二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 512章 孤島 ( No.759 )
- 日時: 2013/03/16 16:32
- 名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: H6B.1Ttr)
- 参照: http://www40.atwiki.jp/altair0/pages/308.html
「んー……! やっとイッシュに帰って来たなぁ……」
ヒウンシティの船着き場にて、背伸びをする少年の影が一つ。彼は知るものぞ知るイッシュ地方の真実の英雄、イリス。
つい先日までは、先代の英雄であり父親のイリゼと共に、イッシュ本島から離れた辺境地を巡りながら特訓をしていて、今まさに、イッシュ本島へと戻って来たのだ。
「やっぱ本島じゃないとイッシュって感じがしないからね……とはいえ、故郷を懐かしむのも、ほどほどにしとかないとな」
イリスが帰ってきた理由は二つ。一つはイリゼとの特訓を終えたから。イリゼがイリスに教えるべきことを全て教え、イリスも学ぶべきことを全て学んだがゆえに、特訓の過程を終えたがゆえに、イッシュへと戻って来た。
そしてもう一つは、イリスが特訓する理由、プラズマ団との決戦の日が近づいてきているからだ。
プラズマ団は境界の水晶の力が満ちる、冬の終わり頃に動き出すはずだ。となると、もうそろそろ何かあってもおかしくない。そのため、無闇に特訓を引き伸ばさず、こうして馳せ参じたというわけだ。
「父さんはカノコタウンに行ったし、僕はどうしようか……こういう時は、やっぱり休むべき?」
とはいえ体の方は好調だ。今すぐ休む必要などない。ならばこの場合、休めるのはやはり心。
「うーん、だったら久しぶりに、スカイアローブリッジでも見に行こうかな。もうしばらくしたら大がかりな点検で、入れなくなるみたいだし」
と呟きながら、イリスはイッシュ最長の橋、スカイアローブリッジへと向かう。ヒウンシティの端にあるゲートを潜り抜ければ目前だ。
そうしてゲートに足を踏み入れた、刹那。
「っ……!?」
世界が震撼した。
「じ、地震か……!?」
壁に手をつき、なんとか体を支えるイリス。地震はしばらく続いた後、やがて収まった。
「長い地震だったな……しかも、イッシュでただの地震っていうのも珍しい。火山活動の影響とかならともかく」
何か嫌な予感がする、とイリスはふと顔を上げる。ゲートの窓に広がる青い空。いつもならただそれだけの、平和な空間なはずの空が、今は違った。途方もない、我が目を疑いたくなるような異物が、そこには存在する。
「……!? な、なんだよ、あれ……?」
目を擦ってもう一度見るが、それに変化はない。幻でも錯覚でもない。それは実際の存在しているもの。しかしそこにはあるはずのないものだった。それは、
「街が……浮いてる……!?」
ここからだと遠いので、全貌はつかめない。実際の規模も分からない。しかし、遥か空の彼方には、複数の建物が立ち並ぶ、街のようなものが、どんどん空へと上っている。
あまりに非常識な光景にイリスが驚愕していると、ゲートに備え付けられている電光掲示板にニュースが流れだした。
『緊急速報です。たった今発生した地震の震源は、サザナミ湾付近と思われ、同時に謎の巨大な都市が浮上しました。現在、各種方面の機関が調査を進める模様。なお、巨大都市は現在、上昇を続けて……い、……るよ……う……——』
途中から電光掲示板の映像にノイズが混じり、やがて別の画面へと切り替わってしまう。そして、その画面を見たイリスは、再び驚愕の表彰を見せる。
『英雄諸君、聞こえていますか?』
「……! ゲーチス……!」
そこに映し出されたのは、プラズマ団の頂点にして諸悪の根源とも言うべき、イリスたちの最大の敵、ゲーチス。ただ、顔は衰えたように痩せこけており、恰好も黒いコートを着るなど、以前であった時とは意匠が異なる。
『ご覧になられましたか? あの、空に浮かぶ巨大都市を。あれは我々プラズマ団が誇る科学の粋を結集させ、現代に蘇らせた古代都市——古代空中都市プラズマ・シティです』
「現代に蘇らせた……? 古代空中都市……?」
よく分からない単語が多いが、あれほどのものを浮かべるほどの科学力をプラズマ団が有しているのは分かった。はっきり言って滅茶苦茶だ。
『英雄諸君、よく聞くのです。今から我々は、ジャイアントホールへと向かい、キュレムを復活させる。そうなれば最後、あなたがたとイッシュの未来、そして世界は、我々プラズマ団が握る事となります』
しかし、とゲーチスは続けた。
『あなた方は今まで、散々我々の邪魔をしてきた。一年……二年前のNとの死闘が、その最もたるものでしょう。ゆえに、今回もワタクシの邪魔をすることは目に見えています。だから』
