二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 474章 優美 ( No.690 )
日時: 2013/02/17 02:17
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: 0aJKRWW2)
参照: http://www40.atwiki.jp/altair0/pages/308.html

「戻って、グレイシア」
 シロナはグレイシアをボールに戻し、次のボールを取り出そうとするところで、
「……トゲキッスを残しておけばよかったわね。いつもと勝手が違うから、やることなすこと裏目になりがちだわ……」
 ぼそりとイリスには聞こえない声量で呟く。
「ま、嘆いていてもしょうがないわ。次はあなたよ」
 取り出したボールを放り、シロナの五番手のポケモンが姿を現す。
「大海にて踊れ、ミロカロス!」
 出て来たのは、慈しみポケモン、ミロカロス。流線型の細長いポケモンで、頭部にはカールした一対の触角と長いヒレ。尻尾の先端は扇状になっており、ステンドグラスのように七色に光り輝いている。
 ミロカロスは最も美しいポケモンと言われており、イリスはその容姿を見て納得した。確かに、そう呼ばれてもおかしくないほど美麗なポケモンだ。
「だけど、それとこれとは話が別。全力で行くよ、ズルズキン。噛み砕く!」
 ズルズキンはびっしりと並んだ歯を光らせ、大口を開けてミロカロスに突っ込んでいくが、
「ミロカロス、凍える風!」
 ミロカロスは文字通り凍えるような冷たい風を吹きつけ、ズルズキンを攻撃。ズルズキンのスピードは鈍ったが、しかしグレイシアが放ったような吹雪とは比べるべくもないほど威力が低い。そのため、ズルズキンは構わずミロカロスへと駆けて行く。
「ハイドロポンプ!」
 しかし凍える風が止むと、ミロカロスはすぐさま大量の水を噴射してズルズキンを押し流した。
「くっ、だったら諸刃の頭突きだ!」
「もう一度ハイドロポンプよ!」
 ズルズキンは頭を突き出して凄まじい殺気を発しながらミロカロスに突撃する。ミロカロスも大量の水を発射してズルズキンを押し流そうとするが、今度はズルズキンに押し切られてしまう。
「やるわね、そのズルズキン。ミロカロスのハイドロポンプで止められないなんて。ミロカロス、凍える風!」
 水流で威力が減衰していたため、ミロカロスはすぐに態勢を立て直し、凍える風を吹きつけて反撃に出る。
「ブレイズキックだ!」
 凍える風を受けながらも、ズルズキンは跳躍しながら足に炎を灯し、ミロカロスを蹴りつけた。
 ミロカロスは特防には優れているが、それに比べて防御は若干控えめだ。効果いまひとつでも、ズルズキンの攻撃力があればそこそこのダメージは与えられる。
「噛み砕く!」
「押し流しなさい、ハイドロポンプ!」
 続けてズルズキンはミロカロスを噛み砕く勢いで大口を開けたが、そこに大量の水流が発射され、またズルズキンは押し流される。
「凍える風よ!」
 そしてさらに凍える風で追撃。威力は低いが、ズルズキンの素早さがどんどん下がっていく。ズルズキンは元々それほど素早いポケモンではないものの、動きが鈍るのはあまり良いことではない。
「……マグナムパンチ!」
 ズルズキンは大砲のような勢いで飛び出し、勢いよく拳を突き出すが、そのスピードもいつもよりずっと遅い。
「ミロカロス、ハイドロポンプ!」
 そしてミロカロスのハイドロポンプが放たれ、ズルズキンはまたも押し流されてしまう。やはり、ただ突っ込むだけでは通じなさそうだ。
「でも、ズルズキンじゃあんまり器用なことはできないしな……一点突破で行くしかないか。諸刃の頭突き!」
 ズルズキンは姿勢を低くして頭を突き出し、我が身を省みずミロカロスへと特攻する。
「来たわよ、ミロカロス。凍える風!」
 ここでミロカロスは、ハイドロポンプではなく凍える風を放つ。冷たい風を吹きつけてズルズキンの足を遅くした後、
「ハイドロポンプ!」
 大量の水を噴射してズルズキンを押し流そうとする。が、それでもズルズキンは止まらず、ミロカロスに強烈な頭突きを叩き込んだ。
「追撃だ! マグナムパンチ!」
 続けてズルズキンは大砲のような勢いの拳を繰り出し、ミロカロスを殴り飛ばした。直撃なので、ダメージは大きいだろう。
「今のは痛いわね……しょうがないか。ミロカロス、やりましょう」
 シロナの声に答えるように、ミロカロスは透き通るような鳴き声をあげる。そして、

「ミロカロス、眠る!」

 ミロカロスは深い眠りに着いた。
「……は?」
 ぽかんと口を開けて呆気に取られるイリス。何をするかと思えば、ミロカロスは急に眠り出したのだ。それもバトル中に。普通なら呆気に取られるものだろう。
 だが、ミロカロスはこれだけでは終わらない。眠るだけでは、ミロカロスは止まらなかった。

