二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 535章 三日月 ( No.785 )
日時: 2013/03/22 00:49
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: H6B.1Ttr)
参照: http://www40.atwiki.jp/altair0/pages/308.html

 フォレスは他の7Pと違い、元々はただの下っ端だった。
 だが彼は、一人の女性を見て、決意した。その決意と覚悟があったからこそ、7Pという地位まで上り詰めることが出来たのだ。
 7Pは総じて家族がいない。それは離別したり、捨てられたり、元からいなかったりと様々だが、フォレスもその例に漏れず、プラズマ団に入る時には家族と別れていた。
 理由は、恐らく7Pの中で最もくだらないと言われるだろう。単なる家出だ。反抗期に家を飛び出したという、実に人間らしい理由だ。
 彼はそのまま無法者の街へと住み着き、なんでもない毎日を過ごしていた。そう、彼女を拾うまでは。
 彼女は捨て子だった。普通なら、その街で赤子なんてものは枷にしかならないし、彼もそれは分かっていたのだが、見て見ぬ振りは出来なかった。
 彼女は足の病気を患っていたようだ。捨てられた理由もそれだろう。
 だが彼は、彼女を捨てなかった。雑で不器用な彼だったが、彼女は彼女なりに育まれ、成長していった。
 それからというもの、フォレスの生活は豊かになっていった。一人増えるだけで、毎日は大きく変わる。彼は彼なりに、毎日を楽しんでいた。
 だが、その日々に亀裂が入る日が訪れる。
 プラズマ団なる組織が、街に侵入してきた。なんでも組織の戦力として、街の者たちを引き入れようというのだ。
 確かにこの街なら、大量の人間が失踪したとしても、世間的には何ともないだろう。この街を狙った理由には納得したが、同時にふざけるなとも思った。
 街の者は結託し、プラズマ団なる組織と戦うこととなった。フォレスは彼女が見つからないように隠し、プラズマ団に立ち向かった。
 だが、結果としてフォレスたちは敗北し、プラズマ団に取り込まれてしまった。
 それはからは、なんということのない日々だ。まだ本格始動はしていないようだが、プラズマ団の掲げる思想というものは理解できない。そのために働くなんて、馬鹿げている。
 そんな風に思っていた時に出会ったのが、あの人だった。
 後に7Pと呼ばれるようになった女性、レイ。
 最初に出会った時、彼女はまだその素性を明かしていなかった。ただの幹部に近い立ち位置だとしか、フォレスも認識していなかったし、彼女に対して特別な思いなどはみじんもなかった。
 けれど、

(あの目……)

 まるで世界に絶望したかのような、世を捨てたかのような冷たい眼差しを見て、フォレスはいてもたってもいられなくなった。
 最初に思ったのは、彼女がなぜあのような目をしているのか。彼はその理由を調べるべく東奔西走し、最終的にプラズマ団で最も忌み嫌われている科学者の所へと向かった。
 会ってみれば思ったほど悪い人間ではなかったが、それはさておき。フォレスは科学者から、レイの過去を知った。その瞬間、納得し、理解する。あの目の理由を、嫌でも思い知らされる。
 それがフォレスの転機だった。彼はとにかく彼女のために、その一心で行動をしていた。そのための手段として、彼はまず、彼女と同じ立ち位置に立とうとした。
 その結果が7Pなどという大仰な位になってしまったことと、別れたはずの幼い彼女と再会したのは予想外だが、それでも彼は、やっとスタートに立ったのだ。
 彼女を幸せにする、などとは言わなくても、せめて、彼女にこの世の幸せを教えたい。この世界は、それほど絶望することばかりではないと知ってほしい。7Pになってから、彼はその一心だった。
 だが英雄たちとの決戦を控えて、彼は悟る。彼女は、自分ではどうしようもないくらいに追い詰められてしまっていることを。自分ではもうどうしようもないことを。そしてもう一つの問題、再会した彼女との関係が曖昧になりつつある事を。
 悩む時には悩むフォレスだが、決心して、覚悟を決めてからはさっぱりしたものだった。あの人については、自分には手が付けられない。だから、あの人が静かに対抗意識を燃やしている英雄側の暴君に任せることにした。彼ならば、もしかしたら彼女が求めている何かになれるかもしれない。
 そしてフォレス自身がなんとかしなくてはならないのは、幼い彼女との関係だ。プラズマ団などという組織が絡んでしまい、歪で、あやふやで、曖昧模糊な関係を、きっちりと正さなくてはならない。
 それが、不器用な自分にできる、精一杯で最大限のことだろうから——



