二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 429章 檜扇 ( No.587 )
- 日時: 2012/12/30 22:25
- 名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: 0aJKRWW2)
- 参照: http://www40.atwiki.jp/altair0/pages/308.html
「ディザソル……よくやった」
ディザソルはふらふらになりながらも、おぼつかない足取りでイリスに歩み寄る。クールな素振りを見せているものの、ディザソル自身も相当歓喜しているのが、空気で伝わってくる。
「いやはや負けてしまいました。けれど人生は挫折も必要。もすは気に病むことなく、これからを精進していかなくてはなりませんね。はい」
ティラノスをボールに戻しつつ、モスギスはそう呟いた。
「……で、モスギスさん、父さんからの言伝って何ですか?」
ティラノスとのバトルが劇的で忘れてしまいそうになったが、当初の目的はイリゼがモスギスに伝えた伝言。それを聞くためにイリスはモスギスとバトルをしたのだ。
あのイリゼがわざわざモスギスをけしかけてまでイリスに伝えようとしていること。それは、
「甘えんな!」
「……は?」
いきなりモスギスが声を張り上げたので……というか、言葉の意味が分からなかったので、呆けたような声が出る。
「いえだから、甘えんな、とイリゼさんは仰っていましたよ?」
「は、はぁ……」
そんなことだけ言われても、反応に困る。一体、何に甘えるなというのだろうか。それにそもそもイリスは、何かに甘えているつもりはない。
結局、イリゼが何を言いたいのかは、分からずじまいだ
「それではもすはこの辺で失礼します。アディオスヒーローもっすー!」
最後によく分からない台詞を残し、モスギスは去っていった。
「んー……繋がんない……」
ここはライモンシティ付近上空。モスギスとのバトルを終えたイリスは、とりあえず故郷であるカノコタウンに向かっていた。その道すがら、ライブキャスターでイリゼと連絡を取ろうとしているのだが、
「全然繋がらないし……ったく、一体どこで何やってるんだ、あの人」
毎度のことではあるが、しかしようやくイリゼと勝負する権利を手にしたのだから、早く戦いたいという気持ちがある。なのに連絡が取れないというのは、癪に障るのだ。
「そういや、ミキちゃんのお父さんも蒸発したとか言ってたな……」
たまに連絡は来るらしいので、正確には蒸発ではないのだが、しかしここ最近、まったく姿を現さないらしい。
「それでザキさんも苦労してるみたいだし、あの人が怒りっぽくなるのも分かるような——」
ピリリリリリリリリ!
とその時、ライブキャスターの着信音が鳴り響いた。
まさかイリゼか、と淡い希望を抱いて回線を開くと、相手はキリハだった。
「なんだキリハさんですか。どうしました?」
『なんだって……なんだか君、気が立ってるように見えるんだけど、何かあったのかい?』
父親じゃなかったからです、と正直に答えるほどイリスも馬鹿ではない。ここは別に、と流しておく。
「で、何か用ですか? もしかして、またケルディオとかいうポケモンが……」
『いや、それは大丈夫だよ。そっちはリオが対応してくれてる。って、そんなのんびりしてられる状況でもないんだった』
キリハの雰囲気が、今日に剣呑なものへと変わる。どうも、緊急事態のようだ。
『実はさっき、セイガイハシティとヒオウギシティに向かう、プラズマ団のものと思われる二つの飛行物体を確認した。君は今どこにいる?』
「ライモンシティ付近の上空です。ここからなら、セイガイハもヒオウギも、そう距離は変わらないと思います」
『そうか。なら、君はヒオウギに向かってくれ。何分そこはイッシュ本島から離れてて、PDOの支部もない。一応、リオとザキ、それからミキちゃんが向かってくれてるけど、人手不足なんだ。セイガイハの方は僕が行く。あっちには支部もあるし人手には困らない。それに、セイガイハにはジムリーダーがいる。もしもの時は協力を仰ぐつもりだ』
「分かりました。じゃあ、いますぐ向かいます」
『頼んだよ』
そうして、ブツッと回線が途絶える。
とんだ事態でイリゼとの再戦も延期になってしまったが、プラズマ団に動きがあったのなら仕方がない。イリスは進路を南西へと変え、ヒオウギシティに向かった。
ヒオウギシティはイッシュ地方の南西の端にある街だ。トレーナーズスクールが存在し、イッシュ地方全域を見渡せるほど高い見晴らし台が有名である。
そんなのどかなヒオウギシティだが、今現在に限っては、そんな空気は微塵も感じられなかった。
「これは……」
