二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 506章 後釜 ( No.749 )
日時: 2013/03/13 14:28
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: H6B.1Ttr)
参照: http://www40.atwiki.jp/altair0/pages/308.html

 プラズマ団基地、聖電隊居住区域、大広間。純白のクロスが掛かった丸テーブルがいくつも置かれた部屋の中央に、一人の男が座していた。
 彼は7Pエレクトロ。7Pにおける、実質的なまとめ役だ。
 エレクトロは椅子に腰かけ、目を閉じて動かない。まるで何かを待っているかのようにジッとしている。
 その時だった。

コンコン

「……どうぞ」
「失礼、します」
 控えめなノックに続いて控えめに入って来たのは、全身真っ黒の青年。エレクトロ直属の部下の一人、ソンブラだ。
 ソンブラは扉を閉めるとしばらく直立不動で黙っていたが、沈黙に耐え切れなくなったのか、口を開く。
「あの、エレクトロ様。話とは……」
「とりあえず座りなさい。長い話になります」
 静かに目を開いたエレクトロの言うままに、ソンブラはエレクトロの正面に座る。こうして近くで向かい合ってみると、物凄い威圧感だ。森樹隊に属するティンはよく7Pのフォレスと茶会をしていると聞いたが、ともすれば彼女の神経はかなり図太いのかもしれない。
 そんなことはさておき、ソンブラが席に着いたのを確認すると、今度はエレクトロが口を開いた。
「いいですか、ソンブラ。今から話すことは聖電隊の今後に関わる重要な話です。他言は無用ですよ」
「は、はい……」
 そんな重大な話を何故自分に、とソンブラは思ったりしたが、構わずエレクトロは続ける。
「実は私たち7P内では、次の後継者選びが始まっているのです。こうして直接部下に告げているのは、私だけでしょうがね」
「後継者選び、ですか?」
 わけが分からないとばかりにソンブラは復唱した。
「はい、後継者選びです。言い換えるなら後釜……もしくは次期7Pの選定、といったところでしょうか。英雄のシステムはもうあなたもご存じでしょう。あれになぞらえているわけではありませんが、我々も次の世代に移行する準備をしておこうと思いまして」
「まさか……僕に、次の7Pになれと?」
 恐る恐る尋ねるソンブラだったが、エレクトロはあっさりと首を縦に振る。
「はい、その通りです」
「無理ですよ! 僕に、エレクトロ様の後釜なんて……」
 そしてソンブラも即答した。それはそうだろう。エレクトロの組織の構成員としての有能さは誰もが認めるところだ。その任を引き継ぐとなると、相当荷が重く感じられるだろう。
「しかし、聖電隊で私の後継者になりえる人物は、あなたしかいないのですよ。というより、他の者では不適格だと判断しました。あなたは私の後釜として、ツユサやウズメ、マオが適任だと思いますか?」
「あ、いや、それは……」
 否定はできなかった。確かに、彼らがエレクトロの代わりに聖電隊を率いることが出来るとは、ソンブラにも到底思えない。
「で、でも、エレクトロ様に、後継者なんて必要ないんじゃないんですか? 他の7Pにしたって、後釜が必要な歳でもないでしょうに……なんで今更、こんなことを言うのですか?」
 それはもっともな疑問だった。7Pの者たちは、総じて若い。老衰して戦えなくなるわけでもないので、とても後釜が必要だとは思えない。しかしエレクトロは、
「……そうですね、言うなれば、保険のようなものですよ」
「保険?」
「ええ。アシドはバックアップなどと言っていましたがね。我々と英雄たちの決戦の日が間近に迫っていることは、あなたも感じていることでしょう」
「……まさか、そこで負ける可能性があるから、その保険に後継者を決めているのですか?」
 ソンブラの言葉に、エレクトロはフッと微笑みを零す。
「まあ、そういう可能性も否定はしませんよ。しかし問題はその後なのです。私たちの最大目標は世界征服です。英雄たちを倒すことではありません。英雄を倒した後に、新たな組織が我々の前に立ち塞がる可能性は十分あります」
「…………」
 それは分かっている。英雄を倒せばプラズマ団の勝ちではないのだ。自分たちはそういう位置で戦っているのではない。キュレムを復活させるのだって、手段であって到達点ではない。分かってはいるのだ。
 しかしソンブラからしてみれば、世界征服など夢物語。そしてその夢物語を現実にしようとしているゲーチスは、思想が人間離れしていると思う。バケモノ、と言っても言い過ぎではないだろう。
「我々だって、完全無欠ではありません。敗北することだってあるでしょう。それは英雄たちとの戦いの最中かもしれませんし、他の組織やトレーナー、もしくはジムリーダーや四天王、チャンピオンとの戦いの中でかもしれません。なんにせよ、私たちの真の戦いは、英雄たちを葬った後なのです。そしてその後にも、私たちが存在しているとは限りません。その時、急にトップを失った部隊は混乱するだけです。なので今のうちに、伝えておこうと思っただけですよ」
 まあしかし、とエレクトロは続ける。
「案ずることはありません。先ほどはああ言いましたが、私とて負けつつもりなどはありませんよ。可能性は否定できませんが、微々たるものです。本当にあなたは、ただの保険なのですよ。だからそう気負わないでください。もしもの時のために、あなた自身が聖電隊を率いる。その心構えを、少しでもしていればいいのです」
 話を終えると、スッとエレクトロは立ち上がる。そして、それ以上は何も言わずに、広間から去っていった。
 後に残されたのは、ソンブラ一人だけ。
「……エレクトロ様の、後継者かぁ」
 まったく実感が湧かなかった。そもそも7P自体、普通の構成員とは立場が違う。位が高いとか、上司とか幹部とかではなく、独立した別の存在、と言う方が正しいのだ。大元を正せば一構成員に過ぎない自分が次の7Pになるなんて、とんでもない話だ。
 それに、
「なんで、今になってあんなことを……」
 いや違う。その表現では的を射ていない。その問いの答えは、言えるうちに言っておきたい、ということになるだけだ。
 しかし的確な表現が出て来ない。自問自答すらできないもどかしさ。エレクトロに対する疑念。それらが混ざり合い、ソンブラを混乱させていく。
 混乱の末、背もたれに体重をかけ、ソンブラは天井を仰ぐ。そしてポケットの中から、一枚の写真を取り出した。
「どうすればいいんだよ、姉さん……」
 写真に写っているのはソンブラと、白髪の女性。ソンブラはジッと写真を見つめながら、一人ごちる。
「やっぱりエレクトロ様も、昔と比べて変わってしまった……それもこれも全部英雄のせいだ。でも、英雄はただの切っ掛けで、本当に変わってしまったのには、他の人間の存在があるからなんだよね」
 アシドが言っていた事だ。英雄イリスの影響を強く受け、7Pの人格は変わりつつある。しかしそこからもう一歩先、気になる者、その者にとって大きな存在となる者がいれば、その変化は大きくなる。例えば、7Pのドランがちょくちょく解放するようになったのには、ムントというトレーナーの存在があるかららしい。
「エレクトロ様にとって、大きな存在となるトレーナー。あの人が気にしているトレーナー……っ!」
 バッとソンブラは体を起こす。
 思い出した。エレクトロが意識していたあるトレーナーを。前に、まだちゃんとした決着が着いていないと言っていた、プラズマ団の要注意人物。
「……不本意だけど、あそこに行くしかないか」
 写真を丁寧にポケットの中に仕舞うと、ソンブラも立ち上がる。そして、プラズマ団基地にただ一つ存在する、7Pアシドのラボへと、向かうのだった。



