二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 544章 同種 ( No.798 )
日時: 2013/03/24 13:02
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: H6B.1Ttr)
参照: http://www40.atwiki.jp/altair0/pages/308.html

 プラズマ団随一の実力を持つドラゴン使い、ドラン。
 ムントはそんなドランと直に戦って、彼の正体を薄々感づいていた。
 そして彼の強さ、ドラゴン使いとしての強さも理解した。
 ドラゴンタイプとは、他のタイプと一線を画すタイプだ。普通のポケモンでは感じられない何かも、ドラゴンタイプのポケモンを通じれば感じることもできる。逆に、ドラゴンタイプのポケモンを通じないと感じないこともある。
 ムントは決してドラゴンタイプ一辺倒の使い手ではないのだが、それでもソウリュウシティの生まれということもあり、ドラゴンタイプのポケモンを好いてはいた。彼のエースがドラゴンタイプのオノノクスであることから、それは伺えるだろう。
 ムントは一度、ドランに敗北した。完全な敗北だ。ドランが誇るドラゴンポケモン、彼の手持ちにおける最強の龍、ドラドーン。その圧倒的な力に、全く歯が立たなかったた。
 ドランが自分の力そのものと言うだけあり、彼のドラドーンは強い。7Pにはエースだけがずば抜けて強いタイプが何人かいるのだが、その中でもドランは、その最上級に位置するかもしれない。
 だが逆に言えば、そのドラドーンさえ倒せれば、ムントにも勝機が見えるということ。そしてドラドーンを倒せる可能性があるポケモンといったら、ムントの手持ちには一体しかいない。
 そう、オノノクスだ。
 だからムントは、オノノクスを徹底的に強化することにした。とはいえ彼のオノノクスは、ソウリュウのジムリーダーにも負けない、このイッシュ地方の中だけでもトップクラスの実力を誇るオノノクスだ。その相手を務められるポケモン、それもドラゴンタイプのポケモンは、そういないだろう。
 だがそんな折、ムントはこんな話を聞いた。

 それは、黒いオノノクスというポケモンの話だった。

 この世界のどこかには、黒いオノノクスがいる。かつて龍の里と呼ばれた場所で、最強の名をほしいままにした漆黒の龍。この世界に存在するオノノクスの中では、最強の個体がいる、と。
 今は、その強さを我が物にしようとするトレーナーや、通常個体とは色が違うということで物珍しさに手に入れようとするコレクターの手から逃れるべく、どこか遠い場所で保護されているらしい。
 ムントが目を付けたのは、そのオノノクスだ。
 色が黒いなどというのはどうでもよかった——どうでもよいまではないにしろ、この際あまり関係なかった。重要なのは、最強、という点だ。
 つまり、その黒いオノノクスをムントのオノノクスが倒せば、最強はムントのオノノクスということになる。
 それから彼は、黒いオノノクスの所在を調べ尽くした。かなり綿密に、巧妙に隠蔽されていたが、最終的にはその居場所を突き止めることが出来た。

 黒いオノノクスの所在、それは——自然保護区という場所だった。



 本来、自然保護区はイッシュ地方のポケモンを全て捕まえ、ポケモンを捕獲するとはどういうことか、ポケモンとはどういうものかを理解したものでなければ入れない。そして、今までその偉業を達成したものはごく僅かで、その僅かなトレーナーは、結局黒いオノノクスを捕まえることはなかった。
 ムントはポケモン図鑑などを持ってはいないので、ポケモンの登録など行っていない。そして当然ながら、イッシュのポケモンを全て捕まえてなどいないし、今から捕まえる気もさらさらない。
 そんな彼がどうやって自然保護区に入ったのかというと、フキヨセのジムリーダーや、カノコタウンのアララギ博士に頼み込んで、特別に入れてもらっただけだ。最初は突っぱねられたが、アララギ博士(父)の発言によって、最終的には入ることが出来た。
「ここが、自然保護区か……」
 自然保護区というだけあって、人工の手はほとんど入っていない。中は文字通り自然が守られていて、多数のポケモンが見て取れる。
 それらのポケモンと、生い茂った草をかき分け、ムントは自然保護区の奥地を目指す。入り組んだ深い森の最深部に、ムントの探し求めるポケモンがいるはずだ。
 そして、どのくらい歩いたか分からなくなってきた頃、森の中心にして最深部。その場所だけ樹木がなく、草の背も低い。そんな開けた空間の中央に、それはいた。
 顎斧ポケモン、オノノクス。
 二足歩行で、細身かつ長身の体躯は鎧のような頑強な鱗で覆われている。牙は両刃の斧状であり、その鋭さを誇示するかのように鈍く煌めく。
 そしてなにより、黒い。牙や腹が黒いのは元からだが、それ以外の箇所を防護する強固な鱗は漆黒に染め上げられていた。牙の刃と、両手両足の爪だけが赤く輝いている。
「…………」
 見るだけで分かる、この黒いオノノクスの強さ。気迫というよりは、雰囲気。強者の空気感がひしひしと伝わってくる。もしかしたら、ドランのドラドーンと同等の強さかもしれない。
(……臆するな。こいつを倒すため、そしてあいつを倒すために、ここまで来たんだ)
 ムントはボールを握り締める。そして、目の前に鎮座する龍と同種の龍。自分の絶対的なエースを、その場に顕現させる——

