二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 551章 共存 ( No.807 )
- 日時: 2013/03/27 04:19
- 名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: H6B.1Ttr)
- 参照: http://www40.atwiki.jp/altair0/pages/308.html
「クレセリア、サイコキネシス」
「アルデッパ、自然の力!」
クレセリアは最大まで研ぎ澄ませた念動力を放つ。
アルデッパは大自然から無数の葉っぱによる嵐を放つ。
双方の攻撃は激しくぶつかり合う。この一撃で勝者は決まる。この競り合いを制した方が勝利する。
しかし、結果は淡泊でなものだった。
アルデッパの自然の力は、クレセリアのサイコキネシスに突き破られた。
瞑想を四回使用しているクレセリアに対し、アルデッパは成長一回。いくらアルデッパの素の特攻がクレセリアに勝っているとはいえ、能力の変動で大差がついてしまっている。
リーフストームは消し飛び、念動力がアルデッパに直撃し、アルデッパは吹っ飛ばされる。
「……ここまでか」
湖の岸辺まで吹っ飛んだアルデッパは完全に戦闘不能だ。
「よくやったな……戻れ、アルデッパ」
「君もだよ、マイエンプレス。戻ってくれ」
フォレスは戦闘不能となったアルデッパを、ロキは見事に勝利を収めたクレセリアを、それぞれボールに戻す。
「さて、俺はあんたに負けちまったわけだが——」
「別にいいよ、どこへなりとも行ってきなさい」
「あ?」
ロキに言葉を遮られ、しかもこちらの言おうとしたことを先読みした返答に、フォレスは一瞬戸惑う。
「『俺を国際警察に引き渡す前に時間をくれ』とか、そんなことを言いたかったんじゃないのかな? まだ君らの組織でやり残したことがあるとかでね」
「こっちの言いたいことは全部お見通しかよ……ったく、本当によく分かんねえ奴だな、あんた」
大きく溜息を吐くフォレス。
「そもそもボクは君らを捕まえるのが目的じゃないしね。この戦いを収束させることが、前世代の英雄としての最後の仕事だからさ」
「そうかよ。だったらお言葉に甘えさせもらうとするか」
と言うと、フォレスはクルリと踵を返し、ロキに背を向け、森の奥へと消えていった。
「……さーて。それじゃあボクも行くとしようかな」
そしてロキもまた、フォレスと同じように森の奥へと姿を消す。
空を見上げれば、森林を覆い尽くしていた雨雲は、もう晴れていた。
フォレスが最初に向かったのはプラズマ団の居城。その地下だった。
「たぶんそろそろあの人の戦いも終わってるはず……頼むから、勝ってくれよ、暴君……!」
自分の戦いよりも真剣な眼差しで、フォレスは地下牢獄へと降りる。そしてレイが戦っているはずの部屋の前の扉まで来たが、そこには既に先客がいた。
「お前、なにしてる」
「っ、フォレス様……!?」
その先客とは、レイが抱える直属部下、サーシャだった。持ち場を離れているところを見ると、恐らく負けて来たのだろう。
「私はただ、レイ様の様子が気になって……最近、体調が優れないようでしたので……」
その他にもなにかあり気なサーシャだったが、フォレスは深く追求しない。
「あっそ。なら俺と同じだな。で、あの人はどうなってる?」
「今から確認するところです」
と言って、サーシャは音もなく扉を少しだけ開いた。二人で中を覗き込むと、ちょうどレイと、やはり彼女と戦っていたらしいザキがそこにいた。
バトルはもう終わっているようだったが、勝敗は分からない。ただ分かるのは、レイが必至にザキに詰め寄って、ザキが困り気な表情を見せていること。その距離感は、やたら険悪だった二人にしては近く感じられた。
声まではよく聞き取れないが、その光景を見てフォレスは安堵の溜息を吐く。どうやら彼女は自分よりもずっと良い相手を見つけたようだ。
だが、そんなフォレスとは対照的に、サーシャは険しい表情をしている。
「なに怒ってんだよ、お前」
「怒ってなどいません、理解できないのです。なぜレイ様は、あんな男に……!」
サーシャは扉を蹴破って飛び出そうとする——が、それをフォレスが制止した。
「やめろ」
「な……離してください。フォレス様はこれでいいんですか? あなたは、レイ様のこと——」
「好きなんじゃないんですか? とかほざくんじゃねえぞ」
いつになく鋭い眼差しで、フォレスは射貫くような視線をサーシャに浴びせる。その言いようもない気迫に、サーシャはたじろいでしまった。
