二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 527章 不可視 ( No.778 )
日時: 2013/03/20 13:38
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: H6B.1Ttr)
参照: http://www40.atwiki.jp/altair0/pages/308.html

 闇の咆哮が少しずつ水流を押し始め、やがて大洪水は完全に消し飛ばされてしまった。
「今だ! ヘルガー、放電!」
 大洪水を打ち破った瞬間、ヘルガーは電撃を撒き散らしてヤミクラゲを攻撃。何重にも重ねられた電撃を受け、ヤミクラゲは戦闘不能となった。
「……戻ってください、ヤミクラゲ」
 レイはヤミクラゲをボールに戻す。結局、ヘルガーの特攻は最大まで上昇し、レイにとっては非常にまずい状況となった。
 しかしそれでもレイは、静かに次のポケモンを繰り出す。
「おいでなさい、テッカニン」
 レイの二番手は、忍ポケモン、テッカニン。
 蝉のような姿をしたポケモン。外見的特徴はそれだけだ。
「ここでテッカニン……能力の上がったヘルガーを、スピード勝負で倒すつもりか」
 今のヘルガーに、火力で勝負するのは無謀だ。かといって耐久型のポケモンでも、そのまま押し切られる可能性が高い。
 ならば攻撃を受けないことを前提とし、手数で勝負を決めた方が勝率が高いと、レイは判断したのだろう。
「だがそれは、裏を返せば一撃でも入れられれば俺の勝ちってことになる。決めるぞヘルガー、火炎放射!」
 ヘルガーは燃え盛る火炎をテッカニンへと放つが、
「テッカニン、高速移動です」

