二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 547章 箍 ( No.801 )
- 日時: 2013/03/29 04:33
- 名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: H6B.1Ttr)
- 参照: http://www40.atwiki.jp/altair0/pages/308.html
7Pエレクトロは、テロリストであり記憶喪失者だ。
より詳細に記すなら、彼はテロリストであり、逃亡中に海難事故に見舞われて記憶を喪失した。
彼は自分の目的というものを明確にはもたず、だからこそ純粋にゲーチスの意向に賛同している。もっとも、記憶を失う前はテロリストだったことを考えれば、世界を支配しようとするゲーチスと根本的に通ずるところがあったのかもしれないが。
なにはともあれ、彼は難破した船から投げ出され、運良く命は助かったものの、記憶を失ってしまった。
見知らぬ地で、自分の名前も素性も分からない。人間は得体の知れないものを恐れる生き物だ。記憶がないという事態は、彼を酷く困惑させた。
たった一人で、思い返すものもなく孤独に生き延びた彼だったが、やがて限界が訪れた。
ただでさえ右も左も分からない、その時を生きるだけで精一杯という状況で、記憶喪失という事実は彼の身も心も憔悴させ、衰弱させていった。
心身ともに限界を迎えた彼は、人知れず潰れかけていた。精神が崩壊するのが先か、肉体が力尽きるのが先か。彼はそんな状態で終わりを迎えそうになった時、あの男と出会った。
それが、プラズマ団の頭領、ゲーチスだ。
ゲーチスは彼を自分の組織に勧誘したいのだと言う。孤独のまま一生を終えかけていた彼は、迷わずその申し出を受けた。それが、彼が生き残るための唯一の術なのだから。
その後エレクトロという名を与えられ、プラズマ団の上位に着いた彼は、7Pなる幹部的な者たちのまとめ役となった。彼には人の上に立つ器と、大衆を統率するだけの手腕があったのだろう。
プラズマ団としての行動に異議を唱えず、かといって言われるがままに従事するわけでもなく、その場に適した対応、判断を下し、時には仲間を退かせ、時には敵を討つ。プラズマ団でなくとも、組織に属する者としては八面六臂の活躍を見せた。
そんな彼が着目したのは、プラズマ団の対抗勢力となる組織。その中でも指折りの実力者である一人の少女だった。
正確に言えば彼女ではなく、彼女の有するポケモン。その炎に目を奪われた。目を奪われたというよりは、何かを思い出させるような感覚を抱いた。
すべてを焼き焦がす紫色の炎。同時に網膜に映し出されるのは、炎上する都市。これが、記憶を失う前の自分を思い出させる鍵となるだろうと、彼は理解した。
あの炎から、昔の自分が取り戻せるかもしれない。一度は失った記憶を再び蘇らせることかもしれない。そんな淡い希望を持ち、彼は、英雄たちとの戦いに身を投じるのだった——
プツン
と、エレクトロの中で、何かが切れるような音がした。
それと同時に、カチリ、という何かが繋がったような音もした。
「……ふふふ」
腕をだらんと垂らし、姿勢も若干前屈みとなって、頭を下げる。いつもは理性的で理知的なエレクトロだが、今の彼から感じられるのは獰猛な獣のような気配だった。
「そう、そうですか……そうでしたね。ええ、そうでしたとも」
「な、なに……なんか、怖い……」
ゆらゆらと体を揺らし始めたエレクトロを見て、リオは恐怖心を煽られ、数歩後ろに下がった。
「そうです、遠慮することなどありません。加減する必要などありません。私はいつも、そうやってきたではないですか。目的のために、あらゆるものを破壊してきたではないですか」
奇妙な姿勢と動きのまま、エレクトロはトロピウスをボールに戻し、次のボールを取り出す。エレクトロの最後のポケモンが内包されたボールだ。
「全て壊してしまいましょう、燃やし尽くしてしまいましょう……まずは、貴女からです」
そう言ってリオを見据え、エレクトロは手にしたボールから、最後のポケモンを繰り出す。
「終焉の時です、ドルマイン!」
エレクトロの最後のポケモン、ボールポケモン、ドルマイン。
マスターボールに酷似した球状の体を持つポケモン。球を囲む鋭い刃が連なり、円錐状の二本の突起と、稲妻型の一本の突起がある。
「ドルマイン、まずは邪魔なものを片付けましょう。マインブラスト!」
ドルマインは周囲に地雷の如き爆発を連続して引き起こす。爆発によって散乱しているテーブルや椅子は吹き飛び、粉々に粉砕され、爆炎で燃え尽き、ほとんどのテーブルと椅子は原型がなくなるほどに破壊された。
「なんなの、どうしたの、一体……!?」
急に変貌してしまったエレクトロに狼狽するリオ。エレクトロから感じるのは静かな闘志ではなく、破壊の衝動と獰猛な威圧感だけだった。
エレクトロはテーブルと椅子を破壊し終え、視線をうろたえるリオにへと向ける。次はお前だと言わんばかりに、狂った眼差しでリオを見つめている。
