二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 521章 ムントvsドラン ( No.772 )
- 日時: 2013/03/19 15:15
- 名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: H6B.1Ttr)
- 参照: http://www40.atwiki.jp/altair0/pages/308.html
下っ端の大軍を突き抜け、ムントはただ一人、空中都市の中で最も高い建造物——即ち塔を上っていた。
高い塔で、中は螺旋状の階段がひたすら渦巻いているだけだ。それをずっと上っていき、どれくらい経ったか分からなくなってきた頃、頂上に辿り着いた。
頂上はそれほど広くない。普通のバトルフィールドを円形に切り取った程度の面積しかない。縁には柵などもなく、しかもここは空中都市で塔のてっぺん。風も吹き荒れているため、非常に足場が悪い。
しかしそんなものをものともせず、風に揺らめく人影が一つ、そこにはあった。
真っ黒なローブに身を包み、フードで顔全体を隠している。そのフードからは藍色の髪が垂れ下がるようにして出ており、フードにはプラズマ団の紋章。
神龍隊統率、序列二位——7P、ドラン。
「……やっぱり来たね、ムント君」
ドランは、その異形の姿からは想像できないほど幼い声で、ムントの名を呼ぶ。
「ドランは君に来て欲しいと思ってたんだ。だからこうして、戦いの場を設けてあげたんだよ」
両手を広げるドラン。戦いの場と言うが、この場所はとても戦うのに適しているとは思えない。しかしドランは、
「この塔はね、イッシュ創世記の頃、儀式として利用された塔なんだよ。龍を呼ぶ儀式場。かつての英雄たちも、ここで真実の龍や、理想の龍と更新してた……セッカシティだっけ? にある龍螺旋の塔は、この塔を現代に復元させたものらしいよ」
と言い、
「つまり、この塔は龍にとって、ドラゴンポケモンにとって神聖な場所なの。ドランたちが決着をつけるのには、相応しい舞台だと思わない?」
「……どうだろうな」
ムントとしては、場所などはどうでもいい。最大の目標はゲーチスを倒し、プラズマ団を解体すること。そしてその障害となるであろう7Pを先に倒す。そしてムントが倒すべき7Pは、目の前にいる異形の人影、ドラン。ムントの中にあるのは、それだけだ。
「ふーん、まあいいや。なんにせよ、ここはドランとムント君が決着をつけるために、ドランが用意した場所なんだ。だから、邪魔な奴らはいらない」
そう言ってドランは、三つのモンスターボールを取り出し、ムントに見せつけるようにして突き出す。
「……?」
その行動の意味が分からず、疑問符を浮かべるムント。それに構わずドランは、くるっと後ろを向いた。そして、
手にした三つのモンスターボールを、塔から投げ捨てた。
「っ……!」
さしものムントも驚きを隠せない。自分のポケモンを三体も捨てるなど、正気の沙汰ではない。
しかしドランは、いつもの調子で語り続ける。
「ドランと君の戦いに、余計なポケモンは必要ない。ドランには、ドランの力が一つあればそれでいい。その力だけで、君と戦うよ」
またムントに向き直ったドランの手には、一つのボールが握られていた。
「さあ、始めようよ、ムント君。この戦いが、ドランの命運を決めるんだ」
急かすようなドランに、ムントは静かにボールを取り出した。
「……ポケモンを投げ捨てるなどという思考は、俺には分からない。だが、一対一、サシのバトルだと考えれば、分からないこともない、か」
そう呟くと、無とはボールを構える。ドランも同じく、構えを取った。
「元より、お前の力とやらを打破するために、俺はこいつと鍛えてきた。一対一がちょうどいい」
「それは良かった。それじゃあ、始めるよ!」
ドランの声を皮切りに、ポケモンが繰り出される。
「天空に臨め、ドラドーン!」
現れたのは巨大な龍。神龍ポケモン、ドラドーン。
分類通り、胴の長い龍の如き姿をしており、蓄えられた髭は威厳を感じさせる。
10mを遥かに超えるだろう巨躯を晒したドラドーン。その圧倒的な威圧感には、大抵のポケモンやトレーナーなら屈してしまうだろう。
しかしムントは屈しない。今まで、このドラドーンを倒す一心で修業を積んできた。そして、この神龍を倒すポケモンは、一体しかいない。
「……お前の力を見せつける時だ。今度こそ、奴を屠る」
直後、ムントの手からボールが放られる。
「出て来い! オノノクス!」
現れたのは屈強な龍。顎斧ポケモン、オノノクス。
異常に発達した斧の如き牙は鋭く、黒く煌めいている。ドラドーンほど巨体ではないが、それでもがっしりとした体つきは、逞しさを感じる。