「寝言!」

 突如、ミロカロスは大量の水を噴射し、ズルズキンを押し飛ばした。
「っ!? ズルズキン!」
 意表を突かれた一撃で、ズルズキンは受け身も取れず、大ダメージを受けてしまう。
 それよりイリスは、今のミロカロスの行動に疑問を感じていた。眠り状態ではポケモンは攻撃できない。基本以前に、少し考えれば分かることだ。確かに例外として、眠り状態でも使用できる技があるが——
「っ! 寝言……!」
「その通りよ」
 寝言とは、眠り状態でも使用できる技の一つで、自分の習得している技をランダムで使用する技だ。
「眠ってさっきまでのダメージはすべて回復した……さあ、仕切り直しと行きましょうか」



 ストレンジャーハウス地下一階で、ミキとザキは目的の人物を見つけた。
 その人物はボロボロのソファで寝ており、上階よりも荒れている場所でよく眠れるものだと二人は呆れ半分で感心していたが、それはさておき。
「うーん……おや? ミキちゃんにザキくんじゃないか。もう来たのかい? 意外と早かったね?」
「親父……!」
「お父さん……」
 目的の人物とは、二人の父親である、ロキだ。
「まあ立ち話もあれだし、座りなよ。ここに来るまでに結構歩いたろう? ヤマジは道が全然整備されてないから、慣れてないと足腰を痛めるんだよねぇ。特にミキちゃんなんかは成長期なんだから、そういうことを気にしておかないと、背が伸びないよ。ザキくんも将来腰痛で悩む羽目にならないとも——」
「頼みがある」
 ロキの言葉を遮って、単刀直入に、ザキは切り出した。
「……なにかな?」
 二人が来ることを予測していたような物言いから、ロキはおそらくザキの——二人の頼みについてまで分かっているはずである。
 しかしそれでも、あえてそれを言わず、中途半端に知らない振りを続けるように返した。
「俺たちの特訓に——」
「付き合って欲——」
「——付き合え」
「——しいんだ。……あれ?」
 微妙に相違ある二人の台詞に、ロキは思わず吹き出してしまった。
「ははっ、きみたちは本当に仲がいいねぇ。ザキくんも相変わらずだし。ミキちゃんはちゃんとお願いしてるのに、きみは命令形か」
「今頃のこのこ出て来たんだ。どうせ、俺たちにちょっかいかけに来たんだろ。だったらとことん付き合ってもらうぜ。それに、あんたには聞きたいこともある」
「ふぅん……?」
 意味深なザキの言葉に、ロキは少し反応を示したが、深くは追及しなかった。
「まあ、特訓に付き合うという名目できみたちを鍛えるのは、喜んで引き受けよう。もう分かってると思うけど、ボクはそのためにここにいると言ってもいい。というより、今のボクにはそれくらいしかできることがないんだよ」
「その言葉の真意も含めて後で全部聞いてやるが、だからってこんなとこに住み込むなよ。一応、他人の家だろうが」
「今は誰もいないから問題ないさ。それに、長居をするなら室内、暴れるなら人の迷惑にならない場所がいいだろう? そういう意味でも抜群のチョイスだと思うんだけどね。それにここはボクらの秘密基地だったから、勝手もよく分かる」
「え? ボク、ら……?」
「おっと。今のは忘れてくれ。ともかく長期間にわたって特訓するなら、こういう場所が一番だと思ったわけだよ。分かってくれたかな?」
 やや強引に修正するロキだったが、言いたいことは分かった。ミキにしろザキにしろ、反対する理由はない。
「……まあ、俺は場所なんざどうでもいいけどな。それより親父、俺と賭けをしようぜ」
「賭け?」
 今度は純粋に予想外だったのか、驚いたような表情を見せるロキ。
「ああ、賭けだ。ギャンブル、とはちっと違うけどな」
「何かを考えているのか知らないけど、うん、いいよ。どういう内容の賭けなんだい?」
 案外あっさりロキは賭けに応じた。それに対してザキは、勝ち誇ったような顔でロキに賭けの内容を言い渡す。
「俺たちの特訓が終わるまで——具体的にはプラズマ団が本格的に動き出す冬までに、俺とミキがあんたに勝てれば」
「勝てれば?」
 一拍置いたザキの調子を崩すように、ロキは反芻した。が、ザキは言葉に詰まることなく、すぐさま次の言葉を紡いだ。
「あんたが今まで何をやっていたか、あんたが隠してる自分の正体、それと……母さんについて、教えてもらうぞ」



シロナ戦その五、次の相手はねむねご型ミロカロスです。こうしてみると、シロナはわりとゲームにある既存の型に沿ったスタイルが多いですね。まあ、比較的にですが。しかも書きやすいよう調整もしてますが。にちなみにシロナがポケモンを繰り出す際の台詞はすべて白黒が考えています、当然ですが。後半はザキとミキの特訓フラグ。描写するかどうかは未定ですが、どこかでは出すと思います。では次回はたぶんシロナのエース登場です。お楽しみに。