二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 424章 常闇 ( No.575 )
- 日時: 2012/12/26 02:33
- 名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: 0aJKRWW2)
- 参照: http://www40.atwiki.jp/altair0/pages/308.html
「……道連れ、か」
ズルズキンをボールに戻しつつ、イリスは呟く。
道連れ、モアドガスも使用した相手と共に瀕死になる技。マニューラはそれを、猫の手を使うことで発動させた。
おそらくマニューラがギリギリまでマグナムパンチを避けなかった——否、わざと当たりに行ったのは、ズルズキンを道連れにするため。あのままちまちま攻撃を積み重ねるより、諸共瀕死にしてしまった方が良いと、モスギスは考えたのだろう。
「でも、とんだ大博打だ。ギャンブルもいいところだろうに」
単純計算で、モスギスの手持ちはマニューラを除いて四体。その四体の技が一つも被らないとすると、猫の手で発動する技の種類は四と四を掛け算して十六通り。僅か十六分の一の確率だ。モスギスはその十六分の一の確率に賭けて、ズルズキンを道連れにした。
しかもメタゲラス、ズルズキンとやられたことで、今のイリスは悪タイプに対して有利に戦えるポケモンがほとんどいなくなった。エルレイドは格闘タイプだが、エスパータイプでもあるので防御面で不安が残る。力押しされたらやられてしまうかもしれない。
「僕の手持ちから悪タイプに対して有効なポケモンを削ることが目的で道連れにしたとすると、相当な策士だな……」
変人でも変態でも変質者でも、モスギスは四天王。読み合い、化かし合い、裏のかき合いとなれば、イリスより何枚も上手だ。
「テレレレッテレー! トコヤミ!」
イリスが険しい顔でモスギスについて考察している間に、モスギスは次なるポケモンを繰り出した。空気の読めない人だ。
モスギスが繰り出したのは、暗闇ポケモンのトコヤミ。悪・ゴーストタイプなので弱点がない。
「あのトコヤミか。しかも、タイプ上エルレイドが出せない……」
格闘技もエスパー技も、トコヤミには無効化されてしまうため、このタイミングでエルレイドを出すことは出来ない。
ここまで計算して三番手にトコヤミを持ってきたのだとすれば、モスギスの戦略には脱帽せざるを得ない。
「弱点がないなら、火力で攻める! 頼んだ、ダイケンキ!」
イリスが繰り出すのはエース、ダイケンキ。小回りが利きにくいものの、中途半端な耐久力のトコヤミに対してなら、まともに攻撃が入ればすぐに決められるだろう。
「ダイケンキ、まずは吹雪だ!」
ダイケンキは大きく息を吸い込み、吐き出すと同時に強烈な冷気を伴った猛吹雪を放つ。
「ぶるぶる、ぶるぶる、ぶるーぶる、これは寒い。もうすぐモスギスさんも冬眠でしょうか。トコヤミ、潜るです」
トコヤミは襲い掛かる吹雪を地面に潜ってやり過ごし、そのままダイケンキを真下から攻撃する。
「続けてぇ、抉り込むように、撃つべし! シャドーパンチ、撃つべし!」
さらに影を纏った拳を、モスギスが言うように抉り込むようにしてダイケンキの腹に叩き込んだ。
「くっ、シェルブレードで薙ぎ払え!」
ダイケンキは体を少し後退させると、水のエネルギーを纏ったアシガタナを居合抜きのように一閃するが、
「潜るです!」
瞬時にトコヤミは地面に潜ってしまい、その一振りは外れる。さらに背後からトコヤミが現れ、ダイケンキを攻撃。
「今度こそ、シェルブレードだ!」
ダイケンキはトコヤミの攻撃にも怯まず、振り返り様にアシガタナを振るってトコヤミを切り裂く。今度はクリーンヒットした。
そのせいかなんなのか、トコヤミはまた地面に潜ってしまい、一旦ダイケンキから距離を取る。
「あー、そろそろモスギスさんも爪を切る頃ですか。いや、いえいえこれを見てください。これはおしゃれです、モスギスさんも凝っているんですよ、右手だけ爪を伸ばすの。え? 誰も聞いてない? 不衛生だからさっさと切れ? そうですか、しょぼーん……爪とぎです」
トコヤミはその場で擦り合せるように爪を研ぐ。これでトコヤミの攻撃力と命中率が上昇した。
「心機一転! チッチッチ、モスギスさんもいろいろ知っているのです。落書きに適した看板の色は白ですが、材質は……え? また誰も聞いてないって? 落書きすんな? そうですか、しょぼーん……でもモスギスさん、落書きやめません! これだけは譲れないのです! トコヤミ、指を振る!」
さらに指を左右に振るトコヤミ。その身体は薄く発光している。
