』

 ——『可哀そ。誰にやられたんだろうね。クスクスクス』

聖「!」

 聖那の脳裏に、あの悪夢がよみがえった。

聖「や、やめて……!」

 ——『おい近寄んなよ! 汚れるだろ?』

 それは忘れ去ったはずの、幾年も前の出来事。

 聖那を唯一苦しめた、小学校の頃の事。

聖「ふざけるなっ」

 ——『いったーい。誰かぁ、先生呼んでぇ? 飛鷹サンのせいで、怪我しちゃったぁ』

聖「くっ」

 ——『飛鷹さん。なんであなたはいつも皆に暴力ばかり振るうの?』

 信じていたのに、信じてもらえなかった。自分が信じたことを、掻き消すかのように。

 毎日のように親が学校まで行って、先生と誰かの親に頭を下げて、泣いて、あたしに謝るように促して。

 ——『もう、なんであなたはいつもこうなの? 征矢が更正したと思ったのに!』

 ——『お前たちにはがっかりした! 特に聖那! お前は私の恥だ! 私はもう、お前のことを娘だと思いたくもない!』

聖「お父さん、お母さん……い、いやぁぁぁぁあ!」

?「お、おい! どうした!?」

 聖那は誰かに支えられたことは覚えているものの、それから先は気を失ってしまい、全く覚えていなかった。


 最狂の憂鬱……それは、心の底から狂いだすとなんとなく感じ取ったからなのか?