二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 548章 覚悟 ( No.804 )
- 日時: 2013/03/26 16:13
- 名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: H6B.1Ttr)
- 参照: http://www40.atwiki.jp/altair0/pages/308.html
シャンデラの炎が橙——鮮やかなオレンジ色に揺らめいている。
この橙の炎はシャンデラの本気の炎。即ち全力の炎だ。しかしリオは、その炎を見て、勇むどころか浮かない顔をする。
(やっぱり、本当の本気を出すしか、ないんだ……)
以前シャンデラが本気の炎を出した時——それは今の7Pの前身、プラズマ団7幹部のトップと戦っている時だった。
あの時は途中でアクシデントがあり、バトルは流れたようなものだったが——それを差し引いたとしても、当時のシャンデラはまだ本気とは言えなかった。
(いや、シャンデラは本気なんだろうけど、なんだろう……どうしてもフルパワーが出ない感じがする)
胸中で呟きながら、リオはエレクトロを見遣る。タガが外れたように、急に攻撃的になったエレクトロ。今までは全力が出せない、八割だと九割だのと言っていたが、今の彼は確実に十割以上の力を叩き出している。
それが彼の豹変ぶりと関わる事なのかは分からないが、それでも向こうは全力以上なのに、こちらは全力が出せないというのは、苦しい。戦況的にも、トレーナーとしても、全力で戦いたい。
なのに、シャンデラの火力は最大まで達していない。もっと大きな炎が出せるはずなのに。
「……考えてもしょうがないか。今は、今の全力でやるしかない。シャンデラ、大文字!」
シャンデラは大の字の巨大な炎を放つ。回避も相殺も困難に思えるほどの火力で迫る炎だ。
「ドルマイン、雷です!」
なんとドルマインは、頭頂部の突起から放つ稲妻を貫通させ、そのままシャンデラに直撃させた。相殺ではなく貫いただけなので、炎はそのままドルマインを襲う。
「くっ、シャンデラ!」
肉を切らせて骨を断つ——と言うほどではないが、互いの身を削ぐような攻撃。いつものエレクトロなら回避からの反撃か、ドルマインの火力を信じて相殺しようとするだろう。だがそのどちらも取らず、今のエレクトロは確実の自分の攻撃を当てるようにした。ドルマインが攻撃を受けるにもかかわらず、だ。
(攻撃的どころじゃない……こっちを攻撃することが全てみたいなスタイル……!)
そのスタイル自体はさして脅威でもないが、エレクトロとドルマインの気迫が合わさると、どうしても怯んでしまいそうになる。
だがリオはなんとか自身を奮い立たせ、シャンデラに指示を飛ばす。
「シャンデラ、シャドーボム!」
「磁力線!」
シャンデラが放つ影の爆弾は、またしても磁力の波で相殺され、残った波がそのままシャンデラを襲う。効果はいまひとつだが、シャンデラもダメージが溜まってきている。
「スタープリズム!」
シャンデラは虚空から冷気を内包した無数のガラス球を降らせるが、
「ドルマイン、動き回ってマインブラストです! 全て壊しなさい!」
ドルマインはその場で高速回転しながら爆発を起こし、そのまま地面や壁を走り回っていたるところを爆撃していく。その過程でスタープリズムも全て相殺された。
「そうです、この光景、この感触です……すべて思い出しましたよ……!」
理性を失っているのか、血走った眼で炎上し、崩壊しかけている部屋を見回すエレクトロ。もはや別人だ。
「ドルマイン、雷です!」
ドルマインは突起から稲妻を放つ。だがその放ち方は今までとは違い、頭頂部だけでなく両サイドの突起からも、何本もの稲妻を発射する。
放電にも似た攻撃だが、一撃一撃の重さは雷と同等。下手に喰らえば致命傷になってしまう電撃だ。
ここに来て、エレクトロとドルマインの力も上昇している。
「これは、相殺できるかな……シャンデラ、連続で大文字!」
シャンデラは襲い掛かる稲妻に向かって、数発の大文字を重ねながら放つ。大文字は炎の壁となり、稲妻をシャットアウトしたため、最終的にシャンデラに雷は届かなかった。
(けど、あんな攻撃を連発されたらもたない……どうしよう)
必死に思考を巡らせるリオだが、燃え上がった炎による熱気がそれを邪魔し、エレクトロとドルマインは怒涛の攻めで考えることを許してはくれない。
「アクアボルト!」
電気を纏った激流を発射するドルマイン。同時に地面を這う炎が幾分か消えたが、それはドルマインの視界を明瞭にするだけだった。
「とにかく軌道を逸らして、サイコキネシス!」
アクアボルトの軌道を僅かに逸らし、紙一重でかわすシャンデラ。しかし、
