二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 536章 親友 ( No.786 )
日時: 2013/03/22 01:03
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: H6B.1Ttr)
参照: http://www40.atwiki.jp/altair0/pages/308.html

 ザキとミキ。セッカ支部を実質的に管理するこの兄妹がプラズマ団と戦う理由は、はっきり言って成り行きのようなものだった。
 そもそもこの二人がプラズマ団と戦う理由。それは、母親を見つけるというものだ。ロキの話によると母親は生きている。今は別の場所に姿をくらませているだけ。
 プラズマ団によって引き離された母親とは、プラズマ団と関わっていけば、その居場所が掴めるかもしれないと思い、今まで彼らは戦ってきた。だが、その必要はもうない。あとは母親を探せば、彼らの目的は達成されるのだ。
 だが一度始めた戦いだ。そんな簡単に投げ出すことは出来ない。だから成り行き、もしくは義理や筋と言ってもいいかもしれない。
「……だからさっさとお前らぶっ飛ばして、母さんを探しに行かねぇとな」
「なんですか? 何か言いましたか?」
「何もねぇよ。ちょっと家族について考えて他だけだ」
 家族、という単語に、レイは眉根を寄せる。非常に不愉快そうな眼差しで、ザキを睨み付けた。
「家族なんて……言ってしまえば他人です。いればいいというものではありません」
「そうかよ。だが俺は、母親を探さなくちゃならねぇんだ。それが俺の役目で、妹や、親友への償いでもある」
 言ってザキは、思い返す。母親を失った後の自分を。セッカの暴君と呼ばれていた時代を——



 ザキは一人、セッカの湿原で黄昏ていた。いや、荒れていたと表現すべきだろう。
 先日、プラズマ団という組織がセッカシティを襲った。まだあまり活動を見せない組織だったが、その時期にしては大規模な活動で、セッカシティを蹂躙していった。
 セッカシティは大きな損害を受け、町のいたる所は壊れたり崩れたりしている。町の住民は、皆その復旧作業に取り掛かっているところだ。
 だがザキはその活動に加わらず、一人でセッカの湿原を訪れている。なぜこの場所なのかというと、静かで誰も来ないからだ。ザキは毎日この場所を訪れては、一人でただぼうっとしている。何もせず、神経だけを尖らせて黄昏ていた。
 プラズマ団による騒ぎが収まった後、ザキは父親であるロキから一つの知らせを聞いた。
 母親は——ユキはプラズマ団との交戦中に、行方不明になったと。
 飄々としてふざけたところのある父親はあまり好いていなかったザキだが、母親は別だった。昔から粗野だったザキも、穏やかで優しい母親に対してだけは態度を軟化させていた。ザキだけではなく、ミキもそんなユキが好きだった。
 しかし、ユキは行方不明。まだ幼いザキとミキにとって、その事実は受け止めがたいものだった。絶望したと言えば簡単だが、実際はもっと様々な感情が、彼らの中には渦巻いていただろう。
 ユキが失踪してから数日。ミキはユキの代わりにと、家事をするようになった。ユキがいないから、代わりに自分が頑張るんだと、幼いながらも立派な振る舞いを見せた。
 対してザキは、荒れた。復旧作業も手伝わずに一人でぼうっとしている彼を諌める者には、容赦なく彼の拳が飛んできた。今の彼からは想像も出来ないだろうが、この頃のザキは、日常的にミキに暴力を振るっていたくらいだ。
 その荒れっぷりはセッカの暴君とまで呼ばれ、この時は誰も彼に近付こうとはしなかった。
 ただ、一人の少年を除いては。

「あれ? 君、こんなところでどうしたの?」

 突然、声をかけられた。もう誰も来ないと思っていたので少々驚き、ザキは後ろを向く。
 そこにいたのは、ザキと同い年ぐらいの少年だ。灰色のショートヘアーで、人の良さそうな凛々しい顔立ちをしている。
「って、よく見れば君、ザキ君じゃないか。僕のこと、覚えてる?」
「……誰だよ、お前」
 見たことがあるような気はするが、思い出せない。
「覚えてないかー。僕はキリハ。小さい頃、君とは家が隣同士だったんだよ。少し前に引っ越したんだけど、またこの町に戻って来たんだ」
 気さくにザキの隣へと腰かける少年、キリハはそのまま話を続けた。
「でも驚いたよ。まさかこの町がこんなことになってるなんて。僕も復旧作業を手伝ってるんだけど——」
「……消えろ」
「ん? なに?」
「邪魔なんだよ、お前。俺のことなんかほっといて、復旧作業でもなんでもして来いよ」
 今は一人にしておいて欲しい。その一心で、ザキは邪険な言葉を吐いた。
 すると、キリハはスクッと立ち上がり、
「うん、そうだね。じゃあ行こうか」
 手を差し出して、そんなことを言うのだった。
「どうしたの? 早く行こうよ」
「……お前、人の話聞いてたか? 俺のことなんてほっとけつってんだよ」
「いやいや、君もセッカシティの住民でしょ? だったら町の復旧作業くらい、手伝わないと。僕らはまだ子供だけど、出来ることだってあるはずだよ」
 どうやら、キリハはザキのことを知らないらしい。セッカの暴君のことを知らないがゆえに、こんなことが言えるのだろう。今や誰も、ザキに復旧作業を手伝えなどと言う者はいない。
「俺は行かねぇ」
「なんで? どこか具合でも悪いの?」
「そういうわけじゃねぇよ」
「だったら行こうよ。今は一刻でも早く町を元に戻さないと」
 キリハの言うことは正論なのだが、ザキとしてはその正論が酷く腹立たしく聞こえた。
「……警告は一回だからな。痛い目見たくなければ、もう俺に関わるな」
「いや、でもさ——」
「警告は一回っつったよな!」
 次の瞬間、ザキの拳が、キリハの顔面に向けて繰り出される——

