二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 491章 輪番 ( No.720 )
- 日時: 2013/02/26 15:38
- 名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: u.mhi.ZN)
- 参照: http://www40.atwiki.jp/altair0/pages/308.html
プラズマ団基地唯一のラボ、そこは7Pアシドの根城であり、プラズマ団員が最も近寄りたくない場所として……嫌われていた。
その理由はアシドにあるのだが、今更そんなことを冗長に語る必要もないので、ここでは割愛する。
ともあれサーシャは、電気コードが散乱した通路を抜け、アシドが居座っている研究施設へと、足を踏み入れた。
「……失礼します」
自動ドアが開くと、その先には床を埋め尽くさんばかりのコードに、よく分からない機械が散乱していた。最奥部にはいくつものディスプレイが表示されており、とても一人で操作できる量ではないと思うのだが、それを軽くこなしているのが、この部屋の主だ。
紫色の髪に白衣を羽織った男。7Pアシド、プラズマ団随一の科学者だ。
「……今日は客が多いこって。えーっと、お前誰だっけ? 僕の記憶が正しければ、レイんとこの奴だった気がすんだけど。確か名前は……サ、サー、サーヤ……?」
「サーシャです」
とりあえず名前は訂正しておくが、アシドのことだ。すぐに忘れるだろう。
まあ仮に忘れられたとしてもさしたる支障はない。それに今は、それ以上に大事な要件がある。
「アシド様……その、お願いがあるのですが……」
「あー? あっそ。で、なんだよ。今の僕は機嫌がいいから、腰にぶら下げている物騒なもんをこっちに渡せば、話を聞いてやらねえこともないかもなあ」
言われてサーシャは、視線を自分の腰に落とす。そこには一丁の拳銃がセットされていた。
話し合いをするなら武器を捨てろ、ということだろうか。いや、大事なデータがあるから危険物を持ち込むな、か。
「……どうぞ」
セーフティーが掛かっていることを確認し、銃をアシドに手渡す。アシドはそれを受け取ると、あろうことかゴミ箱に放り投げた。
「で、お願いってなんだ?」
そして何と思うでもなく話しを進めようとする。この神経の図太さは、ある意味尊敬に値するかもしれないと思ったが、勿論アシドを尊敬する者など、プラズマ団には存在しないだろう。
サーシャもアシドの行動一つ一つに目くじらを立てていてはキリがないし、なによりそれでアシドの機嫌を損ね、レイの情報を聞けなくなれば本末転倒だ。ここはグッと堪え、要件を言う。
「アシド様は、フォレス様にレイ様の過去を教えたそうですね」
「あ? あー……そういやそんなこともあったな。確か、あいつが7Pになる前のことだったか。よく覚えてねーけどな」
「7Pになる前……?」
サーシャにはアシドの言っている意味がいまいち理解できなかった。7Pはゲーチスが全国各地を巡って集めたプラズマ団の精鋭だ。なので7Pはプラズマ団に入った時から7Pであり、その地位が揺らぐことはない。七幹部という影武者のような存在はいたが、アシドの物言いでは、アシドとフォレスはプラズマ団に入る以前から交流があったか、フォレスが下っ端から成り上がって7Pになったかのように取れる。
そんな疑問がよぎったものの、対象がフォレスということでサーシャはその疑問をすぐに振り払った。そして自分の用件を伝える。
「知っているのなら、私にも教えて頂けないでしょうか。その、レイ様の過去について」
「別にいいけど」
「えっ……!?」
即答だった。
流石に予想外だったのでサーシャも面喰って言葉に詰まる。しかし、
「当然ただじゃねえけどな? そうだな……英雄の弟子んとこには双子を向かわせてるし、ザンバもいねぇ。あの黒い奴はヒウンの統括んとこか……英雄の所在も知れねえし、しゃーねぇ。その辺の適当な奴を呼び出すか。おい、お前。サーシヤだったか? ちょっと待ってろ」
アシドはディスプレイに向き直ると、画面を操作する。何をしているのかはよく分からないが
「……サーシャです」
とりあえず、名前を訂正しておいた。
待ってろと言われてからサーシャは別の部屋に向かわされた。そこは何の変哲もない……と言えば嘘になるが、あらゆる場所にカメラが設置されたバトルフィールドがあった。
そこで待つこと数十分、誰かが部屋に入ってくる。
「えっと……ここで、合ってるのでしょうか……?」
入室してきたのは、緑色の巻き毛に燕尾服を着こみ、指揮棒を携えた少年。シャンソンだった。
「あ、サーシャさん。お久しぶりです。サーシャさんがここにいるってことは、部屋、合ってたんですね。よかったぁ……」