「ケヒャハハハ! 珍しいなぁ、お前が僕んとこ来るなんて。で、何の用だ? 今の僕は機嫌がいいから、大抵のことは聞いてやるよ?」
 傲慢な態度、上から目線の物言い、性悪な口調、不愉快な笑い声……彼の欠点を挙げていたらキリがないのでここでは省略するとして。ソンブラは彼に対する嫌悪感を押さえながら、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「……探して欲しい人がいるんです」
「へぇ。誰だ? 何のために?」
「……その人と、戦います」
 そう言うと、アシドはまたしても不愉快な笑い声をあげる。笑い方も不愉快だが、このタイミングで笑ったのも癪に障る。
「戦う、ねぇ。だったら相手次第じゃぁそいつの戦闘データでもとってきてもらおうかね。勿論お前だって、ただでお願いを聞いてもらえるとは思ってねぇだろ? んで、誰だ? 誰を探して欲しいんだ?」
 いちいちこちらの神経を逆撫でするようなテンションのアシドだったが、そこをぐっとこらえて、ソンブラは対戦を希望する者の名前を告げる。

「PDOヒウン支部統括……リオ。彼女は、どこにいますか?」



ではでは、第六節、スタートです。今回のメインはソンブラ。そして相手はリオとなるでしょう。さて、特にあとがきで書くこともないのですが……ああ、そうそう。実は白黒、最近絵を描くことにはまっています。いや、はまっているという表現は不適切ですね。絵を描く練習をしています、と言うべきでしょう。最近更新が滞っていたのはそのためです。申し訳ありません。実は友人数名が描いたというイラストを見て、それらのクオリティが予想以上に高かったものですから、白黒も負けていられないと……まあ、そんな嫉妬心にかられたみたいな理由です。それではあとがきもこの辺で。次回、ソンブラ対リオです。お楽しみに。