ヒオウギシティ上空まで来たイリスが見たものは、おびただしい数のプラズマ団。しかも今までのチェインメイルのような恰好ではなく、黒い強盗団のような衣装に身を包んでいる。
プラズマ団たちは街中を闊歩し、目につく人に向かってなにやら怒鳴りつけている。やたら人の数が少ないので、恐らく街の人々を外に出さないようにしているのだろう。
「となると、何かを探している……?」
考えられそうなのはそのくらいだが、となると何を探しているのか。キュレムを復活し、コントロールするための境界の水晶は、もう奴らの手に渡ってしまっている。となると、何を……
「考えててもしょうがない。とりあえず、人目のつかないところに着地しよう」
しかしウォーグルは体が大きく、建物が密集している街中には着陸しにくい。かといってこのままずっと空中にいても、ことは進展しないし、いずれ見つかってしまう。その時だった。
「ん、あれは……」
路地裏のような街の一角で誰かが戦っている。見る限り街の住民のようだ。
「どうも押されてるっぽいな……ウォーグル、あそこに向かってくれ」
イリスに指示され、ウォーグルは示された場所から少しだけ離れた位置に着地。ちょうどプラズマ団もいなかったため、好都合だ。
イリスは静かに降りてウォーグルをボールに戻すと、物陰から様子を窺う。
戦っているのはプラズマ団の下っ端と、イリスと同い年くらいの少女だ。少女はリオル、下っ端はゴルバットをそれぞれ繰り出している。
「リオル、真空波!」
「ゴルバット、エアカッター!」
波紋ポケモン、リオルが放つ真空波と、蝙蝠ポケモン、ゴルバットが放つ空気の刃がぶつかり合う。しかし真空波はエアカッターに切り裂かれ、そのままリオルを攻撃する。
「リオル!」
リオルはエアカッターを受け、片膝を着く。
戦況は明らかに少女が劣勢。そもそも格闘タイプのリオルと毒・飛行タイプのゴルバットでは、相性的にリオルが不利だ。
「そろそろそのリオルもおしまいだな。ったく、手間かけさせやがって。ま、リオルは珍しいポケモンだから、持ち帰れば俺の評価も上がるってもんだ」
そういえばプラズマ団は今、支給用のポケモンが不足しているのだったか。下っ端はマスクを付けていても分かるくらい悪い顔をしながら、少女に迫る。
「っ……させない。リオルは渡さないし、この街だって——」
「ごちゃごちゃうるせぇよ。ゴルバット、毒々の牙!」
少女の言葉を遮って、ゴルバットが動き出す。猛毒を含んだ鋭い牙を剥き出しにして、リオルへと襲い掛かる——
「エルレイド、サイコバレット!」
——がその時、念力を固めた銃弾がゴルバットの翼を撃ち抜いた。
「っ!? ゴルバット!」
ゴルバットはその一撃を受け、墜落する。弱点を突かれた上に不意討ちのような攻撃を喰らい、戦闘不能になった。
「何者だ!?」
下っ端はイラついたように刃が飛んできた方向に視線を向ける。そこに立っているのは、刃を構えたエルレイドと、イリスの姿。
イリスは軽く嘆息し、
「手間かけさせるなはこっちの台詞だよ。お前みたいな下っ端に構ってる暇はないっていうのにさ。どうせここも7Pが仕切ってんだろうから早く見つけたいのに。それに、ポケモンが不足してるからって、人のポケモンを奪うなよ。いつぞやの団員は、草むらでポケモン採集してたよ?」
余裕綽々のその態度が癪に障ったのか、下っ端は露骨に舌打ちし、ゴルバットをボールに戻す。
「こうなれば、お前もぶっ倒してポケモンを頂いていくぞ!」
「やれるもんならやってみな。下っ端のお前が知ってるか知らないけど、今回のお前たちの目的も、訊かなくちゃならないからね」
下っ端はさらに不機嫌そうな顔になり、次のボールを取り出した。
「出て来い、ザングース!」
下っ端が繰り出したのは猫鼬ポケモンのザングース。エルレイドより少し小さな体躯は白い毛で覆われており、片耳、両手の先、目の傷、そして腹のM字の部分だけは赤くなっている。
ザングースは姿勢を低くして鋭い爪を構え、エルレイドを威嚇する。
「言っておくが、俺は下っ端でも戦闘力は上位に位置するぞ。並大抵のトレーナーが敵うと思うな」
「その言葉、一部変更して返してやりたいよ」
エルレイドも両肘の刃を構え、ザングースと相対する。
このバトルが、ヒオウギシティにおける乱戦の幕開けになるのだった。
今回もバトルのない回になってしまいました。そしてイリスはまたもイリゼと戦うことができず。しかし今回はヒオウギシティに来ました。名前だけですがセイガイハシティも。全く関係ないですが、セイガイハシティって、ポケモンの街の名前の中で一番長いんじゃないですか? 調べてないんで知らないですけど、語感的にどうしても長く感じます。では次回は下っ端戦です。たぶんイリスが速攻で決めますので、あまり期待しないように。では次回もお楽しみに。