二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re537章 研究者 ( No.787 )
- 日時: 2013/03/22 15:34
- 名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: H6B.1Ttr)
- 参照: http://www40.atwiki.jp/altair0/pages/308.html
イリゼの最後のポケモンは、火口ポケモン、ヒードラン
トカゲのような姿に溶岩を思わせる体色と特徴的な斑点模様。体の各所には、溶けているものもあるが金属的な装甲がいくつも見て取れる。
「ヒードラン……!」
アシドはイリゼの最後のポケモンを見て、眉根を寄せた。
「ああ、悪ぃな。本来ならガンガン殴り合いたいところだが、スモーガスの攻撃はヒードランには届かねぇぜ」
ヒードランは炎と鋼の複合タイプ。加えて特性は貰い火だ。そのため、スモーガスの覚えているアシッドボム、毒煙幕、噴火……この三つの技は、ヒードランには完全に無力化されてしまう。
「ケヒャハハハ……こりゃあ詰んだな。ま、前代英雄のエースがお披露目になっただけでもいいとすっか」
いつもよりも力なく笑い、アシドは諦めたように肩を竦める。
「にしても、流石に驚いたぜ。まさか伝説のポケモンを持ってやがるとはな……本来なら日本晴れで噴火を強化するつもりだったのに、この様だしよ。結局、僕は最弱のままってわけか」
「そう自分を卑下すんな。お前は十分強いっつってんだろ。三対三じゃなければ、もっといいバトルができたかもしれねぇぜ」
「どうだか」
攻撃手段がなくなってしまったスモーガスも目を瞑り、降参と言いたげな様子だ。
「……無抵抗の奴を攻撃するのも気が引けるが、しゃーねぇ。ヒードラン、マグマストーム!」
ヒードランは溶岩の嵐を放ち、スモーガスを閉じ込める。
「マグマアクセル!」
そして今度は灼熱の炎を身に纏って、高速で動き回り、スモーガスに突撃。スモーガスはマグマストームの継続ダメージを受けながら、壁に叩き付けられた。
「スターダスト!」
直後、虚空から何発もの鋼鉄の隕石が降り注ぐ。マグマストームに拘束され、まともに動けないスモーガスは、全弾漏らさず直撃を喰らった。
「ソーラービームだ!」
砂煙が舞い、それを突き抜けてスモーガスを狙い撃つのは、太陽の光を吸収した光線。効果は四分の一だが、ヒードランの特攻が高いため、ダメージはそこそこ。
「マグマアクセル!」
炎を纏い、ヒードランは室内を縦横無尽に動き回りながらスモーガスに突撃。四方八方からスモーガスを襲う。
そんな状態のスモーガスを見て——いや見ずに、アシドは部屋の奥、一つの机へと歩を進めた。
かなり散らかっている机上をがさごそと探り、一つの球体を掴む。それを白衣のポケットに押し込んで、踵を返した。
「ヒードラン、マグマストーム!」
アシドが戻った時には、決着が着いていた。
煮え滾る灼熱の溶岩の嵐を受け、スモーガスは吹き飛ばされる。
地面落下したスモーガスは、戦闘不能となっていた。
「……実験失敗。戻れスモーガス」
アシドはスモーガスをボールに戻し、そのボールを白衣のポケットに押し込んだ。
「あーあ、負けちまった。もうこりゃ、僕はプラズマ団にいられねーなー」
わざとらしく、アシドは大きな声でそんな事を言う。イリゼはヒードランをボールに戻しながら、それを聞いていた。
「それに、どうせキュレムを復活させようとさせまいと、英雄が止めちまうんだろ? なぁ、前代英雄」
「……そうだな。俺の息子が、なんとかするはずだぜ」
「ならいいんだ……出て来い、ジバコイル」
アシドは白衣のポケットから違うボールを掴み、ジバコイルを出した。そしてどこからか鉄の棒を二本取り出すと、磁力でそれをジバコイルへと取り付ける。三対三のバトルにしたのは、ジバコイルに乗って消えるためだったようだ。