そして次の瞬間、トコヤミはまた地面に潜ってしまった。また潜るか、それとも穴を掘るか、はたまた別の何かかとイリスが警戒する中、突如としてトコヤミは現れた。
例によってダイケンキの真下の地面が揺れ、同時にダイケンキはアシガタナを構えて迎撃態勢を取ろうとするが、そんな不安定な状態での迎撃などに意味はなかった。何故なら
トコヤミは激しく弾ける雷撃をその身に纏っていたのだから。
イリスは過去にこの技を見たことがある。一年前のあの時、忘れようもない戦いの記憶。
「なっ……これは、雷撃だと……!?」
理想を司る黒き龍、ゼクロム。そのゼクロムだけが使用することを許された電気タイプ最高峰の物理技、雷撃。
それを、このトコヤミは再現して見せたのだ。
「ダイケンキ!」
さしものダイケンキも派手に吹っ飛ばされたが、しかし思ったよりもダメージは少なかった。
それもそのはず、雷撃がイリスが見たような破壊力を誇るのは、ゼクロムが使用していたからだ。指を振るでトコヤミが使ったとしても、それは高威力の電気物理技でしかない。勿論、思っていたよりなので大ダメージには変わりないが、まだバトルは続行できる。
「ダイケンキ、メガホーン!」
今度は角を構え、ダイケンキは突貫する。
「潜るです!」
しかしその攻撃は、トコヤミの潜るによって容易くかわされてしまう。そしてすぐに、真下からの反撃が来るが、
「シェルブレードだ!」
あらかじめ予測していた攻撃なら、対処は簡単。ダイケンキはすぐにアシガタナを抜くと、自分の足の間を通すようにシェルブレードを突き出し、ちょうど地面から出て来たトコヤミに突き刺す。
「メガホーン!」
さらに少し体を後ろへずらし、大きな角の一撃をトコヤミに見舞う。この連続攻撃で、トコヤミの体力も大分削られただろう。
「吹雪!」
「もうっ、ずっとあなたのターンですかっ? モスギスさん寝ちゃいますよ! 潜るです!」
だがそう何度も攻撃が通ったりはせず、三撃目の吹雪は地面に潜ってかわされてしまう。
すぐに足元を崩すような攻撃を入れると、トコヤミはまたダイケンキから距離を取る。
「逃がすな! 吹雪!」
しかしダイケンキはすぐさま前方へと吹雪を放ち、トコヤミを攻撃。
「シャドーパンチです!」
吹雪が止んだ瞬間を狙って、トコヤミの影のパンチが飛ぶ。
シャドーパンチは威力は控えめだが必中技。避けることは出来ず、直撃を喰らう。爪とぎで攻撃力が上がっているので、控えめながらもその威力は強化されていた。
だがしかし、これでダイケンキの特性が発動する条件は整った。攻撃が一段階上がった状態の雷撃でも、トコヤミ程度の攻撃力では少し物足りなかったが、今のシャドーパンチで遂にダイケンキのライフゲージは特性発動ラインを切った。
特性激流が、今、発動する。
「行くぞダイケンキ、ハイドロカノン!」
ダイケンキは巨大な水の弾丸を生成する。丹念に、入念に水流を圧縮する。その水圧は、分厚い鉄板でさえ原型を留めていられないほど高まっているだろう。
「おおぅ、これは危険! もすのアンテナがビンビン立ってます! アラーム警告音鳴り響きです! トコヤミ、潜る!」
トコヤミはすぐさま地面に潜ってしまった。ダイケンキと言えど大技をいつまでも維持できるわけがなく、いつかは撃たなくてはならない。そうしなくても、放っておけば形を維持できなくなり、ハイドロカノンは綻びる。トコヤミは地面の中で、そうなるまでの時間を稼いでいるのだろう。
しかし、
「地面ごと抉り取れ! ダイケンキ、ハイドロカノン!」
ダイケンキは少し前屈みの姿勢となり、巨大な水の弾丸を発射する。
弾丸はガリガリ地面を大きく抉りながら突き進んでいく。土砂、泥、小石から岩石まで、地中の様々なものが放り出され——トコヤミも、それに巻き込まれるようにして吹っ飛ばされた。
何気にレアなトコヤミの下半身は、残念ながら散った水飛沫で見えなかったが。
「次で決めるぞ、ハイドロカノン!」
トコヤミは地面に落ちてからしばし動かず、その間に反動から立ち直ったダイケンキは第二射を放つ。
「トコヤミ、指を振る!」
悪あがきにとトコヤミを指を振るが、次の瞬間にはトコヤミは水の弾丸の直撃を受け、吹っ飛ばされる。
トコヤミは先ほど抉った土砂の山に突っ込み、そのまま戦闘不能となった。
はい、モスギス戦その三です、今回はわりとサクサク進んでいきました。ズルズキンがマニューラの猫の手による道連れで実質相打ち。これでイリスの手持ちには悪タイプに対して有効なポケモンはエルレイドのみとなってしまいました。まあ、ダイケンキもメガホーン覚えてるから、それほど不利というわけでもありませんが。トコヤミがやられましたし、残る二体も大体割れてますしね。まあ、その二体がやたら強いのですが。では次回はモスギス戦その四です、お楽しみに。