「マインブラストです!」
直後、爆発音とともに激しい衝撃波が飛来する。衝撃波はシャンデラへと直撃し、吹っ飛ばされ、壁に叩き付けられた。
「っ!? シャンデラ!」
効果はいまひとつだが、それでも予想以上のダメージだ。ドルマインも消耗しているはずだが、向こうは疲れた様子が伺えない。体力的にも、精神的にもリオとシャンデラが劣勢だった。
弱々しくオレンジ色の炎を揺らめかせ、シャンデラは浮かび上がる。
「まだ起き上がれるのですね……ならばもっと攻めてみましょうか! ドルマイン、磁力線!」
刹那、ドルマインから強力な磁力の波が放たれる。高速かつ不可視の攻撃は、確実にシャンデラを捉えた。
「くぅ、シャンデラ、シャドーボム!」
「磁力線です!」
シャンデラは影の爆弾で反撃するが、またしても磁力線で相殺され、そのまま攻撃される。どうやら、どうあってもシャドーボムはドルマインには通じないようだ。
「ドルマイン、雷です!」
「っ、大文字!」
ドルマインは頭頂部から、溜めに溜めた稲妻を発射する。シャンデラも同時に大の字の炎を放って相殺しようとする、が、
雷は大文字を打ち消し、そのままシャンデラを貫いた。
「……っ! シャンデラ!」
その一撃を喰らって、シャンデラはまた地面に体を着く。オレンジ色に燃える炎も、弱ってきている。
そして何より、シャンデラの大文字が、ドルマインの雷に打ち破られてしまった。
今まで曖昧になっていたが、ここに来てはっきりしてしまった。今のドルマインの火力は、シャンデラを上回る。その事実は、リオに追い打ちをかける。
(どうしよう、このままじゃシャンデラがもたない……でも、どうすればいいの)
焦るリオ。シャンデラは限界寸前で、ドルマインは圧倒的な火力と収まることのない怒涛の攻撃で攻め続けてくる。火力では負け、体力的にも精神的にも押され、打開策は見当たらない。
そんな絶望の淵で、リオは一つの音を聞いた。
(水の、音……?)
雫のような音が、リオの中に響き渡る。その発信源は、首元——赤と水色の毛からだ。
(これって、ケルディオ……?)
“そうだよ”
リオの目の前に、暗いビジョンが浮かぶ。真っ暗な空間に、地面は水面。正面には、若駒ポケモン、ケルディオ。だがその姿は、いつもの姿ではない。
角は青い刃のようになり、赤い鬣も長い。側頭部には青、黄、緑の師の力を受け継いだ印である、三色の毛が立っている。その姿hはまるで、戦いに身を投じる覚悟を決めたかのようであった。
(なんで、ケルディオがここに? ダークトリニティと戦っているんじゃ……)
“そうなんだけど、こっちの心配は必要ないよ。師匠たちと一緒なんだ、負けるはずがない”
非常に強気で自信に満ちたケルディオ。ケルディオは、ゆっくりと口を開いた。
“リオ、まずは落ち着いて。確かに、君が戦っている爆雷の化身は強い。でも、君が本当の力を発揮すれば、必ず勝てるはずだ”
(でも……)
実際、今はドルマインに押され、敗北寸前だ。本当の力とやらも、出せるなら出したい。全力が出せないのであれば、どうしようもないのだ。
“思い出すんだ、リオ。君は今まで一人で戦ってきたわけじゃないだろう。君には仲間がいるはずだ。仲間が戦っているのに、君が弱気になってどうするんだ”
(仲間……)
次の瞬間、暗い空間に次々と人物像が浮かび上がってくる。
英雄としてこの戦いに最も全力を注いでいるイリス。そのイリスに負けまいと幼いながらも奮起するミキ。ミキの兄でかつての自分とも戦っているザキ。現状の主戦力となるPDO年長者として皆をサポートするキリハ。そして、リオと共に戦い続ける、アキラ。
それぞれ、違う夢を持ちながらも一つの目標向かって戦う仲間。全員が皆の思いを背負って、戦っている。
“そうだよ、リオ。だから君も負けるわけにはいかない。そうだろう? 誰にも負けないトレーナーに、なるんでしょ?”
ケルディオの言葉と、その思い。イッシュを救うという願いが、リオの中で染み渡る。
(……そうだったね)
リオは静かに目を閉じた。
(私はトレーナーとして、あの人には負けない。それと、まだあの人が悪い人なのかは分かんないけど、悪いプラズマ団は捕まえる。そのためには、やっぱり負けられない)
“そうだよ、それでこそリオだ。それじゃあ、僕はもう行くよ。師匠たちにばかり、戦わせてはいられないからね”
(うん、ありがとう、ケルディオ。貴方のお陰で、自分のこと、ちゃんと自覚できた)
お互い、絶対に勝つという言葉のない約束を交わし、暗い空間は晴れていく。
(もう負けない。あの人にも、プラズマ団にも、そして——自分自身にも!)
絶対に負けない。たったそれだけの信念を持って、リオは再び戦いに臨む。
(覚悟は、出来た——!)