「……お前は、僕のこと捕まえたりしねえのか?」
ジバコイルに乗ると、振り向き様にアシドはそんなことを言った。意イリゼはそれに対して首を縦に振り、
「あぁ。お前が国際警察に捕まったら、再戦できなくなっちまうだろ? それにお前のことだ。どうせ逃げ切る算段でも立ててんじゃねぇのか?」
「初対面だってのに、全部お見通しかよ……流石は真実の英雄だ。前代でもその力は健在ってか」
呆れたように溜息を吐くアシド。彼は一旦イリゼから視線を外し、目の前の壁を見据える。
「……ジバコイル、ロックオン」
そうジバコイルに指示を出し、ジバコイルも壁の一点に狙いを定める。そして、
「電磁砲」
直後、研究所の壁が吹き飛んだ。
ロックオンで壁の最も脆い部分に狙いを定め、その一点に向けて最大火力の電磁砲を撃ち込む。その一連の動作で、研究所の壁は跡形もなく崩れ去ってしまった。
「そんじゃー僕はもう行くけどよ、一つ、お願いしてもいいか?」
「……? なんだ?」
いつもは命令口調のアシドが、お願いと言うのだ。よっぽどのことなのだろうと思い、イリゼは問い返す。
「キュレムの封印は絶対に解くな。あいつが復活したら、冗談抜きで世界は終わるぞ」
至極真面目な眼差しを、アシドはイリゼに向ける。
「僕もプラズマ団だった頃は、キュレム復活のために色々なことをしたさ。キュレムっつー存在も、僕にとってはいい研究対象だったしな。だが、あいつの存在はマジでやばい。地上最強のドラゴンポケモンっつー肩書は伊達じゃねぇ。あんなのがゲーチスに利用された日には、世界なんて三日で征服されちまう」
「…………」
いつになく真剣で、どこか必死さを漂わせるアシドの言葉を、イリゼは黙って聞いている。
「正直、僕は世界を一度征服した方が、どんなものでも研究しやすいと考えていた。けどな、最近気付いたんだ。誰にも支配されていないからこそ、この世界は面白いし、研究のし甲斐もあるってな」
だから、とアシドは繋げ、
「絶対にキュレムの復活を止めろ。そうすれば、再戦でもなんでも受けてやる。だから頼む、前代英雄——いや、イリゼ」
まっすぐにイリゼを見つめるアシドに対し、イリゼは、
「……んなこと、言われるまでもなく分かってるっつーの。キュレムの復活は止める。絶対だ」
と、返した。
その返しに、アシドはいつものように笑う。
「ケヒャハハハ! それは良かった。ま、お前や英雄なら止められるんだろうが、念のためだ。こいつを持ってけ」
アシドは白衣のポケットから、机にあった球状の物体を取り出してイリゼに投げ渡す。イリゼはパシッとそれをキャッチし、
「っ!?」
刹那、その顔が驚愕の表情へと変わる。
「な、なんでお前がこんなもん持ってんだよ……」
「ケヒャハハハ! 言ったろ、僕はグレイトでジーニアスな科学者だってよ。設計図と材料があれば大抵のものは作れら。シルフカンパニーのデータをハッキングして、なんかあった時のために作っといたんだが、こんな場面で使う可能性が出て来るとはな。ケヒャハハハ!」
驚くイリゼに対して、愉快そうに笑うアシド。いつもの調子が出て来たのだろうか。
「ま、それは保険みてーなもんだ。使わずに済むならそれでいい。じゃぁな、前代英雄」
そう言って、アシドはジバコイルと共に研究所から飛び出してしまった。恐らく空中都市から——いや、ひょっとするとイッシュからも出て行ってしまうつもりなのかもしれない。
「キュレムの復活を止める、か……任されたぜ」
イリゼは渡された球体をポケットの中に押し込み、踵を返す。
英雄としての役目は終わったと思っていた。だが、まだ続けられることがある。なら、最後まで続けるべきだ。
そう思いながら、イリゼは研究所から出た。多くの戦いが巻き起こり、殺伐とした空中都市だが、空には平和な青空が広がっている。
「にしても、研究者か……ああいうのも、面白そうだな」
今から別の道を歩むのもいいかもしれねぇ、とイリゼは小さく呟いた。