「…………」
安堵の溜息を漏らすシャンソンを一瞥しつつ、サーシャはカメラに視線を移動させた。
アシドが出した条件はいたってシンプル。バトルをすることだった。その相手として選ばれたのが、シャンソンだ。
「バトルの方式はアシド様から聞いてますよね。三対三のローテーションバトル。ポケモンを随時入れ替えながら戦うバトルです」
念のために説明しつつ、サーシャは三つのボールを構え、同時に宙へと放り投げる。
「行きます。ヴォーナ(Вона)、リベルラ(Riberura)、グルック(Gluck)!」
「アンサンブルの始まりです! オリ、ラン、キー!」
サーシャが繰り出したポケモンは、ヴォーナ(ラグラージ)、リベルラ(フライゴン)、グルック(サーナイト)の三匹。
シャンソンが繰り出したのはオリ(オリバー)、ラン(ランペルン)、キー(キーボン)の三匹。
この計六体で、ローテーションバトルが行われる。
ローテーションバトルとは、基本的には一対一のバトルなのだが、三体のポケモンを同時に出し、必要に応じてローテーションさせ、バトルの相手を変えていくという変則的なバトルルールだ。
サーシャの先頭はヴォーナ、シャンソンの先頭はオリで、バトルが開始される。
「速攻で決めるわよ。ヴォーナ、瓦割り!」
ヴォーナは拳を振りかざし、オリへと突っ込んでいくが、
「オリ、ハイパーボイスです!」
オリはバイオリンを凄まじい勢いで弾き、大音量の爆音を放ってヴォーナの動きを止める。
「そしてローテーションです! ラン、サイコパンチ!」
オリは立ち位置をランと代わり、ランは念動力を纏った拳でヴォーナを殴りつけた。
「くっ、もう一度瓦割り!」
「かわしてメガトンキックです!」
ヴォーナは踏ん張って態勢を整え、再び拳を繰り出すが、ランは屈んでそれをかわし、直後、跳ね上がるような強烈な蹴りをヴォーナの顎に叩き込む。
「だったらこれよ! ヴォーナ、冷凍ビーム!」
ヴォーナは態勢を立て直し、今度は凍てつく氷の光線を発射するが、
「交代ですラン! キー、光の壁!」
ローテーションしたキーの光の壁で、光線の威力は半減してしまう。さらに
「催眠波動!」
キーはキーボードを弾き、眠りを誘う波動を放つ。ヴォーナはその直撃を受け、運の悪いことに、そのまま眠りに落ちてしまった。
「なっ、くっ、……ヴォーナ、ローテーションよ。リベルラ!」
眠ってしまってはどうしようもないので、サーシャはヴォーナを一旦退かせ、リベルラに戦わせる。
「リベルラ、ドラゴンクローよ!」
リベルラは爪に龍の力を込め、キーへと突っ込む。
「リフレクターです!」
しかしキーはすぐにリフレクターを張り、ドラゴンクローの威力を半減させた。
「続けてハイパーボイス! オリと交代です!」
キーはすぐに大音量の音波を放ってリベルラを引き剥がし、オリと立ち位置を代えた。
「これで物理技も特殊技も半減ですか、やりにくい……リベルラ、燕返し!」
「オリ、ベルカント!」
バイオリンを弾こうとするオリに、リベルラは高速で突っ込んで演奏を妨害。しかしリフレクターの効果があるので、ダメージはあまり大きくない。
「地震よ!」
「させません! オリ、もう一度ベルカント!」
地面を殴りつけ、地震を引き起こそうとするリベルラに、オリはバイオリンを弾いて聴き惚れてしまうような音色を奏でる。するとリベルラはゆっくりと地面に落ち、そのまま眠ってしまった。
「リベルラまでもが……仕方ない。グルック、貴方の出番よ!」
リベルラとグルックをローテーション。
「グルック、まずは毒々!」
グルックは手中に毒液を生成し、それをオリに向かって発射するが、
「それは受けたくありませんね。オリ、熱風です!」
オリは素早く熱風を放って毒液を打ち消し、グルックにも攻撃する。
「続けてバグノイズです!」
そして今度は耳をつんざくような爆音を発して攻撃。エスパータイプのグルックには虫技のバグノイズは効果抜群。大打撃を受けてしまっただろう。
(焦炎隊シャンソン。普通のバトルでは下っ端にも劣るが、二体以上のポケモンを使用するバトルでは急激に強くなる、ですか。確かにその通りね……!)
この時サーシャは、シャンソンの強さを実感していた。その極めて限定的な強さを。
やっとバトルだー! というわけで、何話ぶりくらいかのバトルシーンです。しかもローテーションバトル。白黒はダブル、トリプルバトルなら書いたことはありますが、ローテーションは初めてです。書いててなかなか面白いんですが、面倒です、ローテーションバトル。まあこんな機会でもないと書けそうにないんで、今のうちに楽しんでおきます。では次回、早いですがサーシャ対シャンソン、決着です。まあ三体いっぺんに出てますし、しょうがないですか。それでは次回もお楽しみに。