二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 493章 里村 ( No.728 )
- 日時: 2013/03/02 04:56
- 名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: u.mhi.ZN)
- 参照: http://www40.atwiki.jp/altair0/pages/308.html
最近やっと気付いた。
分かったような、知ったような言動を繰り返す自分ではあるが、自分の本当の気持ちを今更気付くなんて、まだまだ子供のようだ。
本音を言えば、今すぐこの思いをぶちまけたいところだが、それは時期尚早というものだろう。何事もタイミング、時の運が重要だ。
だがその絶好のタイミングとはいつになるのか。このままダラダラ引き伸ばしていては、取り返しのつかないことになりかねない。
そこで現れたのが彼女だった。自分たちが表立つ前から、データとしては知っていた彼女。しかし直に会って、話して、戯れるうちに、彼女と自分は近い存在だということが分かった。
ならば彼女を利用しよう、と言うと悪者のように聞こえるが、構いやしない。彼女を契機に、行動を起こす。
思えば自分の人生は、あの人から始まったのかもしれない……というと大袈裟かもしれないが、実際はかもしれないと曖昧にする必要もない。自分の人生の始点は確実にあの人だ。あの人がいなければ、自分は死んでいた。人知れず野垂れ死んでいた。
それを救ってくれただけでなく、その後も一緒にいてくれた。そう、あの時までは。
あの時は自分を置いてどこに行ったのかと怒ったりもしたが、それ以上に悲しかった。だからあんなよく分からない誘いも受けたのだろう。
しかしそこから先は嬉しい誤算、いや、極上の誤算だった。自分よりも下の立場とはいえ、あの人と再会できるなんて夢のようだった。
それからも、色々なことがあったが、今は置いておく。
なんにせよ、もうすぐ区切りを付けられる時だ。甘え、依存していた自分を切り離す時だ。そして、けじめをつけなければいけない時だ——
「んー……」
朝。人工の陽光を浴びて、一人の少女が覚醒する。
「……フォレスー?」
光の差さない真っ暗な部屋に、一人の男がいた。時代錯誤な忍装束に身を包み、眼帯を付けた長身の男。
フレイ率いる焦炎隊の実質的な統括、ハンゾウだ。
「…………」
実質的な統括というのは、焦炎隊はフレイのカリスマで動いているわけだが、決してフレイが仕切っているわけではないのだ。どころか彼女は自由奔放を許容しており、部下たちに好き勝手させ、自分も好き勝手に行動している節がある。勿論、重要な任務など、指示を出したり指揮をすることもあるが、それも稀なことだ。なので実際は、焦炎隊の中で最も指揮能力の優れているハンゾウが、フレイに代わって焦炎隊を仕切っているのだ。
「…………」
ハンゾウは目を閉じ、呼吸を殺し、音を立てず、静止している。
見ての通り座禅なのだから、精神修行の一環ではあるのだが、彼の場合は日課——というより暇潰しを兼ねていると言ってもいい。暇潰しに座禅、と常人なら疑問に思うことだろう。
しかし例えは悪いが、7Pのアシドも暇を持て余した十分間のうちに、P・ターミナルの試作機を作り出した。それと似たようなものである。
「…………」
精神修行の座禅とは本来、雑念を振り払うものなのだが、しかしこの時のハンゾウは、全く雑念を振り払えていなかった。むしろ雑念だらけである。
いつもなら普通に自我を排除できるはずなのに、なぜ今になってこのようなことになったのかは分からない。自分たちの敵との決戦が間近に迫ってきているのが影響しているのかもしれない。しかし、
(……いや、違うな)
とすぐさま否定した。ならばなぜ、と聞き返されても答えようがないが、しかし決戦が近づこうと、自分は己の任務を全うするだけだ。自分はそうやって生きてきたのだし、今でもその精神は変わらない。
ならばなぜ、こんなにも心が揺れているのか、精神が乱れているのか。
(あの方が、変わりつつあるからか……)