「……ドルマイン、雷です!」
直後、ドルマインは轟く稲妻を放つ。稲妻は一直線にドラドーンへと向かっていき、その身を貫いた。
「っ、ドラドーン!?」
その一撃でドラドーンは地に落ち、戦闘不能となる。
「まさか、ドラドーンが一撃なんて……」
リオは呟きつつドラドーンをボールに戻し、最後のボールを手に取った。
「最後は任せたよ、シャンデラ!」
リオの最後のポケモンは、誘いポケモン、シャンデラ。
紫色の炎を灯したシャンデリアのような姿のポケモンだ。
「何が来ようと、全て壊すだけですよ。雷!」
「シャンデラ、大文字!」
ドルマインは頭頂部にある稲妻型の突起から激しい雷を放つ。シャンデラも咄嗟に大の字の炎を放ち、雷を相殺した。
(何があったの、この人。バトルになったり、追い詰められたりすると人が変わるトレーナーは確かに存在するけど、この人のはそれとは何か違う気がする。そう)
タガが外れたみたい。
と、リオは胸中で呟いた。
エレクトロの豹変ぶりに、いつもの冷静さを取り戻せないでいるリオ。だがエレクトロはそんなリオには構わず、攻撃を続ける。
「アクアボルト!」
ドルマインは電気を帯びた水流を発射する。その水流も、どこか荒々しさを感じた。
「くっ、シャンデラ、サイコキネシス!」
シャンデラは念動力で水流の軌道をずらし、回避する。
「シャドーボム!」
続けて影の爆弾を発射し、ドルマインにぶつけて爆発させる。が、どういうわけかドルマインにはあまり効果がないように見える。
「爆弾の使い方が、なってませんねぇ。その程度の爆発で私を倒せるとでも、思っていたのでしょうか。だとすれば片腹痛い……本当の爆発は、こうやってするものですよ。ドルマイン、マインブラスト!」
次の瞬間、ドルマインの周囲で激しい爆発が連続して発生する。しかも爆発のたびに攻撃範囲はどんどん広がっていき、床を炎上させ、広間を震撼させる。
「なんて威力……部屋を破壊するつもり……?」
「それもいいですが、まずは貴女ですよ。ドルマイン、雷!」
ドルマインは壁のように燃え盛る炎を突き破って激しい稲妻を撃つ。
「シャンデラ、大文字で迎え撃って!」
シャンデラも大の字の炎を放って雷を相殺。
「スタープリズム!」
そして直後、虚空から冷気を内包したガラス球を無数に降らし、ドルマインへと攻撃。それと炎の鎮火を促進させようとするが、
「無駄です! マインブラスト!」
ドルマインが周囲に爆炎を巻き起こし、降り注ぐガラス球は全て溶かされてしまった。鎮火させるはずの炎も、むしろその勢いを増すばかり。
気付けば大広間は炎に飲み込まれていた。崩れかけた壁や天井にも炎が燃え移り、辛うじてリオとエレクトロのいる場所が、まだ炎に包まれていないだけ。それ以外の場所は、ドルマインのマインブラストで火の海と化している。
「ドルマイン、アクアボルト!」
「シャンデラ、サイコキネシス!」
ドルマインが放つ電気を帯びた水流を、シャンデラは念動力で散らす。ただそれだけなのに、やたら気力の消耗が激しい。
(このままじゃシャンデラのスタミナが切れて、ドルマインに嬲られるのが関の山……なんとかしないと)
徐々に冷静さを取り戻してきたリオは、ここから本格的に攻め始める。
「シャンデラ、シャドーボム連発!」
シャンデラは影の爆弾をいくつも生成し、それらを一斉にドルマインに向けて発射する。回避するのも相殺するのも困難なほど大量のシャドーボムが、ドルマインへと襲い掛かるが、
「言いませんでしたか、爆弾の使い方がなっていないと。ドルマイン、磁力線!」
ドルマインが磁力の波を放ち、襲い掛かる影の爆弾を全て破壊してしまう。しかも残った波がそのままシャンデラに直撃し、シャンデラは態勢を崩してしまった。
「アクアボルトです!」
その隙に、ドルマインは電気を帯びた荒々しい水流を発射する。
「しまっ……サイコキネシス!」
水流が直撃する寸前で、シャンデラは念動力を放ち軌道を逸らそうとするが間に合わず、直撃は避けたものの効果抜群の水流を受けてしまう。
「雷!」
シャンデラは態勢を立て直したいのだが、間髪入れずにドルマインの雷が飛ぶ。大文字を放つ余裕がなく、避けるのも難しい状況だ。シャンデラは襲い来る稲妻をかわし切れずに喰らってしまう。
「まだ終わりませんよ。磁力線!」
「サイコキネシス!」
ドルマインの猛攻は止まらず、今度は磁力の波を放ってくるが、今度こそ念動力でそれを打ち消し、シャンデラは態勢を立て直す。
「大文字!」
そして大の字の巨大な炎を放ち、攻撃に出る。しかし、
「ドルマイン、雷です!」
ドルマインは雷を放ち、大文字にぶつけた。だがどういうわけか、その威力が今までの雷よりも遥かに大きい。
結果、ドルマインの稲妻は大の字の炎を突き破り、そのままシャンデラをも貫いた。
効果抜群や大技を連続で喰らってシャンデラの体力もかなり削られている。もう長くはもたないだろう。
「シャンデラ……」
そんなシャンデラの炎が橙色に揺らめいているのに気付くのは、リオだけだった——