 刹那、テッカニンの姿が消えた。

「……!」
 ザキは視線をあちこちへと向けるが、テッカニンの姿は見えない。そして、
「連続切り」
 次の瞬間、ヘルガーの体に一筋の切り傷ができていた。傷自体は浅いが、攻撃の瞬間が全く見えなかった。気付けば傷ついていた、という感覚だ。
「流石に、テッカニンは速ぇぜ……」
 うんざりしたように呟くザキ。
 テッカニンの特徴は、その類まれなるスピード。目視すらも難しい超スピードで動き回り、相手を攪乱する戦い方で、手数で攻めるのが基本だ。
「火炎放射がダメなら、これならどうだ。ヘルガー、放電!」
 ヘルガーは四方八方に電撃を撒き散らす。特攻マックスの状態で放たれる電撃は相当広い範囲に撒かれ、普通のポケモンなら回避などほぼ不可能だ。
 しかし、テッカニンは別である。
「高速移動」
 残像も残らないほど高速で、もういっそ光速と言ってもいいくらいのスピードでテッカニンは動き回り、放電を回避している。姿が見えないので、もしかしたら放電が届かない場所にいるだけかもしれないが。
「燕返しです」
 そして次の瞬間、またしてもヘルガーの体に切り傷ができていた。さっきのものよりも深い傷だ。
「テッカニン、継続して連続切りです」
 さらに次の瞬間、またまたヘルガーの体に傷が生まれる。その次の瞬間も、さらに次の瞬間も、そのまた次の瞬間も、ヘルガーは斬撃を受ける。しかも、傷は一瞬ごとに深くなっている。
 一秒どころか一瞬経つたびに攻撃を受け、ヘルガーは手も足も出ない状況だ。羽音と斬撃の音だけが連続して鳴り響き、ヘルガーはなす術もなく連続切りを受け続けるだけだ。
「テッカニン、潜るです」
 そして最後に、テッカニンは一瞬で地中に潜り、一瞬で地上に這い出て来て、ヘルガーを吹っ飛ばす。正直ザキには、普通に下から突撃してきたようにしか見えなかった——というか、そもそもテッカニン自体見えなかったので、ヘルガーが一人で勝手に吹っ飛ばされたようにしか映らない。
「……戻れ、ヘルガー」
 長く感じた攻撃だが、実際の時間は一分に満たない。それほど、テッカニンの機動力は優れているのだ。
「あのスピードは厄介すぎる……さて、どうするか」
 テッカニンの攻撃力は、正直に言って大したことがない。ヘルガーを倒すのに相当数攻撃していたようなので、防御に関してはあまり考えなくていいだろう。どう足掻いても、ザキのポケモンではテッカニンに弱点を突かれる。
 となると、次はどうやってテッカニンに攻撃を当てるかだ。どのポケモンを繰り出せば、テッカニンに攻撃を当てられるか。ザキはしばし熟考し、
「……決めたぜ。次はお前で行く」
 と言って、次なるボールを構えた。
「出て来い、ブーバーン!」
 ザキが繰り出すのは、爆炎ポケモン、ブーバーン。
 卵型のずんぐりした体躯で、両腕はバズーカ砲のように筒状となっている。両肩は揺らめくように燃える炎。
「ブーバーンで来ましたか。以前は大地の怒りでやられてしまいましたが、今回はどうでしょう。テッカニン、潜る」
「ブーバーン、大地の——」
 テッカニンが地中に潜るのなら、地面から引きずり出せばいい。そう思ってブーバーンは大地を鳴動させ、土砂を噴射しようとするが、出来なかった。
 というより、ザキが指示を終える前に、テッカニンは地中からの攻撃をヒットさせていたのだ。
「連続切りです」
 そして直後、ブーバーンの体に何重にも重ねられた切り傷が生まれる。テッカニンに姿は、いまだ見えない。
 しかし、
「……?」
「んだ? ありゃ……」
 空中に、うっすらとした一筋の光が見える。光の筋は一定の長さを保っており消えた側からまた生まれている。その様子はまるで、蝋燭を持って走った時、その炎が揺らめいて線を描いているかのようだ。
「……! そうか、火傷……!」
 ザキは気付いた。テッカニンは火傷しており、その時に生じる弱い炎が、高速で動き回るテッカニンに引っ張られて揺らめき、一筋の線に見えるのだ。
 火傷になったのは、ブーバーンの特性、炎の体によるものだろう。炎の体は直接攻撃を受けると、攻撃を仕掛けたポケモンを火傷状態にすることがある特性。さっきの連続切りを、文字通り連続で繰り出した時に、テッカニンは火傷を負ってしまったのだろう。
「……問題ありません。それなら、テッカニンが火傷で力尽きる前に、ブーバーンを倒せばいいだけのこと。テッカニン、燕返し!」
 次の瞬間、ブーバーンの体に新しい傷が出来る。やはり攻撃は見えない。見えないが、
「もう一度、燕返しです!」
「ジオインパクト!」
 姿は見えないがテッカニンの攻撃が当たる直前、ブーバーンは銀色のオーラを身に纏う。本来ならここで目標に向かって突撃するのだが、今は攻撃すべきテッカニンの姿が見えないので、オーラを纏うだけ。しかしそれだけで、テッカニンから受けるダメージが大幅に減少する。しかもオーラは盾になるだけでなく、上手く行けばテッカニンの体力を、少量でも削る剣にもなりえるのだ。
「……潜る!」
 攻撃を重視し始めたテッカニンは、地中に潜り、すぐさま飛び出して死角からブーバーンを襲う。効果抜群だが、火傷で攻撃力も下がっているため、そこまで大きなダメージは期待できない。
「つっても、ジオインパクトだけじゃ限界があるよな……ブーバーン、ダイヤブラスト!」
 ブーバーンは四方八方に向けて宝石のように煌めく白色の爆風を連続して放つ。この攻撃が当たるとも思わないが、テッカニンの接近を止める程度の効果は期待できるだろう。
 そう思っていたが、
「高速移動!」
 テッカニンは超高速移動で爆風を突き抜け、容易くブーバーンに接近してしまった。
「燕返しです!」
そして鋭い爪で切り裂く。ダメージ量は大したことがないが、ブーバーンの体力は確実に削られている。
「くっそ、オーバーヒート!」
「テッカニン、潜る!」
 ブーバーンは周囲を取り囲むような爆炎を放つが、テッカニンは地中に潜ってしまう。しかも今回はすぐには飛び出さず、炎が収まるのを待ってから、ブーバーンへと突撃。
「連続切り!」
 そして直後、ブーバーンの全身をくまなく切り刻む。一瞬後にはもう攻撃されているため、潜るで素早さを下げられたブーバーンでは、どう足掻いても反応できない。
「引き剥がせ! オーバーヒート!」
「潜るです!」
 ブーバーンは爆炎を発射するが、テッカニンは地中に潜って炎を回避。炎が鎮火した瞬間に飛び出して、ブーバーンに突撃する。
 今の一連の動きを見て——テッカニンは黙視できないが——ザキはある事に気付く。
(こいつ、オーバーヒートだけは潜るでかわすな……)
 それに気付くと、ザキはすぐに行動を開始した。
「決めるぞブーバーン、オーバーヒート!」
 ブーバーンは燃え盛る爆炎を放つ。これほどの炎を避けるのはテッカニンでも難しいのか、それとも熱気自体がダメなのか。それは定かではないが、この攻撃に対するテッカニンの行動は決まっている。
「テッカニン、潜る!」
 テッカニンは地中へと身を潜めてしまう。それによって爆炎はテッカニンには届かない。が、それこそがザキの狙いだった。

「ブーバーン! 最大火力でオーバーヒート!」

 ブーバーンは再び、しかし今度は今まで以上の火力で爆炎を解き放つ。勿論いくら火力を上げようとも地中にいるテッカニンに炎は届かない。しかし逆に言えば、炎は届かない。つまり、炎以外なら、届く。
「っ! まさか、熱気で……!」
 ブーバーンの炎は、よく見れば下向きに放射されている。つまり最初から炎を直接テッカニンに当てる気はなく、炎による熱気をテッカニンに浴びせるつもりだったのだ。
 しばらく、長い時間、炎は燃え盛っていた。その炎が消える時、牢獄の氷はあまり溶けていなかったようだが、もぞもぞと地面から這い出て来た何かは、焼け焦げていた。
「テ、テッカニン……!」
 熱気を浴びて体力を根こそぎ奪われたテッカニンは、地中で蒸し焼きにされた挙句、戦闘不能となった。