ハンゾウはあることを思い出した。
それは、自らの過去。自分が生まれ育った忍の里での出来事である——
とある地方のとある山の奥地。そこには隠蔽された山村——忍の里が存在する。
なぜこんな辺鄙なところに存在するのかというと、それは忍は隠れるのが好きだから……という理由では勿論ない。
電気も水道もモンスターボールもない昔ならいざ知らず、現代世界において、忍という存在は不必要なものとなっている。カントーのジムリーダーや四天王のように、中には忍として現代に即している者も存在しないわけではないが、現状では忍途絶えつつある者たちなのだ。
時代の波に置いて行かれ、それでも忍という存在を切り捨てられないために、このような場所でひっそりと暮らす羽目になっている。
とはいえ、住めば都というか、彼らも現状が不満なわけではないし、仕事が全くないというわけではない。一度住み着いた里はもう彼らにとって我が家同然。仕事も、時代に即さないが故に時代錯誤の奇策として、諜報活動などを求められることがある。
長々と語ったが、つまり現代の忍は現代の忍なりに、ある程度時代に適応し、特に不自由もなく生活しているということだ。
そんな忍の里で、ハンゾウは優秀な忍だった。
千年に一度の逸材——とまでは行かなくとも、彼の住む里では一二を争うほど、彼は忍としての技能が高かった。
今日も今日とて任務をこなし、忠誠を誓う主にその旨を報告し終えた帰り道、不意にハンゾウは声を掛けられた。
「ハンゾウ様!」
パタパタとこちらへ走って来るのは、小柄な少女だ。華奢な体躯に簡素な浴衣。里では珍しい赤毛を総髪——時代に即した言い方をすれば、ポニーテールにしている。
「お帰りなさい。任務、お疲れ様です!」
「ああ……」
若干、倦怠感の漂う表情をしている彼女だが、性格は至って明るく快活だ。
忍の里には村と呼ばれる忍の拠点のような場所と、町と呼ばれる昔ながらの古風な場所に分かれており、ハンゾウは村の出身、彼女は町の出身だ。しかしこの町は一種のカモフラージュのようなもので、里の存在を隠すためにあるようなもの。町の人々もそれは理解しており、双方の間に溝はない。むしろ共に手を取り合い共存する関係にある。故にこの娘も、ハンゾウにこうして接しているのだ。
そして町に住む娘がわざわざ村までやって来るのは、ただハンゾウを迎えるためだけではない。れっきとした意味があるのだ。
「あの、ハンゾウ様。任務から帰られたばかりで申し訳なのですが、今日もお願いしてよろしいでしょうか……?」
「構わん。ただ今日は東の森が少々荒れている。大方、野生のリングマが冬眠に備えているのだろう。だから行くなら北の森だ。あそこはまだ大人しい」
「はいっ!」
そして、ハンゾウと娘は北の森へと歩を進めた。
「メラルバ、火炎放射!」
頭に五本の赤い角が生えた芋虫のような幼虫の姿をしたポケモン、松明ポケモンのメラルバは、燃え盛る炎を放つ。
炎が放たれた先いるのは、下積みポケモンのツチニン。ツチニンは素早く穴を掘り、炎を回避した。
「穴を掘るだ、どこから出て来るか分からんぞ。心を研ぎ澄まし、気配を探れ」
「は、はいっ」
ハンゾウの言葉を受けて娘とメラルバは目を閉じる。精神を集中させることで地中の音を聞き、ツチニンの位置を探っているのだ。
ややあって娘とメラルバは開眼する。そして、
「メラルバ、右だよ! 火炎放射!」
素早く右を向いたメラルバは、再び炎を発射する。娘の索敵の結果、確かにツチニンは右の方向から飛び出した。
ただし——右、斜め後ろから。
なんかギャグっぽい終わりになってしまいましたが、それはともかく。第十六幕 第二節 忠義が始まりました。今回は焦炎隊が主役ということで、ハンゾウに出てもらいました。シャンソンは前回出てるのでお休み、というよりこの話の流れじゃ出る幕がなさそうです。それはそれとして、パーセンターさん、ハンゾウの出身である村や町娘に色々勝手な設定付け足してしまい申し訳ない。ただこの話はどうしてもやりたかったのです……町娘は完全に白黒のイメージです。お気を悪くしたらすいません。まあ、そういうわけでハンゾウの過去の話ということで、次回に続きます。お楽しみに。