二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 434章 暗示 ( No.599 )
日時: 2013/01/02 22:15
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: 0aJKRWW2)
参照: http://www40.atwiki.jp/altair0/pages/308.html

 十九番道路はヒオウギシティのすぐ北にある道路で、山のふもとになっている。そのためさらに北上すると崖が見えてくるのだが、この時この場では、崖は存在しない。
「……さて、場所も移したことだし、さっさと始めましょうか」
「ああ……そう、だな……」
 向かい合っているのは、アキラとマオ。マオは不機嫌そうではあるが余裕のある表情でボールを構える。
 対するアキラは、息も絶え絶え、額に汗を浮かべ、もう既に疲労している。というのも、彼は飛行できるポケモンを持っていなかったために、ララミンゴでここに来たマオを走って追いかける羽目になったからだ。
 しかし彼は、そんな状態でもなんとかボールを握り込んだ。
「貴方と戦ってもしょうがないし、手っ取り早く一対一で済ませましょう。私も、そんなに暇ではないの」
「随分と言ってくれるな……まあ、勝負のルールは好きにしてくれて結構だ」
 とりあえず一対一という早期決着型の対戦形式となり、二人はそれぞれポケモンを繰り出す。
「出て来なさい、マニューラ!」
「頼んだぜ、ホムロソク!」
 マオが繰り出すのは、直立した猫のようなポケモン、マニューラ。
 アキラが繰り出したのは、蝋燭そのままな体に青い炎のような顔。そして分離した白い手を持つポケモン、ホムロソク。
 マニューラは氷・悪タイプ。ホムロソクは炎・ゴーストタイプ。どちらのポケモンも、お互いの弱点を突くことができるため、この勝負、同相手の技を受けないようにするかが鍵となりそうである。
「私から行かせてもらうわ。マニューラ、泥爆弾!」
 マニューラは球状に固めた泥を手の中に作り出し、ホムロソクへと投げつける。地面タイプの技なのでホムロソクには効果的な技だが、
「ホムロソク、マインブラストだ!」
 ホムロソクは周囲に爆発を起こして泥爆弾を吹き飛ばしてしまう。さらに、
「放電!」
 あえてマニューラを狙わず、ランダムに電撃を撒き散らす。狙いがない攻撃ほどかわし難いものはなく、マニューラも放電を受けてしまった。
「今だホムロソク! 接近してマインブラスト!」
 放電を受けて動きが止まった隙に、マニューラへと接近するホムロソクだが、マニューラも黙ってはいない。
「マニューラ、嫌な音!」
 ホムロソクが高速で接近する中、マニューラは爪を擦り合せて甲高い音を鳴らす。それによってホムロソクの動きは止まり、また防御力もダウンする。
「ぶち壊す!」
 そして今度はマニューラの方からホムロソクへと駆け込み、全てを破壊するかのような一撃を繰り出す。が、しかし、
「くっ、フラッシュだ!」
 直前でホムロソクは眩い閃光を放つ。それによりマニューラの攻撃の軌道が若干ずれてしまい、ホムロソクの体を捉えることはなかった。
「マインブラスト!」
「ぶち壊すよ!」
 ホムロソクは地雷のような爆発を引き起こして攻撃するが、マニューラも地面に拳を叩き付けて土砂を噴出させ、マインブラストのダメージを軽減する。
「一旦下がりなさい、マニューラ。スターフリーズよ」
 土砂で視界を遮りつつ、マニューラは後退する。その際に巨大な星型の氷塊を作り出し、ホムロソクにぶつけた。
「だったら……ホムロソク、乗り移る!」
 スターフリーズの直撃を受けて吹っ飛ばされたホムロソクは、そのまま動かず目を瞑る。するとホムロソクの体から白いもやのような煙が出て来て、マニューラへと向かっていく。
「! マニューラ、かわしなさい!」
 マニューラは慌てたように横に跳んで煙をかわそうとするが、煙はしつこくマニューラを追いかけ、遂にマニューラと接触。その体の中に吸い込まれるように入っていく。
 するとマニューラは苦しそうに呻き、片膝を着く。同時に煙もマニューラから出て来て、ホムロソクの中へと戻っていった。
「へっ、効果いまひとつでも意外と効くだろ、ホムロソクの乗り移るは。混乱しなくてよかったな」
「……まだマニューラは戦闘不能じゃない。ダメージを与えたくらいで、粋がるのはやめなさい。マニューラ、スターフリーズ!」
 マニューラは立ち上がると、巨大な星型の氷塊を生成し、ホムロソクへと投げ飛ばす。
「放電で相殺だ!」
 ホムロソクも狙いを氷塊に固定して電撃を放つが、氷塊は砕けない。少しひびが入っただけだ。
「くっそ、だったら……マインブラスト!」
 氷塊が近づいてきたところで、ホムロソクは爆発を引き起こし、今度こそ氷塊を粉砕する。が、砕けた氷の破片の一部が、ホムロソクに襲い掛かった。さらに、
「接近よ、マニューラ。泥爆弾!」
 マニューラが泥の塊を投げつけながら、ホムロソクへと駆け込ん来る。
「特殊技とはいえ、命中率が下がる泥爆弾は喰らいたくないな……ホムロソク、マインブラストだ!」
 ホムロソクは爆発を起こして飛来する泥爆弾を相殺していく。それによって爆発の煙と砂煙が発生し、ホムロソクの視界が塞がれ——

