二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 468章 超越 ( No.707 )
- 日時: 2013/02/22 15:18
- 名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: u.mhi.ZN)
- 参照: http://www40.atwiki.jp/altair0/pages/308.html
水蒸気爆発という現象がある。
これは大雑把に言うと、超高温の物体と水が接触すると、大爆発を引き起こすという現象だ。
普通のポケモンでは水蒸気爆発を起こすほどの高熱と、それに見合うだけの水量を用意することができないので、まずバトルでは起こりえない現象だが、今回はポケモンの質が違う。イリゼのカンカーンが打ち上げた擬似太陽は、小型というだけで、性能だけなら本物の太陽と遜色のないようなものであり、ダイケンキの発射するハイドロカノンも、相当な水量が圧縮された一級品の技。このダイケンキと同じ威力のハイドロカノンを放てるポケモンは、そういないだろう。
そんな、通常では起こりえない超高性能すぎるポケモンたちによる二つの条件が整うことで、ハードマウンテンの最深部では、大爆発が引き起こされたのだった——
白い爆煙立ち込め、が決して広いとはいえない部屋に充満する。よってダイケンキの姿もヒードランの姿も見えなくなったが、そのうちドサッという何かが地面に落ちたような音が聞こえてきた。
やがて煙が晴れると、そこには爆発前後で変わらぬ姿のダイケンキと、全身がズタボロになったヒードランの姿があった。
「ちっ、くそったれが……マグマアクセルの勢いを利用してヒードランを跳ね上げ、あろうことか爆発に巻き込むたぁ、なんて発送してやがる……!」
イリゼは歯噛みする。今の爆発で擬似太陽も消滅してしまい、圧倒的に有利だったはずのヒードランはたった一発のハイドロカノンで形勢逆転されてしまったことになる。
「爆発に巻き込んだのは少し悪い気がしないでもないけど、こうでもしなきゃ僕らに勝つ見込みがなかったのも事実だ。悪く思わないでよ。それじゃあダイケンキ、シェルブレードだ!」
ダイケンキは二刀流のアシガタナを構え、鋭利な水のエネルギーを纏ってヒードランへと斬りかかる。
「日照りがなくなった今、真正面からぶつかっても勝ち目はねぇ。ヒードラン、四方八方からマグマアクセルだ!」
ヒードランもダイケンキに突っ込み、一度はシェルブレードと競り合い、押し負けるが、すぐに身を翻して壁をよじ登り、側面からダイケンキに突撃する。するとまたすぐさま身を退いて今度は背後から。そんなスピードを生かした多方向からの攻撃を、ヒードランは幾度も繰り返す。
「くっ、ダイケンキ、全方向に吹雪だ!」
ダイケンキも凍てつく猛吹雪を四方八方、全方向に向けて放つが、ヒードランはそれを突っ切って激突。その勢いは止まらない。
「やっぱ吹雪じゃダメか。だったらダイケンキ、ヒードランが突っ込んできたところにシェルブレード!」
ダイケンキは一振りのアシガタナで、ヒードランの突撃に対して身構える。
そしてヒードランが突っ込んできたその時、ダイケンキもシェルブレードを振るい、ヒードランと激しくせめぎ合った。
(……あれ?)
イリスはこの時、ふと思った。ヒードランの違和感を。
(このヒードラン、なんで避けないんだ……?)