 走馬灯のように流れた記憶を振り払い、フォレスは手にしたボールを雨中へと放り投げる。
「出番だ、アルデッパ!」
 フォレスの最後のポケモンは、水草ポケモン、アルデッパ。
 水生植物のような体を持ち、足は何本もの触手。腕は細いが手が大きく伸びている。何より目を引くのは大きな頭部と、ガバッと開いている大きな口。全体的に怪物のような恐ろしい意匠をしている。
「アルデッパかぁ。マイフィアンセには有利なポケモンだと思うんだけど、今まで出さなかったんだねぇ」
「まあな。こいつじゃなくても倒せるだろうとは思っていたし、なによりお前の最後のポケモンが分からない以上、エースは取っておきたい」
「ふぅん、まあいいけどね。キングドラ、クリアスモッグ」
 キングドラは口先から透明な煙を放つ。が、それはアルデッパへと放たれたものではなく、キングドラ自身を覆った。
「…………」
 フォレスはジッと、その様子を見つめている。
「ふふふ、こうすれば多少ダメージは受けちゃうけど、流星群で下がった能力値も元通りだ。というわけで、一気に決めさせてもらうよ。キングドラ、流星——」
「パワーウィップ」
 キングドラが暗雲にエネルギーを撃ち込むより早く、アルデッパの触手がキングドラを絡め取った。
「引き寄せろ!」
 そして思い切り引っ張り、キングドラはアルデッパの下まで引き寄せられた。
「アルデッパ、噛み砕く!」
 アルデッパは大口を開けて、引き寄せたキングドラに鋭い牙を喰い込ませる。
「パワーウィップ!」
 一度キングドラを解放するが、アルデッパはすぐに触手を叩き込んでキングドラを吹っ飛ばす。木の幹に叩き付けられたキングドラは、戦闘不能となっていた。
「……驚いた」
 ロキはキングドラをボールに戻しつつ、本当に驚いたような声を上げる。
「まさか、マイクイーンがこんなにも簡単にやられるなんて。これは真面目に謝らないと、どうやらボクは、君のことを舐めていたようだ」
 キングドラを戻したボールを仕舞い込むと、迷いなく最後のボールを取り出した。
「さっきはああ言ったけど、君がアルデッパを出した時、ボクはロズレイドを出すつもりだった。相性的にもそっちが有利だからなんだけど、それじゃあダメそうだ」
 取り出したボールを構え、ロキはまっすぐにアルデッパと、フォレスの姿を見据える。
「ここは君に対する礼儀と、ちゃんと勝つために、ボクのエース——マイエンプレスを呼ぶ必要があるみたいだね」
 そしてロキは、手にした最後のボールを、放り投げる。

「さぁ、出て来てくれ、マイエンプレス——クレセリア」

 ロキの最後のポケモンは、三日月ポケモン、クレセリア。
 流線型の体に三日月の衣装を取り入れた姿。脚部がなく、光の粒子を放っているベールのような薄紫色の羽を持つ。尻尾からは伸びるオーロラは長く、グラデーションのように煌めいており、三日月の化身を象徴している。
「伝説のポケモン、クレセリアだと……っ!?」
「まあね、ボクの最愛の人の忘れ形見ってところかな」
 驚愕するフォレスに対し、ロキは静かで、落ち着いていた。いつもの胡散臭い雰囲気はそこにはなく、むしろ神秘的で神々しさすら感じる。
「伝説のポケモンを持っていたのは驚きだが……クレセリアは、雨の中じゃあむしろ不利だろ」
 クレセリアは三日月の化身と呼ばれ、非常に守りの堅いポケモン。その守りの手段の一つには、月の光といった回復技も含まれているので、月と地上の間に雨雲を挟んでいる今、月の光はあまり届かない。
 つまり、不利とまではいかないまでも、雨を軸としたパーティーにクレセリアは合わないと、フォレスは指摘する。しかしロキは、
「いいんだよ、これは元々ボクのポケモンじゃない。だからボクの基本戦術から逸れていてもノープロブレムさ。マイエンプレスっていうのも、実はボクが勝手に言ってるだけだ。それに、彼女は月が隠れていても十分強いんだ。見てみなよ。彼女の光を」
 言ってロキは、クレセリアの尻尾から伸びるオーロラに視線を向ける。長くアーチを描くようなオーロラは、光り輝き、煌めいていた。
「雨が降ろうと風が吹こうと、嵐が巻き起ころうと、彼女はボクにとって、最強の女帝さ。それに、ボクら家族を象徴するものでもある」
「家族……」
 その単語に反応し、復唱するフォレス。何か思うところでもあるのかもしれない。
「ふふ、話が逸れてしまったというか、バトルが止まってしまったね。愛しのエンプレスを戦場に駆り出すのは心苦しいけど、さっきも言ったようにこれがボクの、君に対する敬意だ。全力以上で戦わせてもらうよ」
「……ああ、望むところだ」
 ロキとフォレス、両者のポケモンはそれぞれの相手をジッと見据え、静止したまま動かない。そんな時間が続き——
「クレセリア——!」
「アルデッパ——!」
 ——やがて、その時が動き出す。