二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 452章 イリスvsホミカ ( No.648 )
- 日時: 2013/01/29 21:44
- 名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: 0aJKRWW2)
- 参照: http://www40.atwiki.jp/altair0/pages/308.html
「さあ、ここだよ」
しばし歩いた果てに連れてこられたのは、なんというか、みすぼらしい雰囲気が漂う裏路地の地下へと繋がる扉だった。
「なんですか、ここ?」
イリゼの親友と言うから付いてきたものの、もしかしたら自分は闇の金を掴まされるのでは、と一抹の不安を覚えるイリスだった。この扉は見るからに怪しすぎる。
「見れば分かるさ。さ、入って」
ロキに促され、イリスは扉を潜る。
「……?」
一瞬、見覚えのあるものが見えたような気がして、イリスはふっと振り返る。
「どうしたんだい。置いてっちゃうよ?」
「あ、はい」
ロキに急かされ、進行方向に向き直る。
(ポケモンリーグのシンボルが見えた気がするけど、気のせいか。こんなところにジムがあるわけもないし)
さっきのは目の錯覚、疲れているのだろうと理由付けをしてひとまず置いておく。
中はなにもない短い通路になっており、その先にはまたしても重厚そうな鉄の扉があった。おそらくあの扉の先に、ロキの目的であるなにかがあるのだろう。
そう思いながら扉に近づくにつれ、どこからか音が聞こえてきた。
「開けるよ」
イリスのことなどまったく気にしていないロキは、構わず扉を押し開ける。すると——
「ドガース、ヘドロ爆弾!」
ワアァァァッ!
「うぉっ……!」
騒音のような歓声と反響する爆音によって、イリスは思わず耳を塞ぐ。
そこは、なにかのステージをやっているようだ。広いホールにはいくつかのテーブルが置かれ、大勢の観客が歓声に沸いている。
中央は広い舞台——というより、バトルフィールドだ。フィールドの右端には一人の少年がランクルスを出して戦っており、左端にはスキンヘッドのドラマー、挑発的な表情のギタリスト、そして毒々しいデザインのベースを弾きながらドガースを繰り出して戦っているベーシストの三人がいる。
左端の三人が楽器を演奏しているという変わった点はあるものの、どうやらこれは少年とベーシストのポケモンバトルのようだ。
「ランクルス、サイコショックだ!」
「当たらないね! ドガース、シャドーボール!」
ランクルスの放つ実体化した念波を、ドガースは軽い身のこなしでかわしていき、影の球を発射。ランクルスに直撃させる。
「ガンガン攻めてくよ! ドガース、熱風!」
ドガースは続けて熱風を放って攻撃。ランクルスはまたしても直撃を受けてしまい、残り体力が僅かであることが分かる。
「決めるよドガース! ジャイロボール!」
ドガースはその場で高速回転しつつ、不規則な動きでランクルスに接近し突撃。ランクルスを吹き飛ばし、戦闘不能にした。
「ランクルス戦闘不能ッ! ドガースの勝ち! よって勝者は、ホミカだぁぁぁぁぁぁ!」
やけにテンションの高い審判の叫びで、さらに観客たちは沸き上がる。その勢いに飲まれ、イリスは観客たちにもみくちゃにされてしまう。
「ちょっ……うぉ……」
まともに立つこともできず、イリスは倒れないようにテーブルを掴んで体を支える。それもかなりきついが。
しばらく観客たちの荒波に耐えていると、その勢いも衰えてきた。なので顔を上げてみると、さっきの少年はもういなくなっており、イリスよりも一つ二つくらいしか変わらなさそうなベーシストの少女がステージの中央に立っている。
確か、さっき審判にホミカと呼ばれていた少女だ。相性で不利なドガースを使い、ランクルスを相手にあそこまで押していたということはかなりの実力者なのだろう。
「みんな、今日も最後までライブに付き合ってくれてサンキュー! これで今日のジムもライブもお終い——」
少女——ホミカの台詞からすると、どうやらここはライブハウスかなにかのようだ。さっきのはたぶん、パフォーマンスを交えたポケモンバトルというところだろう。
……とそこで、イリスはなにか重要な部分を見落としているような気がして、首を傾げる。そしてイリスがそれを思い出す前に、ホミカが快活な口調で続けた。
「——なんだけど、今日は特別に追加公演だ! 最後にもう一戦、めっちゃ燃えるバトルをお見せするよ!」
ワアァァ! と再び観客たちが沸き上がる。イリスはまた荒波に飲まれないよう体を支える準備をする。
「対戦相手はもうこの会場に来てる。その相手は——」
天井の照明が薄暗い室内を照らし、観客に一人ずつ当てていく。