「マニューラ、ぶち壊す!」

 マニューラの拳が伸びてきた。
 しまった、とアキラは己の失態に気付く。
 マニューラの泥爆弾は攻撃のためではなく、マインブラストでホムロソクの視界を塞がせるための布石。マニューラは地面タイプの技である泥爆弾だとホムロソクの覚えている技の中ではマインブラストでしか相殺できないのをいいことに、ホムロソクの目を封じてきた。
 ここまで接近されてしまえば、もう放電する隙も、マインブラストを放つ暇もない。乗り移るなんて論外だ。
 とはいえ嫌な音で下がったホムロソクの耐久力で、マニューラのタイプ一致かつ効果抜群のぶち壊すを耐えられるはずもない。
 となると、ホムロソクが選ぶ道は一つ。藁にも縋るような苦肉の策だが、もうこれしか生き残る術はない。

「ホムロソク、フラッシュ!」

 ホムロソクはマニューラの拳を視認した瞬間、目をくらますような眩い閃光を放った——



 時は遡り、プラズマ団がヒオウギに攻め込む前の頃。
 エレクトロは次の作戦について、フォレスと話し合いをしていた。
「私はヒオウギに向かうので詳細はガイアから聞いてもらいますが、フォレス、貴方の行き先はセイガイハ方面です」
「おう、了解したぜ。……つっても、また大がかりだな。ヒオウギを占拠するなんてよ」
「毎度のことです。それに、一部を除く聖電隊を総動員しますから、大丈夫でしょう」
「一部ってあいつだろ。あの黒い格好した奴。大丈夫なのかよ本当に、聖電隊って、あの双子が混ざってるじゃねぇか」
 フォレスは心の底から心配するように言う。
「ツユサとウズメのことですか? それならば心配には及びませんよ。彼らの暗示は解くことにしました」
「あっそ。それなら大丈夫か……は? 暗示?」
 うっかり流してしまいそうになるが、なんとかその不可解なワードを拾い上げるフォレス。
「お前、あいつらに暗示とかかけてたのか?」
「ええ、そうですよ。そうでもしないと、理性を保ち続けるのは大変ですからね。特に、我々の場合は」
 エレクトロの言葉に、フォレスは押し黙る。
 プラズマ団はある程度上層部まで行くと、精神的な面に傷がある場合が多い。なので解放状態のレイを初めとし、情緒不安定な者もそれなりにいるのだが、大体は集団でいることで理性を保っていたり、不幸なもの同士で集まって心を安定させていたりする。傷の舐め合いだと言ってしまえばそれまでだが。
「でもよ、ぶっちゃけるとあいつら雑魚じゃねぇか。態度も悪ぃし、いつ下っ端に降格するか分かったもんじゃねぇ」
 それでも、フォレスの中でのツユサとウズメの評価は低かったが、エレクトロは、
「いえいえ。今までは使用ポケモンなどを制限していましたが、その枷も外します。彼らが本気になれば、その力は聖電隊でも五指に入るほど……二人がかりで来ようものなら、私でも手こずりますかね」
「マジかよ……」
 絶句するフォレス。まさか、エレクトロがあの二人をそこまで評価していると思わなかったと驚くと同時に、なんであの二人が今まで上層部の立ち位置に居座れたのか、その謎が解けた。
「成程な、合点行ったぜ……で、一ついいか?」
「なんでしょうか?」
「あの双子……わざわざ暗示をかけるほど壮絶な過去なんだろ? 一体、何があったんだ? まさかレイさんより酷いとは思わねぇけどよ」
「そうですね。確かに最も酷な来歴を持つのはレイ。彼女の過去は壮絶の一言に尽きます。しかし、パターン自体はそれほど珍しくもありません。あの二人も同じです。暗示こそかけていましたが、それほど酷い過去でもありませんし、よくあるパターンですよ」
 言われてフォレスは、さらに問い返す。
「……その、パターンってのは?」
 エレクトロは一拍おいて、フォレスの問いかけに答えた。

「俗に言う家庭内暴力……実の両親からの虐待ですよ」




今回はアキラとマオのバトルです。最後にはアキラが窮地に立たされてしまいますが、彼はそれを切り抜けられるのか。そして後半で、エレクトロとフォレスの回想です。前回もうフラグは立てないと言いましたが、もしかしたらまた立つかもしれません。今回の後半がそれを物語っています。それでは次回も誰かのバトルにする予定です。お楽しみに。