二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 530章 孤高 ( No.781 )
- 日時: 2013/03/20 23:08
- 名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: H6B.1Ttr)
- 参照: http://www40.atwiki.jp/altair0/pages/308.html
アシドは7Pになる以前——というより、プラズマ団に入る以前から科学者だった。その頃はアシドという7Pとしての名ではなく、本名で呼ばれていたのだが、その名は知る者はよく知る、有名な名前だった。
アシドは天才を自称しているが、彼の言うことは大袈裟でもなんでもなく、本当に天才なのだ。幼い時から既に様々な研究をしており、多大な結果を残している。
そんな彼は、研究機関の界隈では引っ張りだこだ。どの機関もアシドを欲し、引き入れようとしたが、結局はどの機関もアシドを手放した。
その理由は、単純すぎるほどに単純だ。プラズマ団でもそうであったように、アシドは協調性に欠ける。我儘で自分勝手で自己中心的だ。ゆえにどの研究機関にいても、他の研究員とそりが合わず、最後には人間関係をこじらせて出ていくことになる。それを何度も何度も繰り返した。
彼の自己中心的な部分は、幼少期から天才だともてはやされたせいであり、自分が天才だという自覚もあったからだ。しかし性悪で歪んだ部分は、こじれた人間関係から生み出されたものだった。
結果、彼は孤独な研究者となった。彼一人でも研究を進めることは出来るが、しかし設備がない。そのせいで、もう少しで手の届きそうな研究を、途中で挫折したり、諦めたりしたこともあった。
そして、アシドはいつしか研究者の間でもその名を聞くことがなくなり、彼の名前は闇に埋もれてしまうこととなる。有名だったと、過去形なのはそのためだ。
しかしそんな彼に目を付けた組織があった。それがプラズマ団だ。
日陰者を、この世の闇を探っていたプラズマ団は、技術者を欲していたらしい。しかもただの技術者ではなく、覚悟のある者を求めていた。
「ワタクシが求めるのは、強い意志を持つものです。他の全てを捨ててもいいと思うほど覚悟を持つものです。世界に絶望しようと、世間から見放されようと、何かを一心に求める。そんな人物を、探しているのですよ」
「……あっそ」
どうでもよかった。アシドにとっては、必要とされているとか、お前には価値があるとか、そんなことはどうでもいい。アシドは最も欲していたのは、自分の欲求を満たすだけの場所。あふれ出る好奇心、知識欲、探究心、そういったものを解消する場所を求めていた。だから、ポケモンを解放するとか、自分たちだけがポケモンを使うとか、世界を征服するとか、そんなことは、本当にどうでもよかった。
だが、最後の言葉だけは、聞き逃せなかった。
「あなたがワタクシに手を貸すというのであれば、あなたの望むものを全て提供しましょう」
「……! 本当か!?」
すぐに喰いついた。子供というか、もはや獣だ。
既に家出をしていたアシドは、プラズマ団などという宗教団体染みた組織に加入することに対して抵抗はない。ただ、この組織も今までの研究機関のように、いずれ自分を排するのではないかという懸念もあった。
しかしその懸念はすぐに払拭される。
設備は想像以上に良いものだった。今までの研究機関なんて目じゃない。たまにゲーチスからの命令で、自由に研究できなくなる時もあるが、それもたまにだ。
下っ端たちは自分を恐れたり疎んでいたりしたようだが、同じ幹部のような者たち——後の7Pと呼ばれる者たちは、アシドを普通に受け入れた。
今までに感じた事のない感覚。その感覚が生まれるのは、この組織にか、設備にか、それとも、同じ仲間たちからなのか。
世間から見放された彼の時間は、いつしか止まってしまった。しかし今、同じ組織の者たちと結託したり、共闘したり、敵である英雄たちと対立したり、争い合ったりして、その時間は再び動き出す。
プラズマ団という組織は、彼に人間の触れ合いを経験させた。それは協力という形だったり、対立という形だったりと様々だ。
その触れ合いを通じて、7Pアシドは、人間として成長していったのかもしれない——
「……finトライアル。実験スタートだ、スモーガス!」
アシドが最後に繰り出すポケモンは、毒煙ポケモン、スモーガス。
楕円形の紫色の体で、体の上下にはそれぞれ突起物。赤い水晶体が埋め込まれたユニットが二つ、宙に浮いている。
「スモーガス、毒煙幕!」
スモーガスはまず、大口を開けて毒素を含んだ煙幕を放つ。