「……うん、やっぱそうこなくっちゃ。さあ、かかっておいでよ。ドランも、戦力で迎え撃つよ!」
「端からそのつもりだ! オノノクス、ドラゴンクロー!」
オノノクスは地面を蹴って飛び上がり、龍の爪でドラドーンを切り裂く。
先制の、効果抜群のドラゴンクローが決まった。しかしドラドーンは身じろき一つしない。
「前よりもずっと攻撃力が上がってるね。でもでも、そんなんじゃドランのドラドーンは倒せないよ! ハリケーン!」
ドラドーンはどこからか、激しい突風を吹き放つ。ただでさえ足場が悪いというのに、この一撃をまともに喰らえば簡単に吹っ飛ばされ、塔の外に放り投げられてしまう。
そのためオノノクスは、地面に爪を喰い込ませ、必死で突風を耐える。ただひたすらに、耐え続ける。
「……龍の舞!」
そしてハリケーンが止んだ頃合いを見計らって、オノノクスは龍の舞を舞う。これで攻撃力と素早さは一段階上昇したことになる。
「ドラドーン、アイスバーン!」
「オノノクス、かわしてドラゴンクロー!」
ドラドーンは氷の衝撃波を放つが、オノノクスは跳躍してそれを回避。ドラドーンの額を龍の爪で引き裂くが、ドラドーンはまだ効いたような素振りを見せない。
「アイスバーン!」
「っ、かわせ!」
直後、ドラドーンは氷の衝撃波を放つ。まともに当たれば致命傷確定の技なので、オノノクスはドラドーンの額を蹴って、三角飛びのように衝撃波を回避。
「龍の舞だ!」
そして地面に降りたつと、龍の舞で攻撃と素早さをさらに上昇。これで二倍。
「ドラドーン、ハイドロポンプ!」
オノノクスを弾き飛ばすためか、ドラドーンは高度を少し落とし、真正面からオノノクスに向けて大量の水を噴射する。
「龍の舞で回避!」
しかしオノノクスは、龍の舞を舞いながら水流をかわし、ドラドーンに接近。そして、
「ドラゴンクロー!」
龍の爪で切り裂く。効果抜群で、龍の舞を三回も使用しているのだ。普通のドラゴンポケモンなら——いや、チャンピオン級のポケモンでも大ダメージを受けるだろうが、しかしドランのドラドーンは、顔をしかめる程度の変化も見せない。
「アイスバーンだよ!」
どころかすぐに氷の衝撃波を放って反撃に出る。オノノクスはすぐにドラドーンから離れ、衝撃波を回避した。
「ハリケーン!」
だが直後、災害の如き嵐がオノノクスを襲う。流石にこの攻撃は避けられないので、オノノクスは踏ん張ってひたすら耐える。
最初から分かっていた事だが、このフィールドは明らかにドランに有利だ。オノノクスは飛べず、ドラドーンは飛べることからそれは分かるのだが、それ以外にもドラドーンが有利に働く要素が多々ある。
まずは何と言っても足場の悪さ。ドラドーンは飛んでいるので関係ないが、オノノクスはこの狭い足場を活用しつつ戦わなければならない。攻撃するときには逐一跳躍してドラドーンに近づき、攻撃する必要がある。しかも足場が悪いということは、一度塔から落ちれば一巻の終わり。そしてドラドーンはハリケーンやハイドロポンプなど、こちらを塔の外に弾き飛ばすような技を覚えている。
以上のような要素から、このフィールドはオノノクスにとっては不利、ドラドーンにとっては有利に働いている。しかし、
「オノノクス、ドラゴンクロー!」
オノノクスの爪がドラドーンを切り裂く。
「ドラドーン、アイスバーン!」
対するドラドーンも反撃にと氷の衝撃波を放つが、オノノクスの俊敏な動きで回避されてしまう。
「ハイドロポンプ!」
「かわせ!」
ドラドーンは追撃にと大量の水を噴射。オノノクスはそれをかわそうとするが、ドラドーンもオノノクスを追いかける。だが、
「瓦割り!」
手刀を構えたオノノクスが、水流を断ち切って強引に打ち消してしまう。そしてそのまま跳躍し、オノノクスはドラドーンに接近する。
「ドラゴンクロー!」
龍の爪でドラドーンを切り裂くと、今度は反撃されるよりも早く跳び退き、足場に着く。
オノノクスは現状、ドラドーンと互角以上の戦いを繰り広げている。これはフィールドの悪さを埋めるほどのムントの戦闘センス、そして今まで積んできた修行の成果の賜物だろう。
「地震だ!」
突如オノノクスは思い切り地面を蹴りつけ、その衝撃で地面を揺らす——が、それはドラドーンには届かない。それはムントも分かっていることだ。なのでこの地震の狙いは攻撃ではない。
オノノクスは地震の衝撃で、空高く跳び上がった。
「——!」
「オノノクス、ドラゴンクロー!」
空高くから繰り出される龍の爪。切り裂く、引き裂くといより、突き砕くような一撃をドラドーンに叩き込んだ。
その一撃で、ドラドーンの顔は初めて歪む。
(今の感触……)
その攻撃に手応えを感じ、ムントは、あることを思い出していた。
それは、このドラドーンを倒すための修行として戦い続けていた、一体の黒いオノノクスのことだった——