「行くぞ……オノノクス!」



「オノノクス、ドラゴンクロー!」
 オノノクスの爪がドラドーンに喰い込む。落下の勢いを合わせたドラゴンクローほど威力は出ないが、それでも確実にドラドーンの体力を削っているはずだ。
「ドラドーン、アイスバーン!」
 対するドラドーンは氷の衝撃波を放ち、オノノクスを引き剥がす。巨体で浮いているがゆえにこのフィールドでは有利なドラドーンだが、巨体過ぎてまったく小回りが利かないので、その点ではオノノクスに劣ってしまっている。
「オノノクス、龍の舞!」
 オノノクスは着地すると龍の舞を踊り、さらに攻撃力と素早さを浄書させる。これで通常の三倍だ。
「ドラゴンクローだ!」
「ハリケーンだよ!」
 そのままオノノクスは龍の爪でドラドーンを切り裂こうとするが、直前にドラドーンが猛烈な突風を放ち、攻撃は失敗に終わる。オノノクスは吹き飛ばされまいと、必死で踏ん張っていた。
「ハイドロポンプ!」
「瓦割りだ!」
 続けてドラドーンは莫大な水量の水流を噴射するが、オノノクスは構えた手刀でこれを断ち切る。
「ドラゴンクロー!」
 そしてオノノクスは跳躍し、オノノクスを引き裂く。流石に三倍まで膨れ上がるとそれなりに効くようで、ドラドーンは顔を歪めて後退した。
「強いね、ムント君。まるでいつかの黒い龍みたいだ……だったら、これはどうかな!? ドラドーン、ハイドロポンプ!」
 ドラドーンは再び大量の水を噴射するが、それはオノノクスを狙ったものではない。オノノクスにも飛沫はかかるが、その水流は、塔の最上階というオノノクスの唯一の足場に向けて放射されたものだった。
「っ! まさか——!」
「そのまさかだよ! ドラドーン、アイスバーン!」
 ドラドーンは高度を落とし、氷の衝撃波を放つ。この衝撃波もオノノクス自身に当てるものではなく、フィールド——オノノクスの生命線とも言える足場に向けて放たれている。
 最初にハイドロポンプを受けて濡れた足場に、氷の衝撃波が直撃すればどうなる。この答えは子供でも分かる。そう、
「足場が、凍った……!」
 ムントが嘆くように声を漏らす。
 オノノクスはドラドーンと違い、空を飛べない。ゆえにこの唯一の足場を飛んだり跳ねたりしながらドラドーンに向かっていき、攻撃してきた。攻撃するにも攻撃を防御するにも、この足場はなくてはならないものだ。
 だがその足場が凍りつけばどうなるか。それは、ドラドーンが証明する。
「ドラドーン、ハリケーン!」
 直後、ドラドーンは激しい嵐を吹き荒ぶ。吹き荒れる暴風はオノノクスに襲い掛かり、オノノクスはなんとか踏ん張ろうとするが、地面は凍りついてしまい、踏ん張りが利かない。
 ずるずると後退していくオノノクス。柵も何もない塔の縁まで押された、その時。

 オノノクスは吹き飛ばされ、中空に投げ出された。

「オノノクス——」
 相当高い塔だ。この高さから落下すればただでは済まないだろう。それ以前に、ここから落ちればもうバトルは続行不可能。一対一の勝負ならば、ドランの勝ちが確定する。
 オノノクスは空を飛ぶことができない。ゆえに、空中に投げ出されれば、もう戻ることは出来ない——かに思われた。
 が、しかし、
「——龍の舞!」
 オノノクスは、まだ生きている。
 ガリガリと塔の外壁を削るように足の爪を喰い込ませ、落下の速度を減速させる。そしてそのまま外壁の周りを足場にして、龍の舞を舞いながら、外壁を走り抜けた。
 ダンッ、と最後の一蹴りでオノノクスは外壁から離れ、塔の最上階へと着地する。つまり、塔から吹き飛ばされたオノノクスは外壁を上って、復帰することに成功した。
「…………」
 流石のドランも、言葉が出なかった。フードで完全に顔が隠れているので表情は分からないが、恐らく唖然としているのだろう。
「……驚いたよ。まさか、あんな状態でも戻って来るなんて」
 声が上ずっている。それほどまでに驚いたのだろうか。
「……やっぱり、ドランを解放してくるのは、君しかいないみたいだね、ムント君——」
 ドランは追想する。自分がまだ、人の姿を保っていなかった時のことを——