二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 421章 殿堂 ( No.568 )
日時: 2012/12/23 01:44
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: 0aJKRWW2)
参照: http://www40.atwiki.jp/altair0/pages/308.html

 ハイドロカノンと破壊光線。双方の必殺技とも言える大技が互いにぶつかり合い、激しいエネルギーの余波を放ちながら、鎬を削り合う。
 だが、その拮抗も綻び始め、いつかは変化をもたらす。その変化とは、ハイドロカノンが光線を飲み込むか、破壊光線が水の弾丸を貫くか、はたまた共に消滅するのか。やがて、その結末が明らかとなる——

 ——破壊光線がハイドロカノンを貫き、ダイケンキ諸共吹き飛ばした。

「!? ダイケンキ!」
 恐らく、イリスはこの戦い、いや四天王との戦いも含め、最も驚愕に満ちた表情を見せる。
 ダイケンキの持つ最大火力の大技、ハイドロカノン。それはイリスとダイケンキを幾度と窮地から救った必殺技である。危機に瀕した時も、絶体絶命の縁に立たされた時も、絶望を味わうような困難が襲ってきた時も、それを乗り越えるための道を作り出し、導いてくれた技だ。
 それが、破られた。
 驚愕というより、これこそ絶望というような、真実を真実と受け止められない虚無感が、イリスの中で生まれていた。
「嘘、だろ……? ハイドロカノンが、破られる、なんて——」
 ウルガモスの破壊光線を受けたものの、威力が減衰されていたためにダイケンキはそれほど大きなダメージを受けていないが、ダイケンキもイリス同様、自身の必殺技が破られ、困惑している。
 対照的に、その必殺技を撃ち破ったウルガモスのトレーナー、アデクは豪快に笑っていた。
「はっはっは! そう落ち込むな、イリスよ。お前さんのダイケンキは確かに強いよ。地力なら、儂のウルガモスと同等か、それ以上の素質を秘めておる。しかし、今のウルガモスは、ちぃっとばかり猛っておる」
 アデクの言葉を受け、イリスの視線がウルガモスに向く。そして、気付いた。
 ウルガモスの翅から、炎が溢れ出していた。
 これは、ポケモンの能力値が高まった時に起こる現象の一つだ。
「ウルガモスがリーテイルを倒した技を覚えているか?」
 アデクが問う。流石にそれくらいは覚えている。炎の舞だ。あの炎で、リーテイルはやられた——
「! まさか……!」
 またも、イリスは気付いた。ウルガモスの能力上昇の理由が。
「炎の舞は、攻撃と同時に特攻を上昇させることのある技。最初の一回目は発動しなかったようだが、二回目で能力が上がったようだ」
 つまり、今のウルガモスの特攻は技の効果で高まっていたから、ダイケンキのハイドロカノンを撃ち破れたということらしい。
 その事実を聞いて実際の地力でダイケンキが負けたわけではないと知り、イリスは安堵するが、しかし状況は変わらない。ウルガモスの特攻はかなり高い、その事実は不変だ。
「ウルガモス、暴風!」
 もう話は終わりだと言うように、ウルガモスは激しい暴風を発生させる。
「くっ、ダイケンキ、吹雪!」
 ダイケンキも猛吹雪を放って対抗するが、炎の舞で特攻が上がっているウルガモスの暴風は止まらない。吹雪を吹き飛ばし、そのままダイケンキを襲う。
「今だ、炎の舞!」
 暴風を喰らって身動きが取れない隙を狙って、ウルガモスがダイケンキに接近する。ダイケンキの周囲を旋回するように舞い、ダイケンキを炎で包み込んでしまう。
「吹雪!」
 ダイケンキは自分の周りに放つように吹雪を発生させ、纏わりつく炎を吹き飛ばす。
「もう一度炎の舞!」
「シェルブレードだ!」
 再び炎を纏って襲い掛かるウルガモスに対し、ダイケンキは二刀流のアシガタナでその動きを止める。火力は先ほどと変わっていないようなので、特攻は上昇していないようだ。
「切り裂け、ダイケンキ!」
 片方の刀でウルガモスを止めつつ、もう片方でその燃える身体を切り裂く。効果は抜群なので、ダメージは大きいはずだ。
「メガホーン!」
 アシガタナで切り裂かれて怯んだ隙を狙い、ダイケンキは力強く角を突き出し、ウルガモスを突き飛ばす。
「やるではないか。ウルガモス、虫のさざめき!」
「吹雪で相殺だ!」
 ウルガモスは六枚の翅をさざめかせ、強力な音波を放つが、ダイケンキが同時に放った吹雪により相殺される。
「炎の舞!」
 直後、ウルガモスが炎を纏って突っ込んで来る。どうやらよほど特攻を上げたいらしい。
「シェルブレードで迎え撃て!」
 ダイケンキは先ほどと同じように二刀流のアシガタナを構え、迎撃態勢を取るが、
「同じ手は効かんよ。ウルガモス、舞い上がれ!」
 ダイケンキが刀を振ると同時にウルガモスは急上昇し、その一閃を回避する。そして、
「炎の舞!」
 そのままダイケンキの周りを旋回するように舞い踊り、ダイケンキを炎で焼き焦がしていく。
「ぐぅ、吹雪だ!」
 炎に包まれてしまえば、抜け出す方法はこれしかない。ダイケンキは猛吹雪を発生させて炎を吹き飛ばす。
「ウルガモス、虫のさざめき!」
「もう一度吹雪!」
 ウルガモスは一度ダイケンキと距離を取ってから、さざめく虫の音波を放つ。ダイケンキも同時に吹き荒ぶ猛吹雪を発生させ、迎え撃つ。
 しかし今度は音波が吹雪を撃ち破り、威力は弱まっているものの、ダイケンキにダメージを与えた。
「また特攻が……!」
 さっきの炎の舞で、さらに特攻が上昇したようだ。このままだと、ウルガモスの火力が最大限まで到達してしまう。そうなれば、もうウルガモスを止めることはできないだろう。
「ウルガモス、炎の舞!」
「しかもまだ舞うのか! ハイドロカノン!」
 炎を纏い舞うように襲い掛かるウルガモスに向かって、ダイケンキは水の弾丸を炸裂させる。念入りに威力を高める余裕はなく、速度重視で撃った一撃だが、その一撃はウルガモスに直撃。壁に激突するほど吹っ飛ばした。
「ぬぅ、まだまだ! 暴風!」
 ウルガモスは態勢を立て直すと、三対の翅を羽ばたかせて暴風を巻き起こし、ダイケンキを攻撃。ハイドロカノンの反動で動けないため、直撃を受ける。
「さて、そろそろそのダイケンキの体力も尽きる頃。ここまでのお前さんの戦いとその功績は見事なものだった。状況が状況なら、この戦いも儂が負けていたかもしれん。そんなお前さんの力に敬意を表し、儂らの最大の一撃でこの戦いの幕を降ろそうぞ」
 アデクは静かに言い、リーテイルにおけるリーフストームのような、ダイケンキにおけるハイドロカノンのような、ウルガモスにおける必殺技を言い渡す。