左端の口を歪ませ、嘲笑うようにゲーチスは告げる。
『ワタクシを止めたくば、プラズマ・シティへと乗り込むのです、英雄! そこで、決着をつけようではありませんか——』
プツッ、と電光掲示板が消える。
「……なにが乗り込むのです、だ。そんなこと、言われるまでもない」
一つのボールを取り出し、握り締め、イリスはそんなことを呟く。
同時に、腕のライブキャスターが鳴った。
「誰から……?」
流石にゲーチスではないだろうと思いながら回線を開くと、案の定、流石のゲーチスではなかった。相手はキリハだ。
『イリス君! さっきのニュースだけど……』
「分かってます、僕も見ました。遂にプラズマ団と、決着をつける時が来たようですね」
キリハは妙に落ち着いているイリスを見て、少し驚いたような表情を見せる。が、すぐに気を取り直し、
『……なら、話は後かな。今すぐにプラズマ団を倒すための作戦会議に入りたい。腕の立つトレーナーを集められるだけ集めて、プラズマ・シティとやらに乗り込む算段を立てる。だから君にも集まってほしいんだ』
「集まってほしいって……それはいいですけど、どこにですか? ヒウンして分は倒壊してしまいましたし……」
『ヒウンじゃない。PDOの本部に集まるんだ』
「PDOの本部? それって、どこにあるんですか?」
よく考えてみれば、PDOの本部がどこにあるのかという話を、イリスは全く聞いていなかった。各町に各支部が存在するのは分かっていたが、それらをまとめる総本山がどこにあるのかは、まったく知らない。
そしてキリハは、その場所を打ち明ける。
『リバティガーデン島だ』
リバティガーデン島。そこは、ヒウンシティの南西に位置する小さな島で、昔はとある富豪の所有物だったようだ。
そして今は、PDOが富豪からこの島を買い取ることで、PDO本部となっているらしい。
「……というか、これ、本部というより秘密基地って言った方がしっくりくるんですけど……」
「言わないでくれ。僕だって、今さっきこの島が本部だって知ったんだからさ」
船を利用すると時間がかかる上に煩わしいので、イリスはウォーグルに乗ってリバティガーデン島までやってきた。しかし本当に小さな島だったので、キリハとペガーンが空からサインを送ってくれなければ、絶対に辿り着けなかっただろう。
イリスとキリハの二人はそんな事を言いながら、この島にあるただ一つの建物、灯台の中へと入っていく。
「実はもうみんな集まっていて、君が最後なんだ。さあ、入って」
促されるままにイリスは灯台の中の部屋へと入る。そこは広間のようになっていて、長机やスクリーンなど、作戦会議室という言葉がよく似合いそうだ。
「よーぅイリス、遅せぇぞ」
「……なんでカノコタウンに戻ったはずの父さんが、僕より先にここにいるのさ」
甚だ疑問だが、イリゼにこの世の常識を説くことが間違っている。イリスはそれだけ言って、部屋を見渡した。
集まっているのは、二十人あまり。それも、今までプラズマ団と戦ってきた者たちばかりだ。大軍隊を率いるプラズマ団を倒すには、些か人数が少ない気もするが、イリスは全員が腕の立つトレーナーであることを知っているので、少数精鋭ということにして納得する。
その中でイリスは、とある人物に目を合わせた。
「N……」
緑髪で長身の青年。以前はプラズマ団の王、今はイリスたちの仲間となった、理想の英雄。
「いよいよだね」
「うん」
お互い短く言葉を交わし、それっきり黙り込む。
イリスの登場で面子が出揃い、キリハが前に立った。
「さて、それじゃあこれで役者は揃ったね。それじゃあ今から、打倒プラズマ団のための作戦会議を始めるけど……その前に、二人ほど紹介しなきゃいけない人たちがいるんだ。たぶん、知らない人もいるだろうから」
キリハはチラッとある人物に目配せをする。
紹介したい人……というのは、イリスにも分かる。この部屋に入ってから真っ先に目に入った人物。一年……いやさ二年前から今までまったく姿を見せなかった、PDOの統領。
その人物はキリハと場所を変わると、全体を見渡し、口を開いた。
「……言うべきことは色々あるんだけど、まずは自己紹介をするべきだね。初めましての人は初めまして」
そう言って、彼はその素性を明かす。
「僕がPDOのリーダー、ジルウェだよ」
遂に始まりました、第十七幕。決戦の意味は、言わずもがなですね。さて、今回は前作ぶりとなるPDOのリーダー、ジルウェが出ましたが……覚えている人、いますかね? 前作でも特に何もしてなかった彼が今更のこのこ出て来て、なんだこいつ? みたいになってませんかね?それでは次回、古代空中都市プラズマ・シティを解明します。お楽しみに。