「俺はな、世界には絶望しかないと思い込んでたあの人に、この世界にも幸福があることを知ってほしかったんだ。俺がそうであったようにな。そのために色々やって、果てには7Pになんかなっちまったけど、どうやらあの人が求めてたのは違うもんらしいな。結局、俺の出る幕じゃなく、あの人をどうにかしてやれるのはあの暴君しかいなかったわけだ」
だから、とフォレスは続けた。同時に貫くような眼差しで、睨み付けるようにサーシャを見据える。
「あの人が一度掴んだ幸せを壊すような真似をするなら、俺は全力でお前を止めるぞ」
「っ……!」
もう一度、レイとザキを見遣る。
レイは、不器用ではあるが、プラズマ団では一度も見せたことのない、笑顔を浮かべていた。
「……くっ」
歯噛みし、苦い表情を浮かべたサーシャはその場から駆け出し、闇の中へと消えていった。フォレスは静かにそれを見つめ、やがてそっと扉を閉める。
「……こっちは大丈夫そう、か。頼んだぜ、暴君。俺にはできなかったこと——あの人のこと、お前に託した」
そう呟いてから、フォレスも牢獄から、そして城から出た。
「フォレス様!」
フォレスが城から出てすぐ、聞き慣れた声が耳に届く。声の方向に目を向けると、こちらに向かって走って来る人影が一つあった。
「……お前か、ティン」
それは、フォレスが抱える唯一の直属部下、ティンだった。
「ここにいるってことは、負けたんだな」
「あぅ。そ、それは、急に雨が降ったからであって、それまでは私が優勢で——」
図星を突かれて取り乱すティン。それに対してフォレスは、
「ああ、分かったからもう言うな。俺も負けてここにいるから、気にすんな」
と言ってティンをなだめる。
「だが、負けてもなんでも、ちょうど良いところ来たな。お前には、ちゃんと言わなきゃいけないことがあるんだ」
「え……?」
ティンは呆けたような、しかしそれでいてどこか期待するような眼差しを、フォレスへと向ける。フォレスはそんなティンを見て、胸の痛みを押さえながら、告白した。
「俺は、お前の気持ちは受け取れねえ。だから俺のことは諦めろ」
「……え?」
同じ言葉。呆けたようなティンの声。しかし今のティンは、何を言っているのか理解できない——否、しなくないと言っているかのようであった。
そんなティンを慮ることもなく、フォレスは続ける。
「この際だから正直に言うがな、俺は女に男として好きだと言われたことが今までなかった。だからお前と初めて出会った時に告られたのはかなり衝撃的で戸惑ったが、同時に嬉しかった。ま、ちっと過剰なのが玉に瑕か」
呆然とフォレスを見上げるティン。何か言いたそうにしているが、言葉が出て来ないようだ。フォレスは構わず、さらに言葉を紡いでく。
「別にお前が嫌いだってわけじゃねえ、むしろ好意的なつもりだ。俺はお前の告白で、お前をただ一人の直属部下にしたんだ。だが、それでも俺じゃあ、お前の気持ちは受け取れねえ。それに、俺にはまだやることもある」
「あ、う……で、でも、だったら——」
ピッと。
フォレスは人差し指の先をティンの額に押し付け、迫ろうとして来るティンの動きを制止する。
「そういうことだから、忘れろとは言わねえが、俺のことは諦めろ」
フォレスの言葉を受け、ティンは一歩、また一歩と後退していき、やがて俯いたまま停止した。
「う、うぅ……そんな……」
そして、涙声を漏らす。フォレスはそんなティンを一瞥してから、彼女の横を通り過ぎる。
「……悪い」
フォレスはこれで懸念ごとを概ね消化した——が、まだ一つ残っているものがある。それはフォレスにとってとても大きなもので、いざ対面するとなると、尻込みしてしまう。
(くっそ、覚悟は決めたつもりなんだがな。情けねえぜ)
自分で自分を非難しつつ、フォレスは過去の少女を思い出していた。自分がこの世界の幸福を知る、契機となった少女を。
(あいつがいたからこそ、今の俺があるんだよな……あの人をどうにかしようと思ったのも、あいつありきだ。こうして思い返してみれば、あいつを拾ったのは俺なのに、あいつ中心で俺が回ってやがる)
心の中でそんなことを呟きながら、フォレスは重い一歩を踏み出し、前へと進む。これで最後、これでなあなあの関係も終わりだと、自分に言い聞かせながら。
「……?」
しばらく歩いていると、前方に人影が二つ見える。一つは英雄の弟子である少女。そしてもう一つは、その少女に支えられている——
「っ——!」
驚愕した。支えがあるとはいえ、彼女が自分の足で立って歩いているのだから。
だが、それ以上に、
(向こうから、来ちまった……)
自分が情けなくなってきた。こちらから出向くはずだったのが、向こうから来てしまった。自分よりもずっと幼い少女に、先を越された。
「……まあ、いいか」
きっと自分たちの関係は、そんなものなのだろう。
対等でも平等でもないが、優劣もない。言葉には表せないが、助け合い、が近いだろうか。
なんにせよ、これで彼女との関係も正される。それだけで、満足だった——