ヒードランは今、マグマアクセルの連発でかなり素早さが上がっているはずだ。だったら迎撃のためのシェルブレードをかわして攻撃することもできるはず。しかし、ヒードランはそれをしない。
(もしかして……いや、まさか。でも父さんのポケモンだ、そういう可能性も否定はできない……試してみるか)
イリスが決心した瞬間、ダイケンキがヒードランに押し勝ち、ヒードランは数歩後退する。
「ヒードラン、スターダスト!」
「上だ! 吹雪!」
ヒードランは咆哮し、鋼鉄の隕石を無数に降り注ぐが、ダイケンキが上空に向けて放った吹雪で、隕石はすべて天井に埋め込まれてしまう。
「ソーラービーム……は、隙がデカすぎるか。だったらこれしかねぇ。マグマアクセル!」
またもマグマを纏い、ヒードランは真正面からダイケンキへと突撃する。そして、
「ダイケンキ、ハイドロカノン!」
ダイケンキも真正面から、巨大な水の砲弾を発射した。
マグマに身を包んだヒードランと、激流の砲弾が激しくぶつかり合うが、勝敗は目に見えている。ヒードランがハイドロカノンに打ち負かされ、吹っ飛ばされた。
「ヒードラン!」
ヒードランは勢いよく壁に激突し、めり込んだ。だがすぐに抜け出して地面に降り、態勢を立て直す。
「やっぱりか」
そしてイリスは、今の一合でヒードランに対して抱いていた違和感の正体、それが確信に至った。
イリスはゆっくりと口を開く。
「見つけたよ、父さん。そのヒードランの弱点。そのヒードランは……まっすぐにしか攻撃できないんだね」
「…………」
イリスの言葉に、イリゼは押し黙る。正解、ということなのだろう。
「思い返してみれば、そのヒードランは今まで、まっすぐの軌道でしか攻撃してこなかった。反射とか、多角的とか、そういう攻撃はあったけど、それでも突き詰めれば直線のみの軌道だ。軌道そのものが曲がったりはしない。特にマグマアクセルは、一度スピードに乗っちゃえば、標的に当たるまでは軌道が修正できない。違うかな?」
「……いんや、正解だよ。この上なくな。確かに、俺のヒードランはまっすぐにしか攻撃ができねぇ」
だがな、とイリゼは続ける。
「勘違いして欲しくねぇのは、それはこいつが未熟だからじゃねぇ。こいつの性分なんだ。どうもこいつは攻撃を途中で曲げるのが嫌いみたいでな、攻撃を始めたら一度止まるまでその軌道を変えたがらねぇ……理論上は、途中で曲げることもできるはずなんだが、俺のヒードランはそれをしない。そんな奴なんだ」
軌道を曲げなくても十分強いしな、とイリゼは締め括る。
確かに、日照りがあったとはいえ、真正面から突っ込んで来るだけでもヒードランは十分強かった。現に日照りがなくなった今でも、ヒードランはダイケンキと互角の勝負をしている。
「……だが、そろそろヒードランも限界か。このままバトルが長引くのはこっちが不利だ。そろそろ終いにしようじゃねぇの。ヒードラン、遠慮はいらねぇ。全身全霊、最大火力の大技をぶちかますぞ!」
するとヒードランは周囲に溶岩の渦を巻き起こす。その渦は今まで見たどの技よりも熱く、強大であった。
「ダイケンキ、僕らも行こう。こっちだって根競べになっても嬉しくはない。この一撃にすべてを賭ける、この一撃で決めて、見せつけるんだ。僕らの力を、父さんに!」
そしてダイケンキは自身で生成するだけでなく、周囲の水分も集め、目の前に水の砲弾を作り出す。
「行くぞイリス。俺たちのすべてをぶつけてやる。だからお前の力、見せてみろ!」
「うん、父さん。言われなくても、見せてあげるよ。僕と、僕の仲間の力を!」
「ヒードラン、マグマストーム!」
「ダイケンキ、ハイドロカノン!」
ヒードランが放つのは、マグマの嵐。熱風を巻き起こしながら、荒々しく吹き荒ぶ灼熱の嵐。
ダイケンキが放つのは、激流の砲弾。ありったけの水を集め、圧縮された巨大な水の砲弾。
二つの大技がぶつかり合い、せめぎ合う。その激しさは、嵐と砲弾の周りで幾度と爆発が起きるほどだ。
嵐は砲弾を少しずつ飲み込んでいくが、砲弾は消えず、嵐の中を少しずつ進んでる。
「ダイケンキ……!」
「ヒードラン……!」
イリスもイリゼも、もはやまともに声を出すことすらできない。それほど両者の力は途轍もないものであり、しかしそれでも二人とも自分のパートナーの名を口にするほど、強い意志が存在していることの証左でもあった。
拮抗していた嵐と砲弾だが、遂にそのバランスも崩れる。
「——ダイケンキ!」
激流の砲弾が、マグマの嵐を突き破った。
灼熱の嵐は雲散霧消し、水の砲弾がヒードランを飲み込み、貫く。
「ヒードラン!」
そして、火山に座するものは、たゆたう強大な水の力に、敗北したのであった。
イリゼ戦、決着です。長かった……ただそれだけです。遂に、イリスはイリゼを倒しました。こういう時、イリスとダイケンキは必ずハイドロカノンで決めますが、正直この技を描写するのが一番きついです。なんたってこういう戦いは今まで何度もありましたからね。描写がワンパターンになってしまうのです。それでは次回、イリゼが語る英雄とは、英雄のシステムとはなにか。お楽しみに。