二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 497章 行動 ( No.734 )
- 日時: 2013/03/06 01:40
- 名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: u.mhi.ZN)
- 参照: http://www40.atwiki.jp/altair0/pages/308.html
流石にそろそろ悟った。自分じゃあの人を幸せにすることは出来ないと。
いや、幸せにする、などと自惚れたことはなかったが、幸福という存在さえも、あの人に教えることは出来そうにない。
癪な話だが、そうなると頼みの綱はあの男ということになる。
自分とはアプローチのベクトルこそ違えど、そもそも立場も当たり方も全く正反対であるが、彼ならあるいは、なんとかしてくれるかもしれない。
なんだかんだ言って、自分はやはりこういう組織には向かないのだろう。あいつを拾った時もそうだったし、今だってそうだ。このような組織にはそれなりの非情さが必要なのだろうが、自分にはそれが欠けている。
まあしかし、そんなことはもうどうでもいいだろう。他の連中も慌ただしくしているように、この組織も終わりに近づいている。そろそろ潮時かもしれない。
だが、そうにしたって、最後に何かしておかなくてはならないだろう。
それは何か。あの人を見届けることか、それともあいつとのけじめをつけることか。
どちらにせよ、覚悟を決めなくてはならないようだ——
プラズマ団基地、森樹隊居住区に隣接している、屋内ビオトープ。
そこはプラズマ団の科学力(の無駄遣い)によって作り出された超高性能温室機器で温度、湿度が完全に管理されており、四季折々の植物が存在する。
そんな自然豊かな空間の中心には白い丸テーブルと椅子が二脚置かれており、そのうちの一つに一人の人影が見て取れた。
まだ若い女だ。若草色の髪をツインテールにしており、ピンクや黄色を基調としたワンピースに、派手な装飾を多数付けている。
彼女は7Pフォレス率いる森樹隊、そして、フォレスが唯一直属の配下に置いている者、ティンだ。
いつもは昼夜四六時中フォレスを追いかけ回している印象のある彼女だが——実際、概ねその通りなのだが——今は難しい顔で手を組み、そこに顎を乗せている。その視線の先には、長さに違う二つの針が設置された円形の花壇、いわゆる花時計があった。
「…………」
じーっと時計を凝視するティン。そんなことは構わず時を刻む時計。針は少しずつ時を刻み、遂に長針が一周、短針30°移動した。
刹那、ガバッとティンは体を跳ね上げる。
「あーもうっ! またフォレス様来なかったー!」
ビオトープ中に響き渡るほど叫ぶと、ティンはぐったりとテーブルに突っ伏す。
ティンとフォレスは、よくこのビオトープで共に時間を過ごす……というのは過去の話、というか半分くらいはティンの幻想だ。そもそもフォレスはティンを避けているところがあるため、三回の一回程度の割合でしかビオトープを訪れない。
だがそれを差し引いても、最近のフォレスはティンに構うことがほとんどなくなっている。プラズマ団にとって最大の敵、英雄たちとの最終決戦も迫ってきている今、7Pが忙しいのは分かる話だが、それにしたってつれない。
はっきり言って、最近のフォレスは冷たいのだ。
「もうかれこれ半月ぐらいフォレス様とまともに話してない気がする……なんで? どうしてこなったの?」
テーブルに突っ伏しながら、ティンは自問自答する。行動派の彼女がそんなことで正しい答えが導き出せるとは到底思えないが、それでも彼女なりの解答は出たようで、ティンはまたしても体を跳ね上げる。
「そうよ! 元凶はあの怠慢女よ! そうに違いない、そうに決まってるわ!」
怠慢女とは、7Pフレイのことである。なかなか的を射た表現ではあるが、直接ではないとはいえ、一応上司である7Pをそのように呼ぶのは、あまり良いことではない。
無論、ティンがそんなことを考慮するはずもないが。
「……でも、あの女が原因だとして、問題はその原因をどうやって取り除くかよね……」
ティンは考える。フレイのどのような点が、ティンにとって邪魔になっているのか。元凶はフレイのどういう部分なのかを、考え、考え、考え抜く。
そして、
「!」
頭から電球でも出て来そうなほど、正に閃いた、というような表情で立ち上がる。
「そうか……そうよね。だったらあいつの所に行くしかないっ!」
そして思い立った日がなんとやら、椅子を蹴倒し、猛ダッシュでビオトープから出ていった。
向かった先は焦炎隊居住区。板張りの廊下を駆け、目的の部屋へと到達。スパーン! と凄まじい勢いで襖を開き、土足のまま中へと入る。
