二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 433章 宝石 ( No.598 )
- 日時: 2013/01/02 16:42
- 名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: 0aJKRWW2)
- 参照: http://www40.atwiki.jp/altair0/pages/308.html
タチワキコンビナート。
それは、サンギタウンから東に進んでいった街、タチワキシティを南下すると見られる工業地帯で、巨大なクレーンや数多くのタンクが立ち並んでいる。
生産性向上のために造られたコンビナートだが、しかしここのウリというか特徴の一つとして、野生ポケモンが住み着いている点が挙げられる。なのである意味では、自然と科学の共存形態を最も現している場所と言えるのかもしれない。
そんなタチワキコンビナートに、一人の青年がいた。男性にしては少し長めの青髪に、藍色の瞳。傍らには、顎斧ポケモン、オノノクス。
最近腕と共に名を上げ始めたポケモントレーナー、ムントだ。
彼はイリスたちと迎合こそしないものの、彼なりのプラズマ団打倒を掲げており、今はそのための戦力を増強しようとしているところなのだが、
「……やはり、即戦力になるような野生のポケモンはそういないか」
タチワキコンビナートは確かに様々な野生のポケモンが出現する場所ではあるのだが、出て来るのはドガースやコイルなどで、プラズマ団を倒すための即戦力となるようなポケモンは出て来ない。イリスが苦戦していたように、最近は下っ端でもそれなりの実力を身に付けている。かといって今から種のポケモンを育てようにも、手間も時間もかかり、その間にまたプラズマ団が動き出し、いずれその目的を達してしまうだろう。
「となると、やはり今の戦力をさらに強化する方が効果的か」
ムントはふと隣のオノノクスを見遣る。深紅に煌めく斧のような牙。その身を守る頑強な鱗。しなやかさも備える強靭な肉体。どれを取っても相当なステータスで、そんじょそこらのオノノクスとは比べるべくもないだろう。
「……だが、オノノクスばかりを鍛えていてもしょうがない。出来ることなら、アギルダーの速力、アーボスクの耐久力、ネクロシアの攻撃力をさらに伸ばしたいところだな。ポケモンを鍛えるなら、どこだ。リバースマウンテンか、バトルサブウェイか……突如出現したという、黒の摩天楼や白の樹洞もいいな。いや、いっそのことジムリーダーや四天王に挑戦するべきか……」
とりあえず、ムントはオノノクスをボールに戻した。そしてもうここには用はないと言わんばかりにタチワキコンビナートから立ち去ろうとするが、刹那、何かの気配を感じた。
神秘的で神々しくも力強い、例えるならそう、龍のような気配——
「みぃーつけた。こんなところにいたんだ。探したよ、ムントくん」
ムントは、老若男女の区別がつかない合成音声にも似た奇怪な声のする方を向く。その声の主は、コンビナートに並べられたタンクの一つ、その上に直立していた。
黒いローブを身に纏い、顔は完全にフードに隠れている。そしてフードからは藍色の髪が垂れ下がるようにして伸びていた。
姿こそ人の形を成しているものの、その正体は謎に包まれている7P、ドランだ。いつもの奇々怪々な喋りではなく、幼い子供のような口調から察するに、どうやら既に解放しているようだ。
「ドランは君が気に入っちゃったみたいなんだ。君とバトルがしたいから、ここまで探しに来たんだよ?」
ドランはタンクから飛び降り、ムントの正面まで来る。もう一度言うと、タンクである。液体などを収容する工業用の巨大な容器である。そこから飛び降りて、普通の人間が無事でいられるはずがない。つまりそれは、ドランは普通の人間ではない、さらに行くと人間ですらないことを示していた。
だがムントは、そんなことは気にも留めない。どころかむしろ、ドランの登場によってどこか晴れ晴れとしたような気配さえある。なぜなら、
「……そうか。敵を倒すために鍛えるという発想が、既に非効率的だったのか。プラズマ団を滅する、そのためには、敵を倒しながら鍛えればいい」
言ってムントは、モンスターボールを握り込んだ。
それを見てドランも、一つのボールを取り出す。
「やる気十分だね、ドランも嬉しいよ。……辛苦を伝えよ、ワラガシラ!」
ドランの初手は、辛みポケモンのワラガシラ。束ねた灰色の藁のような体の中央に赤い顔があり、大きな腕の付け根辺りから、青白い電気を放出している。
「行くぞ。まずはお前だ、アギルダー!」
対するムントの先鋒はアギルダー。ライダーのような出で立ちで、忍者の如きスピードを誇るポケモンだ。