「ウルガモス、破壊光線!」

 ウルガモスは側頭部の触角——それに加え、六枚の翅の先端からも照射され、燃えるような高密度のエネルギーを一点に集束させる。
 その一点は、今にも空間が歪みそうなほど圧倒的な力が込められており、今、その破壊の力が太陽神の手により、解放される。
 炎の舞の追加効果により二倍近くまで膨れ上がった光線は、イリスが今まで見たどの技よりも凄まじい気迫と破壊力を伴ってダイケンキへと迫る。その様は、技名通り立ちふさがるもの全てを破壊せんとする、力と破壊の象徴のようであった。
「……吹雪」
 対するダイケンキは、あろうことか吹雪を放つ。特攻が一段階上がった状態の破壊光線ですら、ハイドロカノンを撃ち破った。それなのに、二段階上昇している破壊光線が吹雪程度で止められるはずもない。吹雪はかなり高威力で、ダイケンキの正面に何層もの氷の壁を作り出しているものの、それで破壊光線を止めることは不可能だ。
 しかもダイケンキは、氷の壁を作ると吹雪を止めてしまう。
 そこからまた何か行動を起こすつもりだったのかもしれないが、直後、極太の光線が氷の壁にぶち当たる。
「来たぞ、メガホーンだ!」
 光線は氷の壁を粉砕しながらダイケンキへと迫り、ダイケンキもそれに合わせて勢いよく角を突き出す。
「シェルブレード!」
 さらにアシガタナも加え、三本の剣で襲い来る破壊光線に対抗する。無謀とも取れるその奇行だったが、ダイケンキは辛うじて、大きく後退りして壁に押し潰されそうになりながらも、ウルガモスの破壊光線を受け止めていた。
 壁に亀裂が走り、ダイケンキの前脚も震えている。勇ましい顔には疲労が浮かび、もう一押しで崩れてしまいそうなほど危うい状況だ。直後にはアシガタナが二本とも弾き飛ばされ、壁に突き刺さる。そして、ダイケンキの体は破壊の光線に飲み込まれる——

 ——しかしその刹那、破壊光線が途絶えた。

 ダイケンキが、ウルガモスの破壊光線による一撃を、耐え切ったのだ。

 ダイケンキがウルガモスに大きな一撃を叩き込む手段は、一つしかなかった。
 それはウルガモスが無防備になる瞬間を狙うこと。そしてその瞬間は、破壊光線の直後に訪れる。さらにそうなれば、今度はウルガモスの破壊光線を、ハイドロカノンを使わずに耐えなくてはならない。
 正直、成功するとは思えない最悪の賭けではあったが、イリスはその賭けに、勝利した。

「ダイケンキ、ハイドロカノン!」

 激流の力で最大まで圧縮された水流は巨大な銃弾を形作る。ダイケンキはその身を銃身とし、その弾丸を太陽神に向かって——発射する。
「行っけぇぇぇぇぇぇ!」
 あらゆる水を、風を、自然を、そして光と熱の源である太陽さえも飲み込む水の弾丸は、蠱と化した太陽の化身すらも、飲み込んだ。



チャンピオン、アデク戦、これにて決着です。長くは次回語りますので、あとがきはこの辺で。次回もお楽しみに。