「ハンゾウ! いる!?」
「……騒々しいな。何事だ」
中にいたのは、忍装束を着た長身の男。フレイ焦炎隊のハンゾウだ。座禅を組んだ状態で、片目だけ開いてティンの姿を捉えている。
「ちょっと話があるんだけど、入るわよ」
ティンは囲炉裏を挟んだハンゾウの正面に座りドカッと込む。男らしいと言えば聞こえはいいが、正直に言って品のない座り方だ。
しかしハンゾウはそれを咎めることもなく、
「話、とな。何だ?」
と用件を聞く。早く出て行って欲しいという思いの表れだろう。
「あんたんとこの怠慢女についてよ」
ティンも時間はかけたくなかったので率直にそう言う。ハンゾウは少し考え込み、
「フレイ殿のことか。直接の配下でないとはいえ7Pであるお方をそのように呼ぶのは、感心しないな」
と返した。
しかしティンは、
「別にかまいやしないわよ。私はフォレス様一筋だし」
と一蹴する。
そしてすぐさま話の内容に入った。
「で、あの女だけど、単刀直入に言いうわよ。あんたが世話しなさい」
「……どういう意味だ」
「そのまんまの意味よ。あの女の世話でフォレス様も迷惑こうむってるはずだし、それでフォレス様の時間がなくなると私にも不都合があるのよ。あんたあの女の護衛だか目付けだかなんでしょ。だったらついでに世話しなさいよ。そうすればフォレス様の時間は空いて、私もハッピー、あんたも主人に尽くせて一石三鳥よ!」
嬉々として語るティン。ハンゾウは静かに目を瞑り、即答する。
「却下だ」
「なんでよ!」
真正面から切り捨てられるが、ティンは食い下がる。今にもハンゾウに飛びかからんばかりの勢いで身を乗り出し、ハンゾウを睨み付けている。
しかしハンゾウはそれを気にすることもなく、淡々と答えた。
「拙者がフレイ殿に命じられているのは護衛だ。身の回りの世話はフォレス殿に任せる、とのことだそうだ。命じられていないことは行うべきではない。それが忍というものだ」
「だから、あの女のせいで私もフォレス様も迷惑だって言ってるでしょ!」
「拙者はフォレス殿の直接の配下ではないのでな。命令は主であるフレイ殿を優先させるのが道理だろう」
「うっ……で、でも、あんたももっと主人に尽くしたいとか思わないわけ? フォレス様に任せるより、自分で徹底的に世話したいとか思わない?」
「残念ながら拙者、そこまで独占欲の強い人間ではない。それに、これは拙者の勝手な憶測だが、フレイ殿はフォレス殿に世話されたがっている節がある。だったらそこに拙者が出張る理由もない」
取りつく島もない。いくらティンがフレイの世話をハンゾウに任せようとしても、様々なパターンでアプローチを仕掛けても、ハンゾウはフレイの命令のみをこなすの一点張りで、意見は真っ向から対立していた。
こうなるともう根競べになるのだが、忍は文字通り、耐え忍ぶ者。そして逆に、ティンは短気だ。決着はすぐに着いた。
「ああ、もうっ! ほんっとに堅物ね、あんたは! じゃあもういいわ、こっちで勝手になんとかするから!」
交渉は決裂。逆ギレしたティンは、襖も閉めずに和室から飛び出していった。
つい頭に血が上って飛び出してしまったものの、こっちで勝手になんとかすると言ったものの、ティンにはもうどうすればいいのか分からなかった。
とりあえず何か手がないかと色々と考えたりしてみたが、やはり彼女は思考より行動の方が向いているようで、特に何も思いつかなかった。
とにかく基地の中を無意味に歩き回り、無い知恵を絞るように思考を続ける彼女は、肉体的にはともかく精神的に疲弊していた。好意を寄せるフォレスとまともに会わない時間が長く続いたのも関係しているだろう。
とにかく、ティンは非常に疲れていた。そんな状態ではまともな判断もできない。
そんな時、ティンは二つの人影を見つけた。どうやら片方がもう片方を抱きかかえているようだ。
抱きかかえているのは、青髪のストレートロングヘアーの女性。この時期には寒そうな薄手のワンピース一枚で、何故か毛先が焦げている。
抱きかかえられているのは赤い髪をポニーテールにしている少女。寝間着のような浴衣のままで、こちらも少し寒そうである。
しかしティンにとって格好などはどうでもよかった。なぜならその二人、特に浴衣の少女は、ティンにとって重要な立ち位置にいるのだから。
その二人とは、言うに及ばず——7Pレイと、フレイだった。
始まりました、第四節、思慕です。ティンがフォレストの時間を確保すべく、奔走していますが……なんだか空ぶっている感が否めないですね。それはともかく、今回はまともなバトルが書けそうです。前回はろくなバトルがなかったので、白黒的にも一安心です。では次回、ティンの戦いが始まります。お楽しみに。