「アギルダー、撒菱」
最初に動いたのはアギルダーだ。アギルダーは地面に向かって、鋭く尖った物体を無数に撒き散らす。
これでドランは、ポケモンを交代させるたびに、それが飛行タイプや特性浮遊でない限りダメージを受けるようになってしまう。
「ふーん。まあでも関係ないよ。ワラガシラ、ギガスパーク!」
ワラガシラはいきなり大技を繰り出してきた。巨大な電撃の塊を生成し、アギルダーへと投げつけるが、
「かわして撒菱!」
素早く横にそれてギガスパークをかわし、再び撒菱を撒く。これで交代時のダメージ量が増加した。
「シャドークローだよ!」
「かわせ!」
ワラガシラが影の爪を作り出してアギルダーへと向かっていくが、アギルダーの身のこなしはその攻撃を容易く回避。
「撒菱」
そして最後の撒菱を撒き、下準備は完了だ。ここから、アギルダーの攻撃が始まる。
「アギルダー、虫のさざめき!」
「ワラガシラ、もう一度シャドークロー!」
アギルダーは体を小刻みに振動させ、さざめくような音波を放ってワラガシラを攻撃。ゴーストタイプのワラガシラに虫のさざめきは効果いまひとつのはずだが、意外にもそこそこ威力があり、ワラガシラは一瞬だけ怯んでしまう。
しかしすぐに気を取り直して影の爪で襲い掛かるが、アギルダーに容易くかわされてしまう。
「まだまだ! サイコバレット!」
「全てかわせ!」
ワラガシラは両腕を突き出し、念動力を固めた銃弾をマシンガンのように連射するが、アギルダーは飛来する銃弾を全て回避してしまう。
「続けてアームハンマー!」
最後の銃弾を跳んでかわして着地した瞬間を狙い、ワラガシラはアギルダーに殴り掛かる。しかしアギルダーは地に足を着けた瞬間に、また跳躍して後方に退避。
大量の銃弾をかわし切り、続け様に繰り出された鉄拳すらも回避するその素早さは恐ろしいが、
「はっやいねー、そのアギルダー。でも……虫のジュエルに、軽業かぁ」
ドランはそう呟く。
アギルダーのスピードは、虫のさざめきの使用してからいきなり向上した。それはアギルダーの特性、軽業から来るものだ。
軽業は発動すればポケモンの素早さを一気に跳ね上げるが、そのためには道具を使い捨てなければならない。なのでムントは、アギルダーに虫のジュエルを持たせていた。
ジュエルとは、主にイッシュ地方で発掘される宝石で、ポケモンが特定のタイプの技を繰り出すのに反応し、その技の威力を高めてくれるという代物だ。
ジュエルは十七種類存在し、それぞれ対応するタイプがある。十七種類のジュエルには対応するタイプに沿った名前が付けられ、虫のジュエルなら虫タイプの技の威力が上昇するのだ。
使用後は砕け散ってなくなってしまうが、軽業のように持ち物をなくすことで発動する特性にとっては、そのデメリットもプラスになる。
「アギルダーはもともと速いポケモンだし、そこから軽業でさらに速くなるのかぁ。これ以上速くなってどーするの?」
表情は見えないが、ニヤニヤと笑うように言葉を投げかけるドラン。ワラガシラではアギルダーのスピードにはついていけないといのに、随分と余裕のある態度だ。
「……アシッドボム!」
アギルダーは残像を残すようなスピードでワラガシラの背後に回り、酸性の爆弾をぶつける。威力は低くダメージもあまりないが、これでワラガシラの特防が下降した。
「もう一撃!」
「アームハンマー!」
アギルダーのアシッドボムが炸裂し、ワラガシラも拳振るって反撃するが、アギルダーには掠りもしない。
「連続でアシッドボム!」
ワラガシラがブンブンと腕を振るう中、軽くそれをいなしながら、アギルダーのアシッドボムがワラガシラにぶつけられる。これでワラガシラの特防は惨憺たるものだろう。
「いっくよー! ギガスパーク!」
ワラガシラは巨大な電気の塊を生成して、アギルダーへと放つ。がしかし、それがアギルダーの体に届くことはなかった。
「虫のさざめき!」
アギルダーは迂回するようにギガスパークをかわすと、さざめく音波を放ってワラガシラを吹っ飛ばす。
散々特防を下げられたワラガシラは、その一撃で戦闘不能だ。
「あーあ。やられちゃった」
軽い調子でワラガシラをボールに戻すドラン。そして、
「言っとくけど、まだまだドランの力はこんなものじゃないよ?」
ドランは底知れぬ空気を発しながら、静かに次のボールを構えるのだった。
はい、バトルフラグ立てちゃいました。今回はムントとドラン、ドラゴンに関係あるもの同士です。ドランは解放すると口調が幼くなりますが、なんだかフレイに似てる気がしなくもないですね。まあ、あっちは間延びした口調が特徴のはずなので、区別は可能なはずなんですが。フラグを立てるのは今度こそ終わりのはず。次回からは本格的に他の人たちのバトルを描いていきます。誰になるかは次回をお楽しみに。