きっと照明が止まった時、そこにいる人物が対戦相手となるのだろう。なんでもいいから早くここから出たい、と必死で抜け道を探すイリスに照明が当たった時、そこで光の動きは停止した。
「……え?」
照明はイリス一人を照らし、そこから動きを見せない。周りの観客たちも皆、イリスに視線を向けている。
「タチワキジム、特別追加公演! 対戦相手は、イリスだ!」
叫ぶホミカとは対照的に、ぽかんと口を開けて呆然としているイリス。そして、
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
なにやらよく分からないうちにあれよあれよとステージの上に立たされ、ホミカというらしい少女とポケモンバトルをすることになったイリス。しかも、タチワキ『ジム』とは。
「えーっと……ホミカさん、でしたっけ?」
「そ、あたしがスーパーパンクバンド『ザ・ドガース』のベース担当にして、ここタチワキジムのジムリーダー、ホミカ。よろしく!」
最初の入り口で見たポケモンリーグのシンボルは、どうやら錯覚でも見間違えでもなかったらしい。ここは彼女らのライブハウスでもあり、タチワキシティのジムでもあるようだ。
「イリゼから話は聞いてるよ。あんまり急なことだったんでスケジュールがちょっと狂ったけど、相手がイリゼの息子だっていうんなら大歓迎さ。あたしも楽しいバトルできそうだし、お客さんも楽しめるし、あんたの経験にもなる一石三鳥さ」
「あの人は……!」
どうやら今回の一件にはイリゼが一枚噛んでいるようだ。またしてもバトルを延期させるつもりらしい。
「ま、話はこれくらいにして、早速バトルを始めようか。つっても、まずはルール説明からね。まず前提として、ここはジムだ。あんたも何度もジム戦してるだろうから、基本的なジム戦ルールは省いていいよね。だから使用ポケモンの数を決めておくよ」
言ってホミカは、五つのモンスターボールを、指に挟んだり掌で掴んだりし、イリスに見せつける。
「使用ポケモンは五体。この五体全てが戦闘不能になれば、バトル終了。これでいい?」
「えっと……はい。構いません」
正式なジム戦で五対五というのは初めてだったが、それでも普通のジム戦レギュレーションと変わらないのなら、勝手は同じだろう。急なバトルで面食らい、しかもイリゼが関わっていると聞いて腹が立ったが、それでもバトルはバトル。特訓だと思えば苦でもない。
「よっし。そんじゃ始めるよ、タチワキジム、ジム戦!」
ホミカの掛け声と同時に、どこからかBGMが流れ、様々な色のスポットライトがフィールドのあちこちを照らし出す。
「今回はスペシャルライブ、特別な追加公演だ! 対戦相手はイリス! そんじゃあ、盛り上がって行くよッ!」
するとまたしても観客たちが熱気を発しながら沸き上がる。イリスはこのような見てもらうバトルというのは初めてだったが、悪い気分ではなかった。
ホミカは軽くベースの弦を弾き、ボールを一つ構える。
「爆裂ッ! ペンドラー!」
ホミカの一番手は、メガムカデポケモン、ペンドラー。虫と毒の複合タイプを持ち、虫ポケモンにしては巨大な体躯、赤紫を基調とした体色、鋭く尖った角と尻尾など、攻撃的な風貌のポケモンである。
「ペンドラー、か。じゃあやっぱり、こいつで行くか。出て来い、メタゲラス!」
イリスが繰り出したのは、鋼タイプを持つメタゲラス。ホミカは最初のバトルでドガースを使っていたため、毒タイプの使い手だと読んでのチョイスだ。
ペンドラー相手だと地面技で弱点を突くことは出来ないが、鋼タイプなら毒タイプの攻撃は受けない。なのでメタゲラスの方が有利に戦えると、イリスは思っていたが、しかしホミカは不敵に笑っている。
「やっぱり鋼タイプできたね」
「やっぱり?」
イリスは思わず復唱する。その口振りからすると、こちらの手を読んでいたようだ。
「あたしが毒タイプを使うなんて、誰でも知ってることだし、簡単に分かること。だから大抵のチャレンジャーは、毒タイプを無効化する鋼タイプを先発に持ってくる。でも、そういうのあたしのペンドラーには意味ないから」
「……どういう意味ですか?」
また、思わず尋ねてしまう。だがこれにもホミカは不敵な笑みで返す。
「見てれば分かるよ。……んじゃま、行くよ。今からあんたの理性ブッ飛ばすから!」
力強くホミカは叫ぶ。そして、巨大な百足もまた、動き出す——
今回は前々からフラグが立っていたホミカ戦です。彼女を代表する名言が色々出てます。ちなみに白黒はドラマーの友達がいて、その友達のライブを見にライブハウスに一度だけ入ったことがありますが、凄い熱気とテンションでした。ちょっとあれにはついていけそうにありません……ともかく、次回からはホミカ戦を進めていきます。先発のペンドラーが起こす行動はなにか。それは次回をお楽しみに。