二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 402章 役 ( No.535 )
- 日時: 2012/07/26 10:23
- 名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: QpE/G9Cv)
- 参照: http://www40.atwiki.jp/altair0/pages/308.html
「ウォーグル、バンギラス相手じゃ相性からして不利だ。だからまずは能力を上げるぞ。ビルドアップ!」
ウォーグルはひとまず筋肉を増強し、物理能力を高める。こちらには鋼の翼があると言っても、相手はバンギラス。そう簡単に倒れる相手ではない。なのでとりあえずは、決定力、そして防御力を高めるが、
「バンギラス、龍の舞」
バンギラスも自らを鼓舞するように、力強い龍のように舞い、能力を高める。
「!? なに……っ!」
イリスは目を見開く。ただでさえ強力なバンギラスに、攻撃と素早さを上昇させる龍の舞。かなり厄介な技を使ってきた。
「どうした。この程度で驚かれても困るぜ。バンギラス、ストーンエッジ」
バンギラスは周囲に尖った岩を浮かべ、一斉発射する。
「ウォーグル、下手に撃ち落とそうとして喰らったら世話ない。ここは回避だ!」
ウォーグルは襲い来る鋭い岩を、三次元的な素早い動きで全て回避する。ストーンエッジは強力ではあるが、穴は多い。避けることはそれほど難しくはないのだ。
「ウォーグル、鋼の——」
と、指示を出そうとしたところで、イリスは言葉を止めた。
(下手に突っ込めば、取り返しのつかないことになるかもしれない。相手はあのギーマさん。今までのバトルで、あの人がどんな手を使うのかは分かっている。だからここは、慎重に行こう)
「ビルドアップ!」
ウォーグルは硬化させていた翼を元に戻し、すぐさま筋肉を増強させる。これでビルドアップは三回使用したことになる。
「ほぅ、攻めてこないか。ならどんどん攻めさせてもらうか。バンギラス、ギガスパーク」
バンギラスは一抱えほどもある巨大な電撃の塊を作り出し、ウォーグルへと放つ。バチバチと弾けるそれは、見るからに強力そうで、ウォーグルでも喰らえば致命傷は避けられないだろう。
「回避だ!」
ウォーグルは大きく旋回し、その電撃の塊を回避する。
「ブレイククロー!」
そしてバンギラスに接近すると、素早く爪で切り裂き、すぐに離れる。
ここで鋼の翼ではなくブレイククローにしたのは、鋼の翼だと一瞬でも翼が使用されるので、反撃が来ると対応が遅れるためだ。しかし爪を使う攻撃なら、すぐに回避行動に移れる。
「ふむ。バンギラス、ぶち壊す」
「かわしてブレイククロー!」
全てを破壊するような勢いと殺気を放ちながら突っ込んで来るバンギラスから距離を取り、ウォーグルはまたすぐ接近して爪の一撃を見舞う。ビルドアップで能力を高めているとはいえ、効果はいま一つ。さらにバンギラスもそれなりに硬い。決定打には乏しいダメージしか与えられない。
「もう一度ぶち壊す」
バンギラスはすぐに切り替えし、強烈な拳を振るうが、ブレイククローだったのが幸いしたのか、その拳はウォーグルを掠めることもなく、空を切った。
「一旦距離を取るんだ、ウォーグル」
攻撃を外して隙のできたバンギラスだが、イリスは反撃を指示せず、むしろバンギラスから離れていく。
しかし、
「龍の舞」
バンギラスは龍のように力強く舞うと、その巨体からは考えられないようなスピードでウォーグルへと接近する。まだギリギリウォーグルの方が速いが、それでもあと一回龍の舞を使われたら、抜かれてしまうだろう。
「バンギラス、ストーンエッジ」
バンギラスは周囲に浮かべた鋭い岩を、ウォーグルに向かって一斉に発射する。しかし最初と違うのは、その量。龍の舞で攻撃力を上げたからか、岩はかなり増量されている。
「これは避けられないな……ウォーグル、ビルド——」
そこでイリスは、一瞬迷う。このままビルドアップで防御力を高め、攻撃を耐えきるか。いや、耐えきれるのか。それとも、ブレイブバードで一気に突っ込むか。どちらの生存率が高いか、一瞬の逡巡により決定する。そして、
「——ブレイブバード!」
を、指示した。
ウォーグルは燃え盛るエネルギーをその身に纏い、超高速でバンギラスへ突っ込む。勿論、その途中で鋭い岩が襲い掛かるわけだが、しかし高密度のエネルギーを纏っているウォーグルにとって、その岩はさしたる脅威でもない。全て打ち砕いていく。
そうこうしているうちにウォーグルは、岩を全て砕き、バンギラスにかなり接近していた。
(よし、あとは軌道を修正して、バンギラスから離れれば——)
そんなことを考え、指示を出そうとするイリスだったが、しかし、それは甘いとしか言いようがなかった。相手は四天王、それも勝負師ギーマ。四天王の中で——いや、チャンピオンを含め、最も相手の手の内を読み取る事に長けた者だ。至極単純なイリスの手が、読めていないわけがない。
「バンギラス、ぶち壊す」
イリスが指示を出すよりも、ウォーグルが軌道を修正するよりも速く、バンギラスの鉄鎚がウォーグルの体に叩き込まれた。
ウォーグルは地面へと墜落。小さなクレーターを作り、床にめり込んでいた。
「ウォーグル!」
まだギリギリ戦闘不能ではないようだが、バンギラスの本気の一撃をまともに喰らったのだ。しかも運の悪いことに、急所を掠めている。ビルドアップを使っていると言っても、相当なダメージだ。戦闘不能でないことが奇跡である。
「一つ、教えてあげよう」
ギーマは余裕綽々の表情、そして声で、イリスに言う。
「私は確かに戦術を駆使するタイプのトレーナーだ。勿論ポケモンの育成もするが、それ以上に戦術を大事にするタイプ。しかし、だからといって、全てのポケモンに複雑な役割を与えているわけではない」
イリスは、何も言えずに黙って聞いている。そうさせる異様な空気が、ギーマにはあるのだ。
「たとえばレパルダス。彼女は素早さの裏をかく。どんなに素早いポケモンよりも速く動く役割を担っている。たとえばズルズキン。彼女は回避と必中の裏をかく。当たると確信した攻撃、かわせると確信した回避を否定し、相手の攻撃を確実にかわし、自分の攻撃を確実に当てる役割を担っている。これらは全て、複雑怪奇なカードの役のようなものだ。しかし、このバンギラスは違う。こいつはジョーカー、ワイルドカードだ。戦術なんてなくても、単体で十分強い。ただ、力任せにねじ伏せるだけ」
言って、ギーマは次の指示を出す。
「ギガスパーク」
バンギラスは巨大な電撃の塊を生成し、ウォーグルへと放つ。疲労困憊で動けないウォーグルは、その攻撃を回避することもできずに、戦闘不能となった。
一日で二回更新するなんて久しぶりだなぁ、と感傷に浸りつつの、ギーマ戦その四です。今まで戦術を練って戦っていたギーマですが、ここに来て手を変えてきました。複雑な動きは見せず、ただ力任せでねじ伏せます。さてウォーグルが戦闘不能になり、相手は龍の舞を二回積んでいるバンギラス。イリスはこのバンギラスをどう攻略するのか。次回もお楽しみに。