「っ、また面倒な技を……!」
毒煙幕は視界を遮るだけでなく、毒素によって体力を少しずつ削っていく。長期戦に持ち込まれると不利になってしまう。
が、
「スモーガス、アシッドボム!」
煙幕に紛れて、スモーガスは酸性の爆弾を発射。カイリューに直撃させるが、ダメージは少ない。
「もう一発! アシッドボム!」
続けてアシッドボムを放つスモーガス。さっきよりは効いたようだが、それでもダメージは少ない。
「ちっ、カイリュー、十万ボルト!」
カイリューはアシッドボムが飛んできた方向に向かって電撃を放つが、手応えはない。
「だったらこれだ! カイリュー、ドラゴンダイブ!」
カイリューは一気に天井まで急上昇する。そこからでもスモーガスの姿は見えないが、カイリューはそのまま凄まじい勢いで急降下。地面に激突する。
するとその衝撃で毒煙幕は吹き飛び、視界は明瞭。スモーガスの姿も確認できた。
「そこだカイリュー! エアスラッシュ!」
「スモーガス、毒煙幕だ!」
カイリューはスモーガスを見つけると、すぐさま空気の刃を飛ばして切り裂く。しかしスモーガスはそれを気にせず、毒煙幕を放ってまた視界を遮った。
「十万ボルト!」
カイリューは適当に十万ボルトを放つが、すべて手応えはない。
「しゃらくせぇ……カイリュー、ドラゴンダイブだ!」
「スモーガス、アシッドボム!」
急上昇するカイリューに、酸性の爆弾がぶつけられるが、カイリューはそれを無視。天井まで上昇した。
そして直後、龍の力を纏い、凄まじい勢いで急降下する。今度は地面にぶつかるようなことはせず、当たりをつけてスモーガスを狙う。
カイリューが進む軌道の毒煙幕は、ドラゴンダイブの勢いで吹き飛ばされ、晴れていく。そして、やがてスモーガスを捉えるが、
「スモーガス、噴火!」
カイリューがスモーガスに突撃する直前、スモーガスは大口を開き、燃え盛る爆炎を吐き出した。
噴火の如き勢いで放たれた爆炎はカイリューに直撃。アシッドボムで最大まで特防を下げられたカイリューは、日照りで強化された噴火の直撃を受けて吹き飛ばされる。全身が真っ黒に焼け焦げ、完全に戦闘不能だ。
「……!」
イリゼは今の攻撃に目を見開く。普通に見れば、ただスモーガスがカイリューを迎撃しただけのことだ。日照りによる強化や、アシッドボムの特防下降も、イリゼは理解している。だがそれでも、今の攻撃はイリゼにとっては普通の攻撃とは違って見えたらしい。
(今の攻撃……まっすぐだったな)
軌道の話ではない。もっとも抽象的なことだ。
(性格が歪んでるとか、外道とか邪道とか性悪とか色々聞いてたし、野郎自身もそう言ってたが、なんだよ、そういうまっすぐなとこもあるじゃねぇか)
ここで、イリゼは笑った。勝ち気で好戦的な笑みだが、それは勝負を純粋に楽しんでいるようにも見えた。
「楽しくなってきやがったぜ。こんな楽しくバトルできるなら、三対三じゃなくて、六対六のフルバトルでやりたかったもんだ」
イリゼは迷わず次のボール手に取り、構えた。
「ただ、ここで本気を出すのが惜しいな。このままじゃ、俺の完封になっちまう」
少しだけ表情を曇らせるイリゼ。ここでエースを出せば勝てるのだが、それはほとんど完封勝利となってしまう。折角楽しいバトルになってきたというのに、一方的なワンサイドゲームでは、つまらない。
しかし、それでも、相手の全力に対しては、こちらも全力で相手をする。それが礼儀というものだ。全力でバトルを楽しみたいというのなら、尚更である。
「……なぁ、お前。名前なんつったっけ?」
「あぁ? 聞いてないのかよ……前代英雄ってのも呆れたもんだ。アシドだよ、7Pのアシド。つっても、7Pとしての名前だがな」
「じゃあ本名があるのか。それは何ていうんだ?」
「…………」
バトルの最中にも関わらず、そんなことを尋ねてくるイリゼに困惑するアシドだが、非常に小さな声で、イリゼにだけ聞こえるような声で、アシドは真の名を言う。孤独になってからは、一度も呼ばれなかった名を。
「——だ」
「そうか。いい名前じゃねぇか、気に入った。またバトルしようぜ。お前とは、トレーナーとしてちゃんと戦いたい」
「ざけんな。僕は研究者だ。バトルは本業じゃねぇんだよ」
とは言うものの、アシドはまんざらでもないというような表情をしていた。
「……ほら、御託ばっか並べてねえで、さっさと次のポケモンを出せよ。まさかここに来て、僕に負けるのが怖くなったとか言うなよ?」
「たりめーだ。むしろ、今ならお前に負けてもいいかもしれねえって思ったとこだ。それでも、勝つのは俺だがな」
ボールを握り締め、イリゼは最後のポケモンを繰り出す。
「ぶちかませ! ヒードラン!」