パシィッ!

 ——が、寸でのところでその腕は掴まれた。
「っ!」
「——暴力はいけないよ、ザキ君。暴力でものを解決するのは、この街を襲ったプラズマ団と同じじゃないのかな?」
 キリハは強くザキの腕を握っている。二人はしばし睨み合ったが、やがてザキがキリハの手を振り払う。そして、立ち上がって踵を返した。
「どこ行くの?」
「帰るんだよ。お前みたいなやつとは、付き合ってらんねぇ」
 そう吐き捨てるように言って、ザキは歩を進めた。後ろからのキリハの声は、すべて無視だ。
 道中で天才などと呼ばれる少女に声をかけられたが、これも無視し、ザキはまっすぐ家に帰る。
 無言で扉を開くと、そこにはピンク色の髪をした小柄な少女。妹のミキがいた。
「あ……お兄ちゃん、お帰り……」
 ビクビクと、怯えたようにザキを見上げるミキ。ザキは睨むように彼女を一瞥すると、自室へと向かった。
「あ、あの。ご飯、出来てるよ……」
「いらねぇ」
 バタンッ、と拒絶するかのように強く扉を閉める。それっきり、ミキの声は聞こえなくなった。
(なんなんだ、あの野郎は……!)
 湿原で出会った少年の顔を思い浮かべ、腹立たしく思いながら、ザキはベッドに体をうずめた。

 翌日。ザキは湿原でキリハと出会い、復旧作業に誘われた。
 さらに翌日、家の前にキリハが待ち構えており、復旧作業に誘われた。
 そのさらに翌日、キリハがザキの家を訪ね部屋の中まで入られ、復旧作業に誘われた。
 そしてさらにまたその翌日。
「いい加減にしろよお前!」
 セッカに湿原にて、ザキはキリハを怒鳴りつけていた。
「なんでそんなにしつこく俺に付きまとうんだよ!」
「だって、ザキ君がなかなか復旧作業を手伝ってくれないから」
「俺はそんなもんには加わらねぇ! 何度も言っただろうが!」
「なんで?」
「なんでって、そりゃぁ……」
 しかし、言葉が続かなかった。だがキリハは、質問を押してくる。
「君が参加しない理由は聞いてないよ。それを聞かないと、僕も納得できないなあ」
「……なんだっていいだろ、んなもん」
 吐き捨てるようにザキは言う。それに対してキリハは、言葉を返す。
「良くないよ。何も言わないのは、復旧作業を手伝わないことにしてもそうだし——君についてもそうだ」
「あ?」
 予想外の言葉に、ザキは呆けたように口を開く。
「君は、何かを一人で抱えているよね。復旧作業を手伝ってくれないのも、それが理由かな。聞けば君、ここ何週間か、ずっとこの湿原に一人でいるみたいじゃないか。一人いつまでも抱えていられるのならいいけど、話を聞く限り、そういうものじゃなさそうだね」
「……お前には関係ない」
 キリハの言葉に対して、ザキは反論できなかった。だからせめてもの抵抗として、拒絶の意志を表す。
 だが、キリハはそんな拒絶をものともしなかった。
「そうだね、関係ないよ。でも、君が話してくれればそれは僕に関係のある話になる。君の力になりたい、なんて流石に人が良すぎるけど、僕は君のことが知りたいんだよ、きっと」
「……!」
 その言葉に胸を打たれた、などと表現するほどザキは乙女チックではないだろう。だがそんなキリハの言葉が、彼を変える契機になったのは確かだ。
 ザキはしばらく黙り込み、そして、
「……ムカつく野郎だ。分かったよ! そんなに知りたきゃ教えてやる!」 
 自棄になったかのように、キリハに自分の全てを話す。自分のこと、妹のこと、父親のこと——そして、母親のことも、全部。
 キリハは滅茶苦茶で支離滅裂で荒唐無稽なザキの言葉を、黙って聞いていた。



 その日、ザキとキリハは湿原で一夜を過ごした。話の内容は、他愛もないことばかり。どうでもいいことばかりだ。
 だが、この一夜が、セッカから一人の暴君を変える出来事となった。それを知る者は、その場にいた二人だけだ——