二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re:500章 唯一 ( No.739 )
- 日時: 2013/03/07 17:44
- 名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: H6B.1Ttr)
- 参照: http://www40.atwiki.jp/altair0/pages/308.html
ティンを探す道中、フォレスはとある人物を見つけた。
軍服を着て、腰に拳銃を吊っている女性、サーシャだ。速足で急いでいるようだが、構わずフォレスは話しかける。
「なあ、ちょっといいか」
「…………」
フォレスは話しかける、が、サーシャは一瞥するだけで無視した。直接のではないとはいえ、上司に対してあるまじき態度だ。
「おい、無視すんな!」
「……私は急いでいるのです。用件があるなら手短にお願いします」
速足を止めず、心底鬱陶しそうなサーシャ。彼女の性格は変わらないなと思いつつ、フォレスは用件だけ手短に伝える。
「ティン、見なかったか?」
サーシャは少しだけ間を置き、答えた。
「さあ、知りません。少し前にレイ様、フレイ様と一緒にいましたが、どこかの訓練場にでも行ったのではないですか」
かなり適当ででまかせかと疑いたくような物言いだったが、フォレスは眉根を寄せ、険しい表情になる。
「なに……? 本当か?」
「だから知りませんよ。用が済んだのならさっさと消えてくれませんか?」
苛立ちを隠そうとしないサーシャの発言。しかしフォレスはそれを咎めることをせず、
「ああ……邪魔したな」
とだけ言って去って行ってしまった。
向かう先はサーシャの言っていた訓練場。ここから近いのは第五訓練場だ。
「レイさんにフレイと一緒……? あいつ、なに考えてやがる……急いだ方がいいか」
そう呟き、フォレスは駆けだした。
思いのほか接戦となっているティン対レイ&フレイのバトル。今までサポートに徹していたレイが遂に動き出した。
「フレイちゃん……そろそろ」
「んー、分かったー。ノコウテイ、最大出力で怒りの炎だー」
ノコウテイは怒り狂うように燃え盛る火炎を放つ。その火力は段違いで、今までよりもずっと大きい。
しかし日照りで強化されても、炎タイプの技は炎タイプには半減される。そのためか、この炎も視界を塞ぐようにして放たれていた。
「怠けすぎて遂に脳みそまで腐っちゃったわけ? もうその手は効かないわよ! リザードン、こっちも出力最大でダイヤブラスト!」
リザードンは炎に向かって突っ込むと、煌めく白色の爆風を放つ。爆風は衝撃波となり、轟々と燃え盛っていた憤怒の炎を簡単に消し飛ばしてしまう。しかし、
「ドラゴンダイブだよー」
直後、リザードンとカンカーンに影が差す。見上げると、そこには龍の力をその身に宿し、凄まじい殺気を発しながら急降下してくるノコウテイの姿があった。
「っ……!」
ティンは気付く。さっきの怒りの炎は目くらましではなく、リザードンとカンカーンを一ヶ所に集めるための誘導。本命はドラゴンダイブで、二匹同時に押し潰すことだ。
ノコウテイは回避の難しい距離まで迫っていたが、ティンの対応は早かった。
「リザードン、大文字! カンカーン、火炎放射!」
リザードンは大の字の炎を、カンカーンは放射状の炎をそれぞれ放ち、ノコウテイを押し返す。
タイプ一致に加え日照りで強化された二体の大技だ。それを至近距離から喰らっては、流石のノコウテイももたない。押し返され、天井に叩き付けられた後、落下する。恐らく戦闘不能だ。
しかしティンは気付いていなかった。怒りの炎は誘導で、カンカーンとリザードンを集めるためのもの、という考えは当たっていたのだが、肝心の攻撃の要がノコウテイだと思い込んでいたために、もう一体の存在を忘れていたのだ。
普通の状況なら真っ先に警戒するだろう相手。しかし今は日照りが出ているため、その警戒を怠ってしまった。その相手とは、
「……ヤミクラゲ、大洪水です」
ヤミクラゲだった。
いつの間にかリザードンとカンカーン、二体の目と鼻の先まで接近していたヤミクラゲは、洪水を引き起こすような水量の激流を放つ。
「なっ……!? リザードン、カンカーン!」
至近距離からの大技を直撃され、なす術もなく二体は押し流される。日照りで威力が半減しても効果抜群、加えてタイプ一致だ。サンパワーの特性で体力が削られていたリザードンと、序盤の潜るで削られたカンカーンは、あえなく戦闘不能となった。
「やったー、逆転勝利ー。さっすがレイだー」
「いえ……フレイちゃんの陽動あってこそですよ」
怒りの炎は誘導、ドラゴンダイブは陽動、そして本命はヤミクラゲの大洪水。序盤からサポートに回っていたのも、ティンがヤミクラゲの存在を忘れる一因となったのだろう。
レイとフレイの二人がポケモンをボールに戻す中、ティンはわなわなと震えており、
「嘘……嘘よ、こんなの絶対おかしい! そうよ、まだ私にはポケモンが——」
ティンが叫び終えるより早く、バァンッ! と、蹴破るように訓練場の扉が開け放たれた。
「おいティン! お前なにやってる!?」
そして外からやってきたのは、怒り心頭のフォレスであった。
「すみません、レイさん。完全に俺の監督不行き届きです……今回のお詫びは、いつか必ずするんで、どうか見逃してもらえないでしょうか……ほらティン、お前も謝れ!」
「うぅ……なんで私が……」
フォレスが乱入してから、フォレスとティンは平社員の如くペコペコと頭を下げていた——いや、ティンはうなだれるだけで、決して頭を下げようとはしなかったが。
「いえ……別に構いませんよ。気にしないでください……」
ひたすら謝り続けるフォレスに、レイはどこ吹く風で返す。本当に気にしていないようだ。
「いや、そういうわけには……本当、今回のお詫びはいつか必ず。……お前も悪かったな、変なことに巻き込んで」
今度は背中に飛びついて来たフレイに視線を向け、謝罪する。
「いんやー、あたしも別にって感じー。けっこー面白かったしねー」
「ならいいが……さて、もう行くから降りろ」
「んー」
フレイは少し残念そうにするが、大人しくフォレスの背から降り、レイの腕の中に収まった。
「……では、俺はここで。本当にすみません。……ほら、行くぞ、ティン」
「はい……」
最後にもう一度だけ謝り、フォレスはティンを引き連れて去っていった。
その後。ティンはフォレスの部屋に呼び出され、説教を食らっていた。
「ったく、お前は本当にどうしようもねえな……なんでこんなことをした? 相手は7Pだぞ。俺はともかく、他の連中にバトルを挑むとか、信じらんねえ……」
頭が痛そうにこめかみを押さえるフォレス。彼にとって最大の悩みの種は、もしかしたらティンなのかもしれない。そんなことを思っているのだろう。
「だって……フォレス様、最近冷たくないですか? 今日もビオトープに全然来てくれなかったし」
「フレイにも言われたな、それ。遅れたのは悪かったが、癇癪起こすにしても限度があるだろ。それに、俺たちの決戦はもう間近だ。俺だって忙しい。それはお前だってわかってるだろ」
「うぅ、でも……」
もはや半泣き状態のティンは、しょぼんとした顔でフォレスに問う。
「……フォレス様は、私のこと、嫌いですか?」
「あぁ? なんでそうなる」
「だって、私に対してはやたら厳しいし、冷たいし、全然構ってくれないし……」
「…………」
フォレスは困ったような表情で押し黙った。天を仰ぎ、しばらくして、
「構ってくれないとか、子供かお前……あのなあ、お前は相手の都合も考えず自分のことばっか押しつけて来る奴を好きになれると思うのかよ」
「うぅ、やっぱり……やっぱりフォレス様は——」
「だがな」
ティンの言葉を遮り、フォレスはまっすぐにティンを見つめた。
「うざくても、鬱陶しくても、好意を寄せられて悪い気がしない奴は、そういねえよ。いるとしたらアシドくらいだろ。特に俺は、他の7Pとは違う。言っちまえば普通の一般人染みたところがある。感性も人並みだ。だから、好きだと言われれば、そいつのことを一方的に嫌うことなんざ、できねえよ」
それに、とフォレスは続ける。
「お前は、俺が選んだ唯一の森樹隊直属部下だ。森樹隊の、俺の直属の配下はお前しかいないんだ。その意味を、もっとよく考えてみろ」
「フォレス様……」
見上げるティンと視線を合わさず、立ち上がってフォレスはそそくさと部屋から出た。
ティンはゆっくりと目を閉じて、フォレスに言われたことを反芻し、呟いた。
「森樹隊の、フォレス様の直属部下は私だけ……か」
『その意味を、もっとよく考えろ』
ティンの胸中で、そんなフォレスの言葉がこだまする。
第四節終了、そして記念すべき500章です。ちょうどキリもいいので、いい話に仕上げたかったんですよ。ただそれだけで一章分伸ばしました。ともあれ、今回はフォレスがイケメンの回ですね。フォレスってこんないい奴だったっけ……? 7Pのまともな人格枠をエレクトロから奪い取ってますよ、あのフォレスが。さて、フォレスがイケメンになったところで、第五節に移行します。次回は第五節 探究。今度は毒邪隊の出番ですよー。今までは四章分で終わってましたが、次からはもうちょっと長くなりそうです。